第81話 WMUからの呼び出し③ —模擬戦—

 ロバートさんとの戦いは、序盤は魔法の撃ち合いになった。

 デイヴィット総監に実力者と称されただけの事はあって、魔法の精度も威力も一級品だった。


 一つ一つの技の練度はケラベルスには劣るが、その分手数が多い。

 僕の攻撃もしっかりと防いでくる。


 面倒だな。ちょっと接近戦でも仕掛けてみるか。

 僕はロバートさんに向けて放った魔力弾を、いくつかあらぬ方向に曲げた。


「むっ?」


 あえてロバートさんには当たらないように、周囲を旋回させる。

 彼が戸惑った一瞬の隙に、身体強化を発動させて一気に距離を詰めた。


「姑息な手を……!」


 至近距離から放たれた魔力弾を、魔力で生成した剣で弾き、そのまま斬りかかる。


「チッ……!」


 ロバートさんが跳躍する。

 空に逃げるのは予想できていたので、一つ罠を張っておいた。


 ——ガン!


「うぐっ……!」


 その罠——頭上に張った結界に見事に頭突きをしたロバートさんが、呻き声をあげる。

 よし、もらった。

 隙だらけの腹に、剣を振り下ろした勢いを使って回し蹴りをくらわせる。


「ぐふっ……!」


 飛び上がっていたロバートさんは、後方に吹っ飛んだ。

 すぐさま距離を詰めるが、受け身をとりながら魔法を放ってくる。


「マジか」


 思っていたよりもはるかに強度の高い攻撃だった。

 避けきれないな。仕方なく防御する。

 その間に、ロバートさんは体勢を整えていた。


 その後も、お互いに攻めあぐねる時間が続いた。

 このままじゃらちが開かない。

 早く帰りたいのに。


 それに、これはテストでもある。

 何がなんでもWMUに入りたいわけじゃないけど、実力を認められておいて困る事はないよね。

 よし、誘い出してみよう。


 ロバートさんが足元を狙ってくる。

 空に逃げれば、すかさず追撃が来る。


 僕はあえて、空を飛んでいる間は反撃をせず、結界で攻撃を防ぐ事に集中した。

 ロバートさんが攻勢を強めてくる。

 僕を倒すというよりも、地面に降りさせない事に重きを置いているみたい。


 僕は目の前に生成した結界を蹴って後方に飛び退きつつ、もう一つ結界を生成した。

 自分を守るのではなく、ロバートさんを横殴りにするように。


「はっ……!」


 その奇襲にロバートさんが気を取られているうちに地面に降り立ち、反撃を開始した。




◇ ◇ ◇




 ロバートの執拗しつような足元を狙った攻撃を、とうとう防ぎ切れなくなったのだろう。

 ノアが空中に飛び上がった。


 ——勝てる。

 ロバートはニヤリと笑った。


 少々みくびっていた事は認めよう。

 ロバートが思っているよりも、ノアはずっと強かった。


(それでも、所詮は普通に優秀な程度。僕には到底及ばない)


 ロバートはノアの弱点を見抜いていた。

 それは、ノアは二種類までしか同時に魔法を発動できないという事だ。


 その証拠に、空を飛んでいる時は防御に徹しているだけで、ほとんど反撃してこない。

 飛行と結界をすでに使ってしまっているため、攻撃魔法を使えないのだ。


 一度結界で攻撃してきたのには驚かされたが、所詮は猫騙し。

 二度は通じない。

 隙ができないように攻撃し続ければ、ノアは守るか逃げ回る事しかできなくなる。


 二種類の魔法を同時発動できるだけでも世間一般から見れば優秀な部類だが、魔法師として上り詰めたいなら足りない。


(実際、僕は三種類同時にできるからな。まぁ、この戦いでは二種類しか使っていないが)


 ロバートが余裕を保っている根拠は、そこだった。

 彼はまだ余力を残していたのだ。


 二種類しか同時に発動できないと思わせておいて、ノアが勝ちに来たタイミングで三つを同時に発動させ、一気に状況をひっくり返す。

 それがロバートの奥の手だった。


 ロバートは防御に徹するノアを飛行で追い回しつつ、魔力弾を撃ちまくる。

 ノアが何か仕掛けてくるのならば奥の手を使うし、そうでなくともここで終わらせるつもりだった。


 ロバートがさらに攻勢を強め、ノアの懐に入った時、ノアの口元がわずかに弧を描いた。


(ふん、やはり何か隠していたか——むっ?)


 ノアの周囲に魔力弾が大量に生成された。


(まさかやつも三種類同時に使えたのか……! だが、焦る事はない)


 どのみち、何かしらの攻撃が来ると見越して、ロバートは三種類目の魔法として結界を用意していた。

 ノアも同じ芸当ができたのは驚きだが、万に一つくらいはあるかもしれないと思っていた。


(少し焦ったが、結界で防げばいいだけだ)


 ロバートは落ち着いて結界を発動し、ノアの魔力弾を防ぎながら、さらに接近した。

 目の前にあるノアの瞳は、大きく見開かれていた。


(ふん。小手先の知恵で僕に勝てるわけがないだろう。今からでは結界の構築も避ける事も、魔力弾での反撃も間に合わない)


「お前ごとき、ルーカスさんの弟子には相応しくないっ! はああああ!」


 ロバートは勝利を確信して、拳を繰り出した。


「ノア君!」


 おそらく、ロバートの拳をノアがくらってしまうと思ったのだろう。

 シャーロットが胸の前で両手を握りしめ、悲痛な叫び声を上げた。


 その傍で、ルーカスは口元を緩めた。


「勝負、あったな」

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