第91話 お泊まり① —イチャイチャ—
四人で遅めの昼食をとった後、僕とシャルは彼女の家に向かった。
というより、両親に車で送ってもらった。
今日はそのまま泊まるつもりだ。
本当は昨日お泊まりする予定だったが、
帰宅して少しまったりした後は、二人で掃除をした。
言い出しっぺはシャルだ。
「少し前まではあんなに嫌がってたのにね」
「綺麗にする事の楽しさに気づいたのです。こまめに掃除しておけば、毎度大掛かりな事をする必要もなくなりますしね」
「それが掃除のコツだよね」
「はい……あぁ、ありました」
机の上を整理していたシャルが、何かを取り上げた。
「何があったの?」
「魔法師カードです」
「常に持っておきたまえ。無駄な争いを避けられるから」
「自分も忘れた割には偉そうですね」
あえて上からものを言えば、シャルは注文通りのツッコミをしてくれた。
「僕はいいんだよ。そんなに使う機会ないから。でもシャルは可愛いんだから、僕がいない時はすぐナンパされるでしょ? 変なトラブルに巻き込まれないためにも持っておかなきゃ」
少し真面目に注意をすると、シャルが頬を染めて「すぐそういう事を言う……」と唇を尖らせた。
未だに可愛いって言われ慣れないところとかが可愛いんだけど、それを言うと拗ねそうだからやめておこう。
「ですが、そうですね。なるべく持ち歩くようにはします」
「うん、お願い。でも、もしそれでも変なのに絡まれたりしたら、ちゃんと僕の事を呼んでよ」
「はい」
僕らは互いに二枚貝の片割れを見せ合った。
契り貝。かつてシャルがくれた、貴族の女性が婚約者に送るものだ。
魔力を込めると、対になっているもう一つの貝が反応する仕組みになっている。
本来なら愛を確かめ合うための道具らしいが、魔力を込めると相手の位置がなんとなくわかるため、救援要請の道具としてシャルから渡されていた。
「大丈夫です。これを忘れた事はありませんから。ノア君も忘れないでくださいね?」
「忘れるわけないよ。契り貝の本来の用途を考えたらさ」
「っ……!」
シャルがポッと頬を染めた。
しどろもどろになりつつも、言い訳するように言う。
「あ、あの時はそんなぷ、ぷ、プロポーズのつもりでは渡していませんからね⁉︎」
「わかってるよ。でもさ、あの時も本当に防犯のためだけだった?」
「っ〜!」
シャルが耳まで真っ赤にして、顔を背けた。
そして、流し目で睨みつけてきつつ、拗ねたような口調で言った。
「……わかっているくせに、聞かないでください」
「っ……」
あぁ、もう、可愛いなぁ!
愛おしさが限界突破したため、取りあえず抱きしめておく。
「シャル、大好き」
耳元で
そして、背伸びをして僕の耳元に口を近づけ、
「私も大好きですよ、ノア君。というより、私の方がずっと前から好きだったんですから」
ちょっぴり不満げに、いじらしい事を言ってくれる。
たまらず後頭部と背中に手を回し、僕の胸に顔を押し付けさせるようにして抱きしめた。
十秒ほどそうしてから、体を離して向かい合う。
シャルは頬を上気させ、潤んだ瞳に緊張と若干の期待を浮かべていた。
これから僕のしたい事は、わかっているのだろう。
「……いい?」
それでも一応確認を取ると、シャルは一層頬を染めつつも首を縦に振り、顎を少し持ち上げた。
再び後頭部に手を添えれば、シャルは僕の肩に手を置き、そっとまぶたを閉じた。
わずかに隙間の開いた彼女の唇に自らのそれを押し当て、柔らかさを堪能する。
何度か唇が触れ合うだけのキスをした後、少し唇を尖らせて、チュッとリップ音を立てさせてみた。
驚いたのか目を見開くシャルに、短い間隔で何度もキスを落としていく。
シャルがんん、と鼻から抜けるような声を漏らした。
それでもやめないでいると、手のひらで胸を押された。
色々と限界だったようで、耳どころか、首まで真っ赤になっていた。
足から力が抜けてしまったらしく、胸にもたれかかってくる。
「ちょ、ちょっと、は、はげしすぎます……!」
「嫌だった?」
「い、嫌ではありませんけどっ! その、も、持ちませんっ、し、しんじゃいます!」
「死なれるのは困るなぁ」
頭を撫でれば、シャルは目つきを鋭くした。
頬は赤いままだし、瞳もとろけているので、怖さなど
「……また、馬鹿にしてます」
「ごめんって。機嫌直して」
「……ぎゅってしてくれないと直してあげません」
シャルが胸に頭突きをしてくる。
こういう時は本当に拗ねているんじゃなくて、甘えたいんだよね。
「仰せのままに」
シャルを抱え上げて、あぐらをかいた足の間に乗せる。
肩口から腕を回して背後から抱きしめれば、彼女はビクッと体を震わせた。
多分、腰のあたりに当たったものが原因なんだろうけど、今はくっついていたい気分だから我慢してもらおう。
「……ノア君って、後ろからハグするの好きですよね」
「うん、好き。シャルは?」
「私も好きですよ……その、す、好きでいてくれてるのだなって伝わってきますし」
はにかみながらそんな事を言って、僕の手に指を絡めてくれる。
可愛いなぁ。
「——ノア君」
不意に声をかけられ、頭を上げると、空色の瞳と目が合った。
あれ、バックハグしてるのに何で目が合ってるんだろう。
そう思った時には、唇に柔らかいものが触れていた。
「あっ……」
唇を離したシャルは、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にさせつつも、イタズラが成功した子供のように微笑んだ。
「私からもしないと、不公平ですから」
こんな可愛い事をされてタカが外れない彼氏なんていないよね。
脇の下に手を差し込んでシャルの体を反転させ、びっくりして半開きになっている口にかじり付いた。
上下の唇を
そのまま口内まで侵入したかったが、シャルが自ら唇を開ける素振りは見せなかったので自重した。
口内を
「も、もうげんかいですっ……し、しんぞうがはれつしちゃいます……!」
舌足らずなシャルも可愛かったけど、もう本当に限界そうだったから解放してあげる事にする。
いやぁ、満足した。
シャルは以前、僕が誕生日プレゼントとしてあげたクマのぬいぐるみに顔を埋め、呼吸を整えていた。
「シャル、大丈夫?」
「……いじわる」
ぬいぐるみから目だけを出して、こちらを睨みつけてくる。
「ごめんごめん。でも、さすがにあれは我慢できないって」
「……だって、やられてばかりでは嫌ですし」
「あれはクリティカルだったよ。けど、気をつけてね。あんまり煽りすぎると、僕も色々我慢できなくなっちゃうからさ」
「っ……き、気をつけますっ……!」
僕の言わんとする事に気づいたんだろう。
シャルは真っ赤な顔で頷いた。
ただ辱めたいだけじゃない。
これ以上シャルにアグレッシブになられると、本当に理性が抑えられなくなる可能性がある。
……お泊まりの頻度とかも含めて、一度そこら辺はじっくり話し合うべきかもしれないなぁ。
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