第101話 久々の学校と、クラスの現状
翌日は、朝から
そして決めた。WMUに入ろうと。
夕方ごろシャルの家に寄ると、彼女の報奨金を僕の両親が預かる件についての契約書が届いたという事だったため、そのまま僕の実家に向かった。
すでにお義父さん側でも、両親とシャルとの間で交わす契約書を作成してくれていた。
その日のうちに詳細を詰めて、翌日には僕の分も含めて銀行に預けた。
預金限度額があるため、いくつかの銀行を回った。
「本当にありがとうございます」
手元に残した分を除いて全額を預け終えた両親に対し、シャルは何度も頭を下げた。
「そんなに
お義父さんが苦笑した。
預けてもらう代わりに報奨金の一部を支払う——。
シャルがそう言って聞かなかったのだ。
両親は何度も固辞していたが、シャルがどうしてもと土下座すらしそうな勢いで頼み込んだため、最終的には折れた形だ。
「私も頑固な方だと思っていたけど、シャーロットちゃんには負けるわ〜」
お義母さんがのほほんと言った。
シャルが「すみません……」と恥じ入っている。
昨日の自らの剣幕を思い出して、羞恥に
銀行から帰ってきた後、僕は両親とシャルにWMUへの入隊を決めた旨を伝えた。
「怪我だけはしないようにね」
「いっぱい学んできなさい」
「ノア君がしっかり考えて決めた事なら、私は応援するだけです」
三者三様のコメントとともに、全員が背中を押してくれた。
僕は恵まれているな、本当に。
「活動頻度はどうするんだい? 明日から中学校も始まると思うけど」
お義父さんが尋ねてきた。
「基本的には自由だから、課題の
その方が他の隊員からの心象も良くなって、色々とやりやすくなるだろう。
「放課後は遅くまでかしら?」
「ううん、そんなに遅くなる気はないよ。夕飯までの帰宅を目指すって感じかな。ただ、シャルの家に寄ったりもするから、これまでみたいに夕方に帰るのは難しくなると思う」
「わかった。前日までに予定を伝えておいてくれる?」
「うん。そうする」
その他の細かいルールや約束事を取り付けた後、少しゆっくりしてからシャルを自宅まで送り届けた。
夕食は、数日ぶりに家族三人で囲んだ。
◇ ◇ ◇
「ノア君、シャーロットさん」
シャルと並んで校門をくぐっていると、背後から声をかけられた。
クラスメートのアッシャーだった。
これまでにも男子の中では一番仲良くしていたけど、シャルと並んでいるところで声をかけられたのは初めてだ。
「あけおめ、アッシャー」
「明けましておめでとうございます」
「うん、あけおめ。二人とも、体調は大丈夫?」
「えっ? あぁ、うん」
「もう大丈夫ですよ」
そういえば、冬休み直前に風邪ひいた事になってるんだよね、僕たち。
色々事情が複雑だったから、誤魔化した形だ。
「そっか、よかった」
安堵の表情を浮かべると、アッシャーは「それじゃあ、また」と離れていった。
カップルの邪魔をするべきではないと思ったんだろうな。
「相変わらずいい奴だなぁ」
「そうですね」
その後もサミュエルに声をかけられたり、僕が彼やアッシャーと教室で話している時にハーバーが緊張した面持ちでシャルに話しかけていたりと、これまで以上にクラスが僕らを受け入れてくれた。
反対に、これまでクラスの中心だったジェームズの取り巻きたちは、一様に居心地が悪そうにしていた。
頭のジェームズは退学処分になってしまい、その彼女だったアローラもいないため、仕方ないだろう。
アローラは終業式も欠席していた。
エリアは体調不良で休んだみたい、と言っていたが、話を聞いてみると、どうやら一週間の
「ジェームズは退学、アローラは一週間の謹慎って、結構差があるよな」
サミュエルが不満そうに言った。
「アローラさんもジェームズ君に脅されていたのかもね。あぁ、もちろん、だからと言って彼女を擁護するわけじゃないよ?」
「わかってるよ」
アッシャーが慌てたように付け加えたので、僕は気にしていないよ、と一つ頷いてみせた。
「まあ、学校としても一気にAランクが二人いなくなるのも困るだろうしね」
「結局そういう事なんだろうな」
サミュエルが吐き捨てるように言った。
アローラの罪が存外軽かったのが許せないらしい。
まあまあ、と肩を叩いて
また、ジェームズとアローラがいないだけでなく、その二人を旗印に一派を取り仕切っていたレヴィとイザベラも、シャルの恐ろしさを目の当たりにして以来、すっかり縮こまってしまっている。
結果、クラスは見事なまでに二分してしまっていた。
決して褒められる状況でない事はわかっていたが、僕は自らアクションを起こす気にはなれなかった。
長いものに巻かれていただけとはいえ、僕やその他の低ランクのクラスメートをいじめていた人たちと、仲良くしようとは思えなかった。
普段の学校生活は、それでも支障はない。
仲の良い、仲良くしたい人たちと固まっていればいいからね。
けど、そうも言ってられないイベントが一ヶ月後に控えていた。
一月下旬の定期テスト直後に控える、三年生恒例の魔法強化合宿だ。
「確か合宿の部屋割りって、学校が決めるんだよな」
「先輩はそう言ってたよね」
「だよな。場合によっては地獄の空気になるぞ」
「それはさすがに学校も配慮してくれるんじゃないかな」
サミュエルの懸念に、アッシャーが自信なさげに返した。
「今日は授業はないが、一ヶ月後に控えている魔法強化合宿について軽く説明しておくぞ」
始業式を終えた後、担任の先生から合宿の資料が配られた。
何気なくペラペラとめくり、
「……へえ」
部屋割りについて、興味深い文言が記載されていた。
部屋割りにおいては、男女それぞれ大部屋が二つずつ与えられる。多少人数の
「まず間違いなく、学校側の配慮でしょうね」
「だね」
シャルの言葉に、僕は頷いた。
学校帰り、シャルの家に直行した僕たちは、昼食を食べながら合宿について話していた。
シャルが学校側の配慮と指摘したのは、合宿の部屋割りが自由になった事だ。
「でも、たかが部屋割りとはいえ、これまでの慣習を変えるって、学校も結構思い切ったよね」
「おそらく、ノア君の影響が大きいですよ」
「僕?」
「ケラべルスを倒した事で、ノア君が私や他のAランクの生徒と比べても頭一つ分以上は抜け出している事が証明されました。それほどまでの力を持っている生徒には、学校側も気を遣うはずです。WMUに入った事も、上の人たちはつかんでいるかもしれませんし」
「なるほどね」
可能性としてはあるかもしれないな。まあ何にせよ、自由にメンバーを決められるのはありがたい。
ジェームズ一派とそうでない人たちは、人数的にもほとんど半々であるため、男女ともにちょうど二部屋に分けられるのだ。
クラスの溝は深まったままになってしまうが、卒業まで二ヶ月ほどしかない。
これ以上の問題が起きないならそれでいいや——。
この時の僕は、そう思っていた。
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