第13話 それは多分、女心

2.3時間ほど教授と話したあと、渡瀬と二人になった。


「ねぇ、渡瀬」


「あ、あの……思い出せてるんですか?」


「うーん、何となくそう呼んでたかなって。で、あの女とホテルから出るところ、撮ったんだっけ?」


「……その件なんですが、どこから説明してよいのやら…。一度、社長、戻られたんですよ」


「えーっと、東堂さんの方?」


「いえ、はるさんです」


あぁ、そうやって呼ばれてた気がするわ。


「戻った記憶、ないけどなぁ」


「だと思います。当初はるさんが奥さんの元へ"はるさん"として向かわれる直前、急に"東堂さん"が現れて私に指示を出されました。あるホストを買ってそいつをはるさんの代理にしろと」


「私をあの女と会わせたくなかったってこと?けどさ、ホスト狂いのおばさんがホストに抱かれちゃ復讐にも上書きにもなってなくない?」


「"東堂さん"が用意されたホストはどうやら違法薬物に手を染めているようでした。薬物欲しさに少し金を積んだ程度で上手く動いてくれましたよ」


「ふーん、で?そいつが薬物やってたとしてあの女に一矢報いっしむくいることになるの?」


「薬物はいずれ性行為にも繋がります。彼は女性にクスリを盛ってそういった事をしてみたいという願望がありました」


「キメセクってこと?」


「……はい、今現在"東堂さん"の思惑通りに、まんまとお互いに体の方もクスリの方もハマっているようです。実は先程女性が尋ねてきたのですが」


「あぁ、なんか揉めてたね」


「すみません。聞こえてましたか。肉体関係にあった主人格のはるさんが、連絡が途絶えたらここへ来てみてくれと教えていたようで。でも副人格の東堂さんははるさんと縁を切らせたがっていました。代わりに小切手をと言うと、あっさり帰って行かれました。彼女もまた、ホストかクスリか……お金が必要だったのでしょう」


主人格の"私"は金銭的にも依存させる意味で自分が肉体関係もって、真島さんへの意識をそらせて夫婦円満にさせないようにしてた、と。

でも副人格の"東堂さん"は、私がこれ以上寂しがらないように真島さんから私を遠ざけて、あの女とも縁を切らせたかった、と。


「え、じゃあ、写真は?東堂さんが秘書に任せたって」


「はい、ですから任されただけで、彼女とホテルに入ったのも写真に撮られたのも全てこちらで用意したヤク中のホストですよ」


しかしなぁ……

あの女と私がセフレだったなんてほんと何してくれてんだよ、私。

お金に困ってないとはいえ貢ぐ形になって、利用されてることには変わりない。

夫婦円満にさえしなけりゃいいとはいえ、あの女とセックスしてた光景が徐々に甦ってきて吐きそうになる。


ドッキリとかじゃなくこの話が本当だとしてさ。

まぁ、ここまできたら本当なんだろうけど。

この間家に上がり込んできたあの女の態度も言動も色々と合点がいくわな。

セフレ相手だからあんな馴れ馴れしかったわけだし、私が社長だからひょいと100万っていう大金を出せたわけだし、私の名前をはるちゃんって呼んだのも、そういうことか。

再就職先どうにかならない?というのは、私が買収した側の……それなりの立場というか、張本人だったから、無職になった旦那に仕事をあてがってくれないか?という意味だったのかな。


ていうか。

東堂さんはなんであの時私を怒らせるようなことを言ったんだろ。

騙すとか嘘とかじゃなくて、本気で自分があの女とヤったんだと思って話してたっぽいよなぁ。

内容もリアルだったし。

なにか、寂しくて辛くて、怒ってたのかな?


現実を突きつけられてからだんだん感覚が戻ってきてるような気がしないでもないんだけど、渡瀬の見た目が東堂さんなもんだからすんごい変な感じする。

渡瀬だと分かるのに、東堂さんだという気配が消えてくれない。


「あのさ、渡瀬。私とオナニーした?」


「……?!えっ?!それは……っ、どういう…」


「やっぱしてないよね。結構いいのに」


「からかわないでください」


「からかってはないけど」


「……質問してもよろしいですか?」


「なに?」


「今回の買収先の、真島さんのいた会社なんですが。どうして私は今まで同行させてもらえなかったのでしょうか?いつも私はあなたの右腕としてビジネスの場面でも共にいました。しかし、真島さんの会社にだけは同行させてもらえずいつもはるさんはお一人で出て行かれました」


「んー?そうなの?私もまだ混乱中だからさ、色々分からないことが多過ぎて知らないとしか言いようないんだけど」


「そう……ですか。そうですね、今お聞きする話ではなかったです。申し訳ありません」


「まぁ、でも。渡瀬のことを東堂さんと見てた私がいたから、真島さんに会わせたくなかったんだよ、きっと」


「そういうものですか?」


知らないよ?

知らないけど、もし東堂さんが本当に存在しててさ、一緒に真島さんに会いに行くって考えたら気まず過ぎるもん。

鉢合わせさせたくない女心を汲んでくれ、としか今は言いようがない。


また1時間ほど教授と話したあと、統合か共生かよく考えてみて、これからどうするのか後日来るようにと念押しされた。


確かに東堂さんに自分から連絡したことなかったなぁ。

連絡先知らないってことは、交換したのも妄想か。

秘書の渡瀬の姿と被せて散々ひとりでオナニーしてたなんて、よっぽど寂しかったんだなぁ。

あ、別にオナニーって元々一人でするもんだし、普通か。


真島さんとの記憶はちゃんと私としてあって良かった。

それだけが不幸中の幸いとか言ったら大袈裟かな?

とんでもない事実が判明したけど、ハッキリと実感が湧いているわけでもなくて私はどこか他人事のようで。

あれはどうだったこうだったっていう答え合わせをするのもパニックになりそうで、それに東堂さんを消すか消さないかも考えなきゃいけなくて。

めんどくさいな。

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