第9話【ウリメス視点】誰にも知られずに裏切り者は処刑


ウリメスは雨が降る中国境まで来ていた。


もちろんスグーシーヌと会うためである。


待っているとスグーシーヌが肩で息をして現れた。


「はぁ、はぁ。お待たせしました。ウリメスちゃん」

「あなたに頼みがあるの」

「なんなりとお申し付けください」

「帝国のトップ、皇帝を暗殺して欲しいの」

「ですが皇帝の警備は硬いですよ?」

「皇女様と結婚すればいいのよ。皇女様は信頼されてるんでしょ?そんな人と結婚すればあなたもすぐに近付けるわよ」


スグーシーヌは考えていた。


(たしかに、それなら近づけるかもしれない。でも、)


皇帝の警備はそれでも硬い。


何人もの騎士が皇帝を常に護衛しているからである。


それをすべて切り裂いて皇帝にまでたどり着く自信がスグーシーヌにはなかった。


「うぐっ、ごめんなさい。ウリメスちゃん、俺には力がない」


ウリメスはにっこり笑った。


「力なら私が貸してあげるわよ、だから、心配しないで(無能なあなたに私が価値を与えてあげるから)」


「ウリメスちゃん……うぅ」


「王国6000年の歴史が生み出したちょー強い魔法兵器を貸してあげるから」


ウリメスは両手で抱えていた武器をスっと渡した。


それは白く光る剣だった。


「これ【キングスブレイド】って言うの。ちょー強い武器。帝国にいるような弱っちぃ騎士なんてこれでザンザン切り倒せるよっ♡」


スグーシーヌは体を震わせて剣を見ていた。


「こんなに強そうな武器を僕に?」


「あげるわ♡だから皇女と結婚して皇帝をぶっ殺して欲しいの」


「あ、ありがとうございます」


スグーシーヌは剣を受け取った。


両手で傷が付かないようにていねいに受け取った。

その光景はまるで王様から臣下が大事なものを賜るような雰囲気に近かった。


それからスグーシーヌは剣を引き抜いた。

剣の切っ先を天に向けて叫ぶ。


「これが【キングスブレイド】?ははは、僕は最強だぁ!げふっ!ぶはっ!」


なんの兆候もなく、突如スグーシーヌの口から血が飛び出た。


ウリメスの顔に血が飛び散った。


「えっ?」


ウリメスの目が静かに見開かれた。


スグーシーヌも動揺しながら顔を下に向けた。


この場に状況を正しく認識出来る人物など存在しなかった。


「ぼ、僕の腹から剣が無数に生えてる」


そのときっ。


バキッ!


キングスブレイドの内部からも無数の剣が生えてきた。


とさっ。


スグーシーヌはその場で膝立ちになった。


「ウリメスちゃん、助けて、体が痛いよぉ……うまく動かないんだ」


「……」


スグーシーヌは四つん這いになりながらウリメスへと近づいて行く。


まるで赤ちゃんがハイハイして歩くような姿。


「いっしょに帝国を倒そうよぉ……ごばぁっ!」


剣がもう一本腹から生えてきた。


「ウリメスちゃん、助けて……」


四つん這いの状態でスグーシーヌはウリメスの顔を見上げていた。


ウリメスの顔が不快げに歪んでいた。


「私のおもちゃが……」

「ウリメスちゃん、たすけ……」


ウリメスはスグーシーヌの顔を蹴りつけた。


「げふっ……」


「おもちゃが主人である私の顔を汚すなっ!」


何度も何度もカカトを頭に叩きつける。


「ウリメスちゃ……」


そこで我に帰ったような顔をするウリメス。


「はっ……ごめん。スグーシーヌ。そんなにザコだと思わなくて動転しちゃった」


「僕こそごめんなさいだよぉ。役に立てなかったね」


にっこり笑うウリメス。


「ほんとにだよぉ。こんなに使えないザコだと思わなかった。あはははは」


ウリメスはしゃがんで腹から生えた剣に優しく手を伸ばす。


「それより、なにこれぇ?すごーい。魔法なのかなー?こんなの見たことないやー」


「ウリメスちゃん、抜いて、死にたくないっ。痛い、痛いよぉ……」


「痛いの?そうなの?なら痛くないようにしてあげるね」


「ありがとう、ウリメスちゃん」


「もちろんだよぉ。あなたは私のおもちゃだもんね。最後まで面倒見てあげないとね」


ウリメスは右側にいた女に目を向けた。


「お姉ちゃん、この使えないザコにトドメを」

「かしこまりました。ウリメス様」


女は剣を抜いた。


「えっ?」

「おもちゃには安らかな死をっ♡」


ザン!


「ぐにゃぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!!」


ウリメスは女に話しかけた。


「このザコが使い物にならないからお姉ちゃんがかわりに皇帝を殺してきてくれる?」


女は静かに頷いた。

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