5月と12月のカノン。*幸せの探し方*

猫野 尻尾

第1話:それは偶然じゃなく必然。

歳の差カップルのことを「5月と12月のカップル」って言うんだそうですね。

5月と12月は7ヶ月も離れている。

その月の差が、年の差を表す比喩ひゆとして使われてるわけで、

5月(若葉の季節)若い女性を意味し、12月(冬)はおじさんを意味するんだ

そうです。



それは普通なら、ありえないことだったかもしれない。


僕は以前勤めていた会社の知識と技術を活かして細々と自営業を営んでる。

そのために住居と工房付きの中古の家を買った。

店舗は持たずネット販売だけでなんとか食いつないでいる。


年末、仕事の取引差の会社の忘年会に誘われて酒がタダで飲めると

ウハウハホイホイ出かけて行った。


で、飲んで食って当然のように懇意になった人と二次会三次会と場所を

変えてのどんちゃん騒ぎ。


今年ももう終わりか・・・いいことなんて何もない一年だった。


僕は中年の独身おじさん。

名前は「北村 星きたむら せい」年齢は・・・まあ相手によって45〜50の間を行ったり

来たりする。

僕は比較的実年齢より若く見えるみたいだから相手が女性なら40代になる。

で、相手がどうでもいい人なら実年齢で行く。


自分で言うのもなんだが、決してビジュアルに自信がないわけじゃない。

若い子はそんなに言わないけど、年上のおばちゃんからは「あんた、俳優の

あの人に似てるわね」って言われる・・・でも名前が出て来ないんだ・・・。


で、結局、最後まで名前が出てこず「ほら名前が半分英語の人」って言われる。

まあ、年齢的に見てだいたい誰だか想像はつくけどな。

だけど自分じゃ似てるかどうかは分からない。


僕も若い時はモテたんだ・・・17、8の頃、理容師を目指してた。

その頃は理容美容専門学校へ通っていたから学校は女の子の数が圧倒的に多かった。

それはまさにハーレム状態、教室中黄色い声とフレーバーか香りが漂っていた。

だから女子からかなりモテまくった。


休み時間は教室にいるより屋上にいるほうが多かったかもしれない。

で、告られるだろ?・・・でも断るだろ?・・・断ることがめちゃイヤだった。

だって女の子が可哀想なんだもん・・・だけど僕にだってタイプってもんがある

からね・・・女なら誰でもいいって訳にはいなない。

「ごめんね、もう付き合って子がいるから」って断っちゃうと相手の女の子を

どうしても傷つけちゃう。


自己嫌悪だろ?だから恋愛することが臆病になったんだ・・・。


その後も恋愛したことはあったけど、どれもうまくいかなかったし、

トラウマになるほどのフラれ方をしたこともあった。

半焼けになってそのうち恋愛さえ、うっとしく思えてもういいやって思いながら

何年も女っ気がないままでいる。


セフレが欲しいとも今は思わない。

まあ、そのきっかけを作らなくしてるだけだけどな。

欲求のタガがはずれるのが怖いから・・・。

肉体関係だけを求めるならトラブルを避けるため風俗にでも行く。

行かないけどな・・・。


仕事が一段落つくとコンビニ弁当買って来て工房で、わびしく一人テレビを

見ながら弁当を食べる。

ひとりでの外食は滅多にしない。


夢さえもう見ない・・・見てるんだろうけど朝起きたら覚えてないんだな。

たぶんこのまま独身で生きるだけ生きて干し葡萄みたいに干からびて誰にも

見取られることなく死んで行くんだろうな。


って思ってた。


ところが捨てる神あれば拾う神とはよく言ったもの。

こんなおじさんにもいたんだ・・・天使かはたまた女神様が・・・。


4軒目に入った居酒屋。

その時はその居酒屋の名前すら覚えてなかった。

店はなかなか繁盛していて家庭的な雰囲気がして感じのいい店だった。


どうやら家族経営の店みたいで厨房に僕とさほど歳が違わらなそうな大将と

品の良さそうな女将さん。


そして忙しそうに接客してる看板娘がひとり。

まあ歳の頃なら、そう18〜20歳くらいか?


可愛いじゃないか?・・・特に笑顔がいい・・・僕のタイプだな、なんて冗談。

でも思うのはタダ。

その晩はその店で打ち切りになった。


それから僕は、なんとなくその家庭的な店の居心地の良さに、たま〜に顔を出す

ようになった。

その時、店の名前が「笑屋わらいや」だってはじめて知った。

笑屋わらいや・・・いい名前だ。


で、忙しく接客してた女の子「 西山 花音にしやま かのんちゃん」って

名前だって知った。

そんなこともあって僕は仕事が終わるとコンビニに弁当を買いに行くのを辞めて

毎晩「笑屋」に立ち寄りはじめた。


別に常連ヅラしようと思た訳じゃないけど、それでも大将や女将さんや花音ちゃんと普通に世間話くらいはするようになっていた。


そして約三ヶ月ほど経ったある日のこと店で適当に飲んで食って客もいなく

なった頃、ひとりじゃ居ずらくなってそろそろ帰ろうと、お愛想してもらって

店を出ようとした。


そしたら若干一名に呼び止められた。

振り向くと、そこに接客係りの看板娘がいた。


つづく。

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