第5話 ボスもワンパン


「え?!ティムはお兄ちゃんの赤ちゃん妊娠してるの?!」


「30分しか経っていないのに?いや、でもこの部屋では時の流れが……」


俺は種明かしをしてやることにした。


「簡単なこと。軍団長には一日と説明したが、向こうで俺はティムと1ヶ月半近く過ごした。それだけあれば簡単な話だろう」


初めは一日でやめるつもりだったけど、ティムがかわいかったので延長してきた。


「お兄ちゃん今日までティムのことずーっと『好き』って言ってくれた♡ティムもお兄ちゃんのこと、好きっ!」


でもうるうるし始めたティム。


「お兄ちゃん、今日までありがとう。でもお兄ちゃんは遠いとこに行っちゃうんだよね?お兄ちゃんの活躍、赤ちゃんと見守ってるから(グスグス)」


軍団長がティムの言葉を遮った。


「状況が変わった。今から皇族の方に追加連絡を入れます」


「どういうこと?」


首を傾げるティム。


「一般人であるあなたは城には絶対に入れられない」


ティムのおなかを見ていた。


「でも、英雄様の子を宿しているとなると話は変わります」


通信機で連絡始めた軍団長。


しばらく会話したあとティムを見た。


「許可がおりました。あなたも連れていけます」

「えっ?ティムも行けるの?」

「ですが、現在人手が足りておらず、動けるうちは召使いとして軽く働いて欲しいそうです」

「うん、働く」


ということでティムも城に行けることになった。


「でも、城ってすっごく遠いんだよね?ティムずっとこの教会から見てたから知ってるんだ〜」


「そうですね。ここからなら歩いて数日かかるかもしれませんね、馬車なら一日あれば到着するのですが」


俺はティムをお姫様抱っこした。


「けっこう長距離だな。ティムにはなるべく負担をかけたくないな。俺がこうして運ぶよ」


「でもお兄ちゃんがしんどくない?大丈夫、ティム歩けるから」


「大丈夫だよ。ティム。お兄ちゃんに任せなさい」


「お兄ちゃん、しゅきぃぃぃぃぃぃ♡頼りになるーー」


「さぁ、行きましょう。大地様。雨が降り始める前に進めるだけ進んで、今日は宿を確保したいところですね」


軍団長が案内を開始した。


俺たちは城まで道なりに進んでいくことになった。


基本的には城に向かってまっすぐ進めば着くようになっているようなのだが……。


街の部分を抜けると大きな川が流れていた。


川幅1キロくらいありそうな、ほんとにデカい川だ。


「この川が少し問題でしてね。遠回りしないといけないのですよ」

「橋を探さないといけない感じか」


「はい。1番近い橋まで歩いて5時間ほどかかるのです。その橋も道が細く待ち時間も長いのです」


「遠回りなんだな。ここに橋をかけることはできないのか?」


「実はこの辺り一帯には川の主【ボスアリゲーター】がいるのです。かけようとしても破壊されます」


「ボスアリゲーター?」


ティムが答えてくれた。


「めちゃくちゃ強いワニのモンスターだよっ。今まで何人もの人が食べられてきたの、ティム怖いよー食べられたくないよー」


「じゃあ、そんな悪いワニは倒さないとね。悪いけどしばらく立っててくれる?」


ティムを地面に下ろした。


軍団長が声をかけてくる。


「いくら英雄様でも勝てるかどうか……帝国が始まってから2000年。何人もの人々が挑戦しましたが、全員倒せずに餌になったのです」


「魔弾」


ヒュン!


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!


魔弾が水中に入り水を消し飛ばしていく。


川から水がなくなった。


その後には……


「ボスアリゲーターってあれのことかな?」


全長800メートルくらいありそうなワニが河底で丸焦げになっていた。


ピクリとも動かない。


キョトン。


「は、はい。あれのことです。2000年の歴史を持つアリゲイターが、こんなにあっさりと……。さすが英雄様でございます」


「すごーい!お兄ちゃん!!さすが大地にぃだーーーーー」


俺はそのあと地面に手をついて……


「創造魔法、橋」


巨大な橋を作った。


1キロメートル続く巨大な橋である。


「(ポカーン)」


「すごすぎるよ!さすが私のお兄ちゃん!」


俺はさらに説明することにした。


「橋の幅も200メートルくらいあるよ。これで川を渡るのに長蛇の列を作る必要も無い」


「(凄すぎて声も出ない)」


ティムは笑顔で聞いてくる。


「この橋の耐久力は?!お兄ちゃんの魔弾とどっちがつよい?!」


「見てみる?【魔弾】」


爆発が起きた。


だが、橋には傷1つついてなかった。


「お兄ちゃんの魔弾を耐えるなんてすごいーー。でもお兄ちゃんの魔弾でも壊せないものってあるんだね」


「俺の魔弾では壊せないけどさらにランクアップした魔法なら壊せるよ」


「(まだ上の魔法があることを知り声が出ない)」


さっきから黙りっぱなしの軍団長を見た。


「軍団長、橋はできたし、そろそろ渡らないか?雨が降るんだろ?」


「(これが夢か現実か分からなくなってきて脳の処理が追いついていない)」


「おーい、軍団長?」


目の前で手を振ってみたが、反応がない。


「仕方ない。俺が肩に担ぐよ。ティム手を繋いで行こうか」


「えへへ、お兄ちゃん。デートみたいだね。こんな橋を手を繋いで渡れるなんて」


「そうだね。行こう」


俺とティムは手を繋いで橋を渡り始めた。


橋を渡り終えると目の前には森があった。


「この森もなにかあったりするの?」


「うん。この森は怖いモンスターがいっぱい出るよ」


「そんな森は迂回した方がいいかもなぁ」


「そうなんだ、お兄ちゃんのすごいとこ見れないんだ、シュン」


「見たい?」


「見たいっ!お兄ちゃんのすごいとこ見たい!」


顔を輝かせてた。


「どんなすごいことをしてくれるの?」


俺は上を指さした。


「うえ?」

「空を歩けばいいんだよ。森の上を歩けば、森の中にいるヤツらは襲って来れない」


「空を歩けるのーーーー?」


俺は森の向こうを見た。


城はすぐそこに見えている。


この森を超えればすぐだろう。


「雨が降りそうだ」


俺はティムを見た。


「どうしたの?お兄ちゃん」


「ティムの体を濡らしたくないな。妊娠してる時は体が弱ってるらしいし、体調も崩しやすいかもね。降り始める前に向かおう」

「お兄ちゃぁん、そんなにティムのこと心配しくれてるなんて、しゅきぃぃぃぃぃぃぃっ」



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