矛盾だらけの、この世界で。

燈芯草

プロローグ

迷彩服に身を包む彼等の身体は小刻みに揺れる。金具の打つかる音が煩く、重く低いモーター音が全身に響く中、独特なメロディが数名の耳に届いた。


「好きって気持ちが止められない。好き好き大好きアイラブユー。」


声の主は齢十五程の青年であった。幸せそうに身体を揺らしている姿に、向かいに座る"少女"が不服そうな顔をする。


「これから任務なのに能天気ですね、隊長。」


「これから任務だからこそ、推しの声で心を落ち着かせているんだ。」


「うわぁキモ。」


「ライリィの愛おしさを理解できないなんて...可愛いそうだね。」


「理解できなくて大丈夫です。」


「はいはい。お二人さん。夫婦漫才はそれくらいにして。そろそろ目的地ですよ。」


真田さなだが操縦室からそう言うと少女もとい雪風ゆきかぜが顔を赤らめて声を荒げた。


「ふ、夫婦?!コイツと?!ありえない。真田さん、髪の毛だけじゃなくて頭までパーになっちゃたんですか?」


「コイツとはなんだ、コイツとは。隊長と呼べ。それに俺は知ってるぞ。お前が俺に惚れていることを。」


「んなっ!そんなわけないじゃない!音甲しこうの馬鹿!」


そのやりとりを聞いた兵士たちは思わず笑ってしまい、船内は先程とは打って変わって和やかな雰囲気に包まれた。だが、それは一時の幸福に過ぎなかった。




キーンと高い金切り音が煩い。頭部が酷く痛み、真っ直ぐ歩けない。大きな爆発を幾つも全身で感じる。


アイツらは無事だろうか。


彼はそれだけを考えていた。ひたすら歩き続けて片目だけで必死に戦友を探す。視界が揺らぎ、膝を付いた。そして、気が付く。右足が無い。じわじわと痛みを感じる。痛みと共に嫌な妄想が過ぎる。


「ああああぁ!」


彼は立ち上がった。そして、休む間もなく歩みを続けた。


嫌だ。


どうか。


どうか。


生きていてくれ。


しかし、その願いも虚しく終わる。


朦朧とした記憶のなかで憶えているのは、


『死にたくないよ。こうくん。』


と言い残して腕の中で冷たくなった雪風だった。

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