第86話 スーア星乗っ取り計画
『やあ、ベンジャミン副総監。いや——
「その名で呼ばないでください、
ベンジャミン——王静は、パソコンの画面越しに苦言を呈した。
しかし、李伟は意に介した様子もなく口の端を吊り上げた。
『安心したまえ。この通信を私にバレずに傍受できる者などあろうはずがない。通信機もテレビも流通しきっておらず、パソコンすら開発されていないスーア星なら、尚更な』
「まあ、そうですが」
王静としても、どうせ注意しても聞かない事、そして李伟の発言が虚勢でない事はわかっていたため、それ以上は追求しなかった。
『それで、今日はどうしたのだね?』
「
『ほう、我々の存在に気付いたわけか……』
本来なら
『なかなか勘が鋭いじゃないか。ただ、その口ぶりだと我々——チャナ星にたどり着く事は難しそうかな?』
「面白がらないでください……まず不可能でしょうな。そもそも、スーア星は我々の存在すらも認識していません。少なくとも二年は、他の星からの接触はないと思っていますし」
『ククッ』
李伟が喉を鳴らした。
『まさか、自分たちの最大探索範囲よりも外から接触されるとは思っていないだろうねぇ』
「えぇ。我々の接触可能範囲は、これまでスーアに接触してきたどの星よりも広いですし、その事実は他には漏れていませんからな」
王静たちの星は、他の星よりも接触可能範囲が広いにも関わらず、それをひた隠しにしていた。
『当たり前だ。奇襲を仕掛ける前に情報を漏らす馬鹿などいないよ』
「それで、李伟様。
『あぁ、そう言えば伝えていなかったな。今年の十月二十五日に決まったよ』
李伟はサター星が攻めてきた混乱に乗じて、サター星にいた上司と通信していた。
ケラベルスが殺され、ヘストスたちが逃げ帰った直後の事だ。
対処に追われていたスーア星に、その通信に気づくのは不可能だった。
「……ずいぶん早いのですね」
『使えないサターの刺客どもが、ターゲットを
ターゲット。
スーア星最強魔法師——すなわちノアの事である。
『時間が経つほどそいつは成長するから、早めに潰しておこうという事になったのさ』
「なるほど。彼はまだ十五歳ですからね」
王静からすればすでに化け物だが、まだまだ成長の余地はあるのだろう。
『処遇はどうなったのかね?』
「特別な地位を設けて、WMUに勧誘しているところです」
『特別な地位?』
「はい」
王静は特別補佐官について説明した。
『星全体の危機に関わるような事件でない限りは、他の隊員と同じような権利が与えられるにも関わらず、任務への参加義務は発生しない……他の隊員からのやっかみ待ったなしの、破格の待遇だね。それほど彼——ノア君の実力は凄まじかったという事かい?』
「はい。なんと言っても、あのケラベルスを倒すほどですから」
『ケラベルスも馬鹿だよねぇ。いくら覚醒前だとはいえ、綿密に調べていれば潜在能力くらいわかったでしょ』
「そうですね」
ケラベルスの事だ。
思ったより強い敵がいなくて油断していたのだろう、と王静は推測した。
それは当たっている。
「そう言えば、我々の軍は十月二十五日、どこに出現なさるおつもりなのでしょうか?」
『さすがに相応の距離だ。いくら技術的に劣っているスーアのものとはいえ、誘導を跳ね除けるのは無理だろうから、普通に誘導に従うよ。いつも特別来訪区域とやらに、スーアの最高戦力が集まっているわけではないのだろう?』
「えぇ。一応、防衛任務で何人かは常時張り付いていますが」
『なら、着いてすぐにバラければ問題ない。まあでも、君の方で人員の配置を調整できるのなら、なるべく厄介な人物は遠ざけておいてくれたまえ』
「了解しました」
ルーカスとアヴァはなるべく、そしてノアは絶対に特定来訪区域から遠ざけておこう、と王静は決めた。
『それじゃあ、他に何もないなら切るよ。ノア君をちゃんと手中に収めて観察しておいてくれたまえ。彼の成長具合や真の実力次第では、殺すんじゃなくて封印という手段を取る必要だってあるかもしれないのだからね』
「はい。必ず」
『頼んだよ』
李伟がひらりと手を振ったのを最後に、通信は終了した。
「……よしっ」
王静は頬を叩いた。
ルーカスに対する義理もあるため、ノアは少なくとも見学にはやってくるだろう。
その時に、WMUに入るメリットを十分に感じさせる事が大切だ。
今回の乗っ取り作戦もそうだが、全ての作戦において最も警戒すべきはイレギュラーな事態だ。
その点、ノアが自分たちの制御下にないというのは最大のイレギュラーになりうる。
逆に、制御下にさえ置いてしまえばどうとでもなる自信が王静にはあった。
ノアは確かに化け物だが、チャナ星にも化け物はいる。
自分たちが主導権を握れるのなら、負ける気はしなかった。
「彼がWMUに入るか否か……今回の作戦の一番のターニングポイントかもしれませんね」
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