第43話 ファンレター
「あ、これ俺のやつですよ!どれどれ……"めっちゃカッコよかったです!頑張って下さい"だって!くぅぅ〜!!」
『な?配信して良かったろ?』
「はいっ!すごいモチベ上がりました!」
────大会に着々と備える中。
俺たちは"チーム練習の公開配信"を行った。
最初は過去の一件───河島さんの無断のチーム練習配信の炎上で、チームでは俺含め反対派が多かったが、今回この決断に舵を切ったのは二つ理由がある。
まず一番の目的は──名声の底上げだ。
河島さんのせいと言うべきか、おかげと言うべきか、俺たちのチームは世間の注目の渦中にある。
なんたって、あの河島さんに、謎の天才コトねこ、アマチュアヒューマン最強のみっちーが集結したチームだ。
今一番熱いチームと言っても過言ではない。
もしかしたら、伝説の始まりをこの目で見れるかもと、好奇の目を寄せられているのが現在の状況だ。
だが───決して、良い見られ方だけのハズがない。
河島さんの無断配信で、俺たちは散々お気持ち表明を頂いた。
やれ、下手くそだの、スポーツマンシップのカケラもないだの、『Morganite』の病床だの。
誹謗中傷混じりのDMさえ頂いた。世間からの評価は、とてつもなく厳しいものだった。
もちろん、「シャール杯」の一件で株が上がったのは事実だ。
プロチームHD相手に必死に食らいついた結果、思わぬ反響を呼んだようだ。
プロに肉薄できる実力チームとして、世間では大いに盛り上がった。
けれど、批判的な意見はまだ多い。
というか、そもそもの原因は河島さんたちにある。
河島さんは熱心なファンもさることながら、その実アンチも多数抱えている。
みっちーも気さくで人気は厚いが、煽りをよく思わない人はもちろんいる。
kS1nや太郎は言うまでもない。この二人をブロックや忌避してるランカーは数知れない。
そんなこんなで、配信でチーム練習を公開配信するというには、慎重にならざるを得なかった。
最初の話に戻るが、それでも公開配信に踏み切ったのは、名声がどうしても必要だったからだ。
俺たちのチームを一番邪険にしてるのは誰か?
それは言うまでもない。
────「MJL」の大会運営だ。
河島さんたちは運営からしたら、手の付けようのない厄介者だ。
当然良い目では見られていない。
ランクマなど普段は目を瞑っているが、『MJL』になれば話は変わってくる。
日本で一番大きな大会。
その大舞台でスポーツマンシップに欠ける行為でもされたら、運営目線たまったもんじゃない。
───一番恐れている可能性。
それは、"運営が俺たち「Crazy Daemons」を大会出禁にすること"だ。
そうなれば、今までの努力は水の泡。
それだけは避けねばならなかった。
ここで───名声がいる。
名声があるということは、人気ということだ。
俺たちがいい意味で名声を集めれば集めるほど、運営は俺たちを出禁にしづらくなる。つまり、名声を集めることこそ、大会出禁の可能性を潰せる唯一の策だった。
小狡いやり方だが、もし俺たちが大会に出れば、その分観客も盛り上がり、同接も激増すると運営も判断するハズだ。
着地点としては、お互いにwinwinの関係になれると思っている。
だからこそ、とにかく出禁を回避するために、名声が俺たちには必要だったのだ。
───話を戻そう。
公開練習の目的はもう一つある。
こっちはついで程度だったが、思わぬ誤算を生んだ。
それは───モチベーションの向上だ。
俺たちはあの悔しさを糧に、厳しい練習を耐え抜いてきた。
だが、俺たちはそれだけでやり切れる崇高な存在ではない。
パフォーマンスが伸び悩めばメンタルにクるし、ミスをすれば落ち込む。
どんなに小さくても、日に日に全体のモチベーションが落ち込めば、流石にこのままではいけないとみんなも気づいていた。
結果、俺たちは先日チーム練習を公開配信し、固唾を飲んでどんな反響を呼ぶか見守っていたのだが…………。
結論から言えば────大成功だった。
同接30000超えの大記録。
SNSのトレンドに乗るほど、その日は俺たちの話題で持ちきりだった。
(俺はいまだに現実みがないんだがな……)
まさか自分が有名人になるなんて、思ってみたこともなかった。
まだ頭の中がふわふわした感じだ。驚きこそ無いものの、違和感みたいのが拭いきれなくて落ち着かない。
それはさておき、嬉しい誤算だったのは───ファンレターが届いたことだ。
それも大量に。河島さんに直通された手紙から、配信のコメント、DMまで、たくさんの応援の声を頂いた。
"「シャール杯」で初めてやきとりさん見てファンになりました!"
"チームがいきいきしていて河島さんも楽しそう!これからも頑張って下さい!"
"初めてやきとりさんのプレー見ましたけど、すごい大胆な攻め方ですね。見ていてわくわくします"
他にもたくさんのメッセージが送られてきた。
こんなコト経験したことがなくて、最初は困惑した。
だけど───今は心の芯がぽかぽかした気持ちで満ちている。なんとも不思議な気分だった。
批判だけだったりだったらどうしようと考えていたのが嘘みたいだ。
こんなに応援が届くなんて、俺は泣きそうになるほど嬉しかった。
間違いなく練習へのモチベーションは向上した。
それはもちろん、俺だけじゃない。
『………ん、すごく温かいメッセージだった。私、これからも頑張りたい』
『やる気百倍、いや千倍や!やっぱりいいな、こういうの!貰うとめっちゃ嬉しい!!』
『……まあ、悪くはないな』
『kS1n応援されるなんて中々ないからねー。素直じゃないなぁ』
『はたき飛ばすぞ太郎』
『事実じゃーん』
「"突然失礼します!やきとりさんの声素敵です!まわりのことに気を遣ってたりとか思いやりに溢れていて好きになりました!これからもファンとして応援していきたいです!"。………嬉しいなぁ」
『お前はやかまし過ぎだ。いつまで浸ってやがる』
『うへぇ。やきとりがボケに回ったら収集つかなくなっちゃうよ〜ん』
『で、どこを縦読みするんだやきとり?』
人が悦に浸っているのに水を差しやがって。
こちとら言葉で言い表せないくらいめちゃくちゃ嬉しいんだからな。
『お前らよくやったな。同接とスパチャで俺の懐はホクホクだ。苦しゅうないぞ』
河島さんが満足そうに顎をさする。
「やっぱり河島さんは数字が目的だったんですね……」
『あ、河島さん。配信見返したら俺当てへのスパチャありましたよね?今度下さいよ』
『チッ……めざとい野郎だな』
『長所ですんで』
「でも、やって良かったですよ。まさかこんなに好反応を貰えるなんて……」
『……だからって、油断して煽りと暴言すんのはマジでやめろよ。分かってるな?』
河島さんが釘を刺す。
「もちろんですよ。これからは応援してくれた人たちの期待に応えたいですからね。練習頑張って、絶対リベンジ果たして。……なんなら優勝だって目指しちゃいましょう!」
『……………』
突如、河島さんが推し黙る。
(やばい、少し調子に乗り過ぎたかな……?)
『………優勝、か』
河島さんが独り言のように呟いた。
「河島さん………?」
『……大会予選まで残り一週間を切った。つまり、こっからは伸び代よりも調整を優先する期間だ。パフォーマンスを下手に伸ばすより、今までのを安定して出力できるように、こっからはしなければならない。───言い換えるなら、現時点での実力がほぼ大会で出せる全力のパフォーマンスと同義ということだ。現状、コトねこは新たな切り札を手に入れ、ヒューマンも「シャール杯」の頃と比べても次元違いに上達している。俺は言わずもがなだな。
───ここで、一つ。最後の確認テストを行おう』
「確認テスト……?」
『今一度、あのクソ雑魚だった頃とは違うと俺に証明しろ。───俺の「血炎の皇帝」と戦え』
「………っ!!」
河島さんの最強モンスター「血炎の皇帝」。
河島さんが「魔王」と呼ばれ、畏怖される所以。
練習でも、俺たちヒューマンはついぞ勝利出来なかった存在。
それと戦うなんて…………。
『なーに、そんな難しいコトは言わねぇよ。テストは簡単だ』
嫌な予感がする。
だが、その予感から決して目を逸らしてはならない。
『俺の「血炎の皇帝」と戦って、勝ってみせろ。それが出来なきゃ────── 「Crazy Daemons」はここで解散だ』
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