第24話 家族会議
イランでは不倫や姦通罪は死刑執行に値する重罪である。だが、イランは一夫多妻制を認めており男性には割と寛容である。
この様な死刑執行の多い国からやって来た姑オズラーに睨まれてしまった昭子は、女中首宣告を受けてしまった。
理由は可愛い息子深水に手を出したからである。
姑オズラーは、ある日とんでもない光景を目にする。
女中の昭子が深水のアトリエに入って中々出て来ない。
(まあ、綺麗なお嫁さんがいるのに、あんな……とうが立った年増の女なんか絶対にないとは思うけど……)それでも心配になりアトリエの扉を開けたオズラーは、朝っぱらから濃厚な口づけを交わしている深水と昭子の姿を見て、頭に血が上った。
イランでは既婚者との性的関係は犯罪とみなされており、鞭打ち100回の刑に値
し、場合によっては投石による死刑に処される。
※投石による死刑:下半身を生き埋めにして、身動きが取れない状態の罪人に対し、大勢の者が投石を行い死に至らしめる処刑法。 処刑の中でも最も苦痛が多いとされる。 罪人が即死しないよう、握り拳程度の大きさの石打ち用の特別な石を山盛りに準備しておく。また、妻が強要されて行為を行ったことを夫が認識している場合は、夫は強姦相手のみを殺すことを許される。
この様にイランは特に姦通罪などは厳しく罰せられる。
「昭子さん汚らわしい!イランでは 既婚の男に手を出したら即刻死刑よ。出て行きなさい!」
深水は母が入ってきたのも気づかず夢中で行為に及んでいたので、どうして良いか分からない。
只々ばつが悪くてその場に立ち尽くすだけだった。一方の昭子は「すみません。とんでもない場面をお見せいたしまして!」 そう言うと一気にアトリエから逃げ出して行った。
★☆
深水は妻香織が帰ってきたら益々話がややこしくなると思い、母が出て行ってチョットしてから、母の元に行き全てを話した。
「ママ……実はね……言いにくい事だけど……実は……女中の昭子の事だけど……昭子とは香織と結婚する前からの……その……関係だったんだ。だから……追い出そうにも……追い出せないって事なんだよ」
「ええええええっ!って事は……な~んだ。そうだったの?それだったら全然問題ないわよ。イランでは一夫多妻制が普通だから……」
こうしてその話は一件落着した。
今までは只の使用人、女中という扱いだったが、一気に見方が変わって姑のオズラーは急に態度が優しくなった。
それはそうだろう。イランでは第2夫人にあたる昭子に対しての扱いも変わって当然の事だ。
今までは姑オズラーと妻香織が組んで弱い立場の昭子を攻撃していたが、最近は香織と昭子を平等に扱うようになったオズラーに、昭子はオズラーに家の問題を包み隠さず話すようになった。
★☆
一難去ってまた一難。やっと姑オズラーと仲良くなれたというのに、そんな時に事件は起きた。それはオズラーの兄が亡くなった連絡を受けて、オズラーが故郷イランに帰省している時に起きた。
いくら犯罪者だからといっても、愛するたった一人の兄が亡くなったと聞いて行かない訳にはいかない。それから犯罪者といっても、もう10年近く経過していたが、今まで警察に付きまとわれた事など一度もなかった。こうして気が緩んだオズラーはイランに帰った。
兄の葬儀にも出席して日本に帰ってきたオズラーだったが、帰って来る早々に昭子が、意味ありげな顔でオズラーを部屋に呼んだ。
それも丁度香織のいない時間帯に、何があるというのだろうか?
「お母さまチョットこちらに来て下さい」
そう言うと。帰って来るなり昭子が自分の部屋にオズラーを招き入れた。丁度香織はフィットネスクラブに出掛けている時間帯だったが、それでも昭子は深水に強く口止めされていたので、深水に聞かれては不味いと思い部屋に引き入れたのだ。
昭子にすれば香織が邪魔で仕方がない。姑オズラーも第2夫人と認めてくれている今の内に香織を追い出したい。オズラーも認めてくれているこのチャンスを逃したくない。姑オズラーさえ味方につければ半分勝ったも同然。
それは深水は母の言いなりで、母のいう事なら何でも聞くからだ。この好機を逃したら大変。そう思いオズラーに事実とは異なる事を伝えた。
「お母さま実は……お母様がいらっしゃらない間に、香織さんが若い男を引っ張り込んで行為に及んだので御座います。それも深水の絵のモデルの学生を色仕掛けで誘ったのでございます。深水が骨休めにパチンコに出掛けたのを良い事に、深い関係になったのです。それも相手が香織さんより年上だったらまだ分かりますが、20歳も年下の男に手を出したのでございます。香織さんはこっちが犯されたのだと言っているようですが、絶対に違います。あんな若い子が自分からは行かないと思いますよ。ましてや強姦なんて……色仕掛けであの色っぽい香織さんが誘ったのだと思います」
「本当にそうよね。若い子がおばさんなんか相手にしないわよね。どんな仕返しが待っているか分からないので怖くて近づかないわよね?本当にふしだらな嫁だ事。絶対に許せない!」
イランでは女は姦通罪は重罪で最も重い刑に処される。それは投石による死刑だ。姑オズラーは怒り狂った。
「昭子さんそれはイランでは到底許されない事です。何とかしなくては?」
「お母さまそんな嫁ではダメでしょう。追い出すってのはどうですか?」
★☆
その夜家族会議が開かれた。この頃幸子は中学生の夏休み期間を利用して、アメリカに絵画短期留学をしていたので家にいなかった。
招集したのは姑オズラーだった。
「なんだよ!ママ俺今忙しいのに……何だい」
「チョット座りなさい。話があるのよ」
「お母様ご用は何でしょうか?」香織もやって来た。
そして…最後に昭子がお茶を運んで来てテーブルを囲んでの話し合いが始まった。
何故特に女性に対してイラン刑法は、不倫や姦通罪に厳しいのかというと、生活の至るところがイスラムの教えの通りにしないといけなくなっている。男女双方にとっての「神に対する罪」とする理由ある。
イランでは宗教上、婚前交渉が禁止。ホテルに婚前交渉している男女がいないか警察が「パトロール」する厳重ぶりだ。
だから……ホテル側もトラブルを避けて多くの宿主が「怪しいな」と感じたら宿泊を拒否する。
この様な理由からオズラーは香織の事を到底許す事が出来ない。
「私は憤慨しているの。香織さんあなた!深水の絵のモデルの学生さんと不倫しているらしいわね。それって絶対に許されない事。イランでは即刻死刑。それも重罪で投石による死刑に処されるのよ。私絶対に許せない!深水この卑しい女と今すぐ別れなさい」
「嫌だヨ!違うんだってば、学生が香織を襲ったんだってば!」
「だって昭子さんがそう言ったので……昭子さん何でそんな出まかせを言ったのですか?」
「それでも……それって香織さんに隙があったからじゃないですか?私もあの学生に注意したのです。奥様に何てことするの。このクズ!って言ってやったのです。するとその時に、その学生が私に言ったのです。『違うのです奥様が今度弟の息子に会うのでお土産にオモチャが欲しいんだけど、うちは女の子でしょう分からなくて?もし暇な時間があったら一緒にお店に行って選んで下さらない?』そう言って僕の目を見詰めて手をぎゅっと握りしめられたのです。僕は元々奥様に憧れていました。そんな憧れの人に見詰められて2人しかいない空間で頭が真っ白になって自分が何をしたかさえも覚えていないのです。ぅうう(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭こう言ったので御座います。私は確かに襲った方も悪いですが、20歳も年上の女性が本当ならば導く立場の女性が、軽はずみ過ぎます。若い子が興奮するのは分かり切った事なのに……」
「香織お前という女は……それでは襲ってくれと言っているようなもんじゃないか?」
「本当にそうです。香織さん軽はずみ過ぎます。こんな事をしたらイランでは即刻死刑執行。だから今すぐ別れなさい!」
「ママそう簡単には行かないさ。娘の幸子だっているし……あの時の一部始終は俺はこの目で見たが、香織は必死に拒絶していた。だから夫婦の問題に口突っ込まないで」
「でも……でも……香織さんでは……また同じことを繰り返すわ。絶対別れなさい!」
「うるさい!そんなこと言うんだったらおふくろ出ていきなよ!」
「なんて親不孝者なの。私は深水の事を思って言っているのに……それより昭子さんあなたも香織さんを非難ばかりしていないで言い方考えたら……」
この揉め事から事態は悪化の一途を辿っていく事になる。
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