抜け毛から始まる異世界生活 〜俺がハゲるまでに日本に帰れるのか?!〜

酸化酸素 @skryth

第1話 終わりの直前

 日本人の髪の毛は約10万本と言われている。(諸説あり、異論も認める)


 中には薄毛に抜け毛、どこかの国民的アニメの大黒柱のように頭のてっぺんに1本だけとか、それこそストレス社会の影響で5円ちょこ大のハゲになってしまう病気もある……が、基本的には髪の毛は頭を守る最後の砦と言えるのだろう。


 そして、この俺。禿頭とくとう一護まもるは、まだ18歳の若さでありながら、なんの因縁があってか知らないが、異世界にしまった。

 俺は無理やり連れて来られたのだから、モチロン元の国……日本に帰る事を望んだ。


 その一方で、この異世界に於いて力を行使すると髪の毛が失くなると言う話だった。その衝撃の事実に愕然としながらも、日本に帰る為に俺は魔王とやらを退治する事になったのだった。



「しっかし、どう言う事だ?魔法を使うと一回に100本髪の毛が抜ける?剣を振るうと一振りで10本」


「それは違いますよ、一護様。魔法を使うとではなく、魔法の階梯かいていによって抜ける量は変わります。100本抜けるのは第二階梯の魔法です」


 俺は一人の女性と連れ立って歩いていた。魔王討伐を果たす為、俺に与えられた仲間だ。魔王を倒す為の仲間が一人だけってのに異論しか無いが、魔王軍とやらの植民地になっている人間諸国では費用を捻出出来ないらしく、一人の仲間を付けてくれただけでも「有り難いと思え」だそうだ。


 ちなみに、この女性の名は……名は……名……。うん、流石に今さら「君の名は?」とか聞けるワケもなく、最初から名前を教えてもらってなかった事に気付いたのは旅に出てから暫くしてからだ。

 名前なんぞ知らなくても、代名詞を駆使すれば呼び掛ける事は出来る。女性を名前で呼ぶ事に抵抗感のあるお年頃ってヤツだ。そもそも日本にいた頃に女友達なんざ一人もいなかったし、カノジョがいた事もない。だから、抵抗感バリバリ過ぎて普通に話すだけで身体が震える。

 だから正確には代名詞を駆使しても話し掛けられず、俺の独り言に反応して会話が二言三言ふたことみこと成立してるように見えてるだけだった。



 旅の途中、特にモンスターと呼ばれる化け物や、魔物と呼ばれるクリーチャーなんかに遭遇する事も無く、ただひたすらに魔王城に向けて歩いて行く事が出来た。

 とは言っても……だ。俺が国王から与えられた装備は棍棒一振り。剣を振るうと髪の毛が失くなるって聞いたから棍棒を貰ったとか、そう言うコトじゃあない。

 まぁ、髪の毛は大事だよ?でも棍棒で魔王討伐とか正気じゃないと思うし、髪の毛以上に命は大事だと思ってる。

 ただ、今更「剣が欲しい」なんて言える状況でもない。



「一護様、あそこに見えるのが魔王城でこざいます。一護様……私は命より大事な女の髪を犠牲にしてでも……ま、魔王とちゃんと戦いますから安心して下さいね」


 ここに至るまで、ほとんど会話が成立して来なかったのだから、この女性のセリフに対しても会話が成立出来る語彙力など皆無なのだが、「命より大事な女の髪を犠牲に」と言われると「棍棒じゃなくて、剣にすれば良かったかな」なんて思ったんだが、それはそれ、これはこれ。



「よく来たな。人間の小僧。キサマが勇者か?」


 。明らかにおかしい。人間の国を植民地にしているという事は、自分を狙って来る刺客がいないだろう。

 それなのに、俺達の進路を妨害する事なく、旅の途中で俺達に対して暗殺者を差し向けるでもなく、こんな目の前まで接近を許す事が普通じゃ考えられない。

 更に付け足すなら、俺の事を魔王は「勇者」と呼んだ。対戦相手が「勇者」なら警戒して余りあるハズだ。それなのに魔王は護衛すら付けず単身で俺達の前にいる。


 明らかにおかしい。


To be continued

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