救って異端の聖女様! 〜異世界TS召喚された聖女、異端認定されるも魔物娘をキスで仲間にできるし新世界作っちゃう?〜
八塚みりん
第1話 聖女とおねえちゃんとオッサンたち
天窓から差し込む光が、顔に当たっている。眩しさに起こされるように、目を覚ました。
いや上から? 直射日光?
目覚めの窓の光っていうのは、だいたいまぁカーテン越しに横から差し込むものだと思う。
確か徹夜して、次の日も講義をサボって、そのまま夜までゲームしていたんだったっけ。さすがに疲れて寝てしまったか。
次に、謎の浮遊感。こう、風呂に身体を浮かべて、耳まで湯船に浸けた時のような……心地いいような、現実感が無いような。
……いや。これほんとに浮かんでるな。気がするとかじゃない。
少し目が冴えて、自分が実際にぬるま湯に浮かんでいることに確信を持った。もちろん、そんなところでおやすみなさいした記憶はない。
奇妙な感覚の中、身体を起こす。
「ん……?」
裸の背中に、長い髪の毛が纏わりつく感触を覚えた。いやいや、そんなに髪を伸ばしたことなど、俺の人生においては一度もないはずだ。
寝置きでぼけっとしていた頭が、焦りで冴え始めた。
自分の置かれた状況はどうやら異常だ。かなり異常。
俺は視界の隅に写った、自分が浸かっている水面を思わず覗き込んだ。
そこには、天窓からの光に照らされて、自分の姿が鏡のように映っている。
しかし見知った顔はそこには無く、代わりにこちらを訝し気に睨み返している美少女の姿があった。
「はぁっ!?」
淡い薄桃色の髪の毛が、濡れて身体と顔に纏わりついている。同じく桃色の瞳は自分の知っている現実ではあり得ない色だ。
目はくりっとして大きく、長い睫毛が微かに水滴に濡れている。小さい鼻、ぷっくりした唇、全てに見覚えが無い。
誰だ、この超絶美少女は。年齢は十代後半? あるいは二十代前半だろうか。
肌は差し込む光を透過しているかのように白く透き通り、鎖骨の下には立派な白い胸のふくらみがある。本来とても幸運に恵まれて見られたとしても、こんなアングルから見ることはあり得ないだろう。
「な、なんじゃこりゃ……」
立派に膨らんだ形のいい胸を隠す布は、一枚だってない。見慣れないものが全部見えてる。濡れた肌は光沢を持って光っていて、とても艶めかしい。
女になっている。しかも、現実ではありえないような、非実在的美少女に。そんなアホな。
「成功だ……」
「おぉ! なんということだ!」
「素晴らしい!」
自分の身体の変化に戸惑っていると、周りから見知らぬオッサンたち、数人の感嘆の声が聞こえた。
辺りを見回して、俺はようやく自分がどこにいるのか確認した。わかってたけどいつも使ってる手狭なベッドではない。
どうやら俺は室内の、祭壇のような高いところにいて、そこに身体を横たえて水に浸かっている。そしてその祭壇を下りた周りには、何十人もの人間が俺の方に注目して、見守っている。
いや、見守るって、何を?
祭壇の中段には、白く綺麗な服を着た女性達が十人ほど、祭壇を取り囲むように眠っていた。
よし、状況を整理しよう。つまり、こういうことだ。
俺はゲームのやり過ぎで頭がおかしくなった。
……いや、現実逃避するな。
体が持つ、視覚、触覚、嗅覚、ぶら下がった大きな胸が鎖骨の下から皮膚を引っ張るその重みまで、そのすべてがここが現実で、自分の身体が変化したことを告げている。夢じゃない。感覚は嘘を吐けない。
よし、じゃあ現実と認め……る気にはならないが、とりあえず改めて整理しよう。
俺は祭壇のようなところで水に浸かって寝ていて、目を覚ました。しかも女になっている。そんな俺の様子を何人もの偉そうな服を着たおっさん達が見守って、こそこそと思い思いの感想を呟いている。
なるほどね。つまり……どういうこと?
「神託が下るぅ! 漏らさず筆記をぉぉ!」
「うぉっ!?」
神父? 司祭? なんだかわからないが歴史ある伝統ある偉そうな服を着たおっさんの一人が突然叫んだ。流石の俺もホラー映画でジャンプスケアを食らった時みたいに、一瞬びくっとして身体が縮こまった。
「聖女の名は、メイティア! メイティア・ビナー! 有するは”八光剣”、”光輪”、”小陽核”! 権能は”執行”、”浄化”、”祝福”、”洗礼”である!」
祭壇の前の壇上で、気が狂ったように叫ぶおっさん。その近くで、必死でその言葉を書き留めている女性がいる。怖すぎる。そもそも状況がホラー映画みたいなもんじゃないか。
「初めて聞く能力だ……」
「権能も妙だぞ! ちゃんと生き残るのか?」
ざわめく群衆。おっさんはまだ言葉を続ける。
「し、し、しかし、掟は破られた。な、汝らを裁くの、もまた、彼の者の使命なりぃ!」
続いた不穏な言葉に、周りの群衆はさらにざわめき立つ。見れば、儀式的な服を着た人の他にも、鎧を着た軍人らしき若い男性達がいて、綺麗に整列して事態を見守っていた。
壇上にいたおっさんは全ての言葉を言い終えると、糸が切れたように崩れ落ち、二度と立ち上がらなかった。
何なんだこいつら。やばい奴らだよ。新興宗教かよ。俺は何かの宗教団体に誘拐されたのか?
だとしても身体が女になっていることに説明はつかない。いや、しかしどうだ。
昨今の闇の組織は、人を女にしたり子供に戻したりするような薬の一つや二つくらい……
「戸惑うのも仕方がありません。メイティア。はじめは皆、そうなのですから」
祭壇までの階段を上がり、一人の女性が声を掛けてきた。包み込むような優しい声だ。
自分の(?)髪色に近い淡さの、紫色の緩やかなウェーブの髪の毛をした女性だ。
倒れている女性たちと同じ、輝くほど白いロングドレスのようなものを身に着けている。胸元の大きく開いたドレスのせいで、ただでさえ大きい胸の、その谷間がやたら強調されている。
そんな体つきと、たれ目の優しい橙の瞳を見ていると、老若男女あらゆる人間が、この人のことをお姉ちゃんって呼びたくなること請け合いだ。
「おね……じゃなかった。誰? ここはなんなんですか?」
「私は第六聖女、フィーナです。貴女の先輩、なんて言うと少し照れくさいかしら。さぁ、冷えてしまうわ。これを」
フィーナお姉ちゃんは不安を解消させようと微笑みながら、肩に白いベールを掛けてくれた。そこでようやく、自分が素っ裸だということを意識した。
元の身体よりも、この自分のものとは思えない柔肌が、何十人ものおっさん達の視線に晒されていることの方がよっぽど緊急事態だ。今さらながら、精一杯に布で身体を包み込むように隠した。
「ええ。あなたも今生まれたばかりとはいえ、聖女なのだから、恥じらいを持つのは正しいことよ」
「いやいや、俺はただの大学生で、そろそろ帰ろうかと思うんですが」
「錯乱しているのね。大丈夫よ。みんな最初はそうなのです」
「さ、錯乱!? 錯乱は言い過ぎでは……?」
抗議しようと思ったその時、柔らかい肌が両頬を包んだ。
有無を言わせず、フィーナが胸元に顔を押し付けるように、素早く俺を抱きしめたのだ。
あらゆるものを許すような大きな胸の柔らかな感触に包み込まれ、どう言われようがどうでもよくなってしまった。
「ええ、そうなんです。俺ちょっと錯乱していたみたいで……あれ?」
頭の中から、さっと血の気が引くような感覚に陥った。別に興奮して下半身に血が流れたわけではない。断じて違う。一瞬意識を失いかけ、悪寒が走る。
「うっ……」
「メイティア? 大丈夫? 落ち着いて。深呼吸して」
参った。冗談言ってる場合じゃないくらい気持ち悪くなってきた。
「何だ……? 苦しそうだぞ!」
「やはり失敗じゃないか! あの時のように消えてなくなってしまうぞ!」
ギャラリーの騒ぎ立てる声がやたらと頭に響く。胃の中から何かがこみ上げてくるのを感じる。
フィーナにぶちまけるわけにもいかないと思い、押しのけようとするが力が入らない。
フィーナもこちらを落ち着かせようとしているのか、より強く抱きしめて来て、離そうとしない。幸せなことこの上ないけど、今は焦りが勝る。
そうこうしているうちに、堪えられなくなって嗚咽を漏らし、逆流してきたそれを吐き出してしまった。
白濁した、見たことも無い、人間の口から出てはいけなさそうな白く輝く液体が、大量にぶちまけられた。
「おぇっ……げほっ……! 何だこれっ……!」
手についた真っ白の液体。光を受けると、油のような虹色に輝く。
この世の物とは思えない光景に仰天して、さらに咳き込む。フィーナの胸元は、口から出た真っ白の液体で汚されてしまったが、フィーナは嫌な顔ひとつせずに背中を撫でて落ち着かせようとしてくれている。
「大丈夫……大丈夫よ。成功したの。あなたは溶けて無くなったりなんかしないわ。自分を強く保って!」
溶ける? 確かに、手足の先から無くなりそうなほど熱い。
咳き込み、酸素が足りなくなり、徐々に視界が暗転していく中、フィーナの優しい声だけが最後まで意識の端に残り続けた。
そしてその優しい声が完全に聞こえなくなったの同時に、俺は意識を失った。
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