第21話 死んだも同然
渡瀬と約束した通り、仕事はしばらく休んで、人格統合に向けて薬物療法に加えて心理療法が治療として追加された。
会社は渡瀬が回してくれていて、別に大丈夫だって言ってんのに時間を作っては朝比奈教授の元へ行くのに着いてきてくれた。
東堂さんの人格はあれから眠ったままで、一番始めにこのまま消えていくかもしれないって言われた。
不思議と寂しさとかはあまり感じなかった。
今日も疲れたなぁと思いながらリビングでのんびりしてたら、携帯が鳴った。
「よっ!今目の前にいるから鍵開けて!」
私は急いで玄関にダッシュし、勢いよく扉を開けた。
「久しぶり、ちょっと荷物多いから手伝って」
「あんたさぁ!いつぶりだと思ってんの?10年ぶりよ?普通連絡とかして帰ってこない?」
「テレビ電話とかはちょくちょくしてたでしょ」
「いや、そうだけどさ!もう!すんっごい心配してたんだからね?頭おかしくなるかと思ったよ?」
「大袈裟だなぁ」
ある程度の荷物を家の中に運び込み、彼が骨壷を指さした。
「あれ、なに?」
「え?あー、あんたの」
「はぁ?!なんで?!俺の事殺したの?!ひっでぇ」
「この世で何よりも愛しい弟が出ていって、10年も帰ってこなくて、死んだようなもんと同じくらい寂しかったってことよ」
私は中身は空っぽの骨壷をあけて、あの手紙を取り出した。
「大体さ、これ遺書みたいなもんだからね?相談もなく出てって、手紙読んでみたら『世界一周します!行ってきます!』とか言って、急に訳わかんないよ。あんたいきなり出て行ったのよ?」
「だからってこんな縁起悪いことするかね」
骨壷とお供えを怪訝そうに見つめながら、
「律儀に線香まで炊きやがって」
とぶつくさ言ってる。
10年ぶりに再会した明希は、日焼けしていて旅人って感じだった。
小汚いっちゃ、小汚い。
「で、なんで急に帰ってきたの?」
「びっくりさせようかなーと思って」
「いや、びっくりだけどそうじゃなくて」
「あれから10年だろ?自分の中で一区切りついたっていうか。手紙では結構前向きなこと書いたけどさ、やっぱ当時は納得出来ない気持ちも強かったし。もっと広い世界を見ようって思ったんだよ。で、そろそろ身を固めようかなと。その報告?みたいな」
「えぇ?!はぁ?!私そんなの聞いてないよ!こないだ話した時もそんなこと一言も言ってなかったじゃん!どこのだれよ!」
「えっと、イギリス人のアイラって人。姉貴に似てすっげぇ美人」
「……それで誤魔化せると思うなよ」
「まぁまぁ、改めて挨拶とかちゃんとするから。で、あっちに住む準備とかでしばらくここ泊まるからよろしく。あ、その骨壷まじでやめて。はい、すぐ撤去ね」
明希が10年前に海外逃亡して、当時はすぐに連絡も取れなくて本当に死んでしまったんじゃないかと思って後を追うことまで考えた。
ブラコンを拗らせている私は寂しくて死にそうだった。
取り乱した私があの手紙を見つけたのは、まさに警察に失踪届を出しに行く寸前の時だった。
それからすぐ、突然連絡がきて元気にやってまーす!みたいなすごく充実してるような元気な声に、安堵と怒りが入り交じって、それから空っぽの骨壷を置くようになった。
寂しさからの当てつけに近かった。
その頃には私は病気を発症していて、東堂さんはその骨壷をみて自分の"妻""だと思い込んだらしかった。
「寂しさってさ、怒りに変わるんだよ?あんた今私に刺されても仕方ないからね?」
「まずはおかえりとおめでとうだろ?はい、ハグ」
私は思い切り明希を抱き締めて、頭を撫でた。
そりゃ真島さんに甘いって言われるか。
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