第9話 招かれざる客
ある日、思いがけない人が自宅を尋ねてきた。
玄関の扉を開けた瞬間、ぞっとした。
真島さんの奥さん。
え、なんで家知ってるの?
てか何の用?
まさか真島さんがゲロって、相手が私って分かったとか?
慰謝料がどうのこうのとかかな?
いや、刺されてもおかしくないよな。
色んな事を考えながら固まってたら真島さんの奥さんが唐突に
「上がってい?」
と言って、ズカズカと部屋に入ってきた。
「あの人が浮気なんてねぇ、ほんとまさか過ぎてびっくりよ。英司は女遊びなんて出来るタイプじゃないと思ってたから。盗聴までされて、しかも会社中に流されて解雇されて。マヌケ過ぎよね」
よくそんな図々しく人ん家のソファに座って話せますねってくらいに、馴れ馴れしく話しかけてくる。
ほんと改めてコイツ嫌いだわ。
てか、真島さんのこと下の名前で呼んでるのもむかつく。
「まだ子供も小学生だし離婚は考えてないけどね。はぁ……無職とかほんっと勘弁してほしいわ。あれだけSNSで炎上されちゃあ、再就職先探すのもなかなか厳しいようだし。ねぇ、どうにかならないかしら?」
何がでしょうか。
私にどうしろと。
どうにもならんでしょうよ。
それとも無職になったのはお前のせいだから金払えよって意味でしょうか?
「よくも私の旦那を取りやがって、この泥棒猫!」
とか言って殴りかかってくるわけでもなく、回りくどい話し方しやがって。
ネチネチネチネチめんどくせぇ女だな。
金目当てならさっさと弁護士なりたてて訴えりゃいいでしょうよ。
「どうしたの?そんな怖い顔して」
煽るように私の頬に触れてきて、思い切りその手を振り払ってやった。
どうせならビンタされた方がよっぽどマシだわ、くそババア。
「……まぁいいわ。今日の所は帰るから、考えておいてね」
何を考えるんだよ。
「離婚すればいいのに。再構築ってなに?もうとっくにレスってんでしょ?夫婦的には終わってるし、子供いるってだけじゃん」
さっさと帰ってほしくて黙ってたのに、つい口走ってしまった。
真島さんの奥さんはびっくりしたような顔をしてた。
でも事実だし。
離婚して、真島さんが誰かとちゃんと恋をして、再婚ルートってのはかなり胸が痛むしそれは回避したい。
だからと言って、この女が真島さんの嫁としてのポジションを取ってるのも相当気に食わない。
「嫉妬してるの?安心して。再構築と言っても子供の為よ。親が2人して職無とか有り得ないし。子育てってほんとお金かかるんだから。あの人には一日でも早く働いてもらわないと困るのよ」
いちいち気に障る話し方するなぁ。
まぁ要はやっぱりお金ってことか。
「慰謝料請求でもした方が早いんじゃない?」
「そんな事したら再構築どころか、あの人逆上しそうでしょ?だからこちらから動く前に、相手から現金包んでくれたらいいんだけどね」
暗にそうしろと言わんばかりの物言い。
こうしなさいとはハッキリと言わず、あくまでも『こちらの意思で勝手にやりました』というテイで要求してくる
とりあえずさっさと帰ってもらいたい。
一刻も早く、すぐに。
今すぐに。
私は部屋の引き出しを開け、おもむろに封筒を彼女の前に差し出した。
「100万入ってる。不倫の慰謝料って離婚しないんならこれくらいが限界でしょ。知らないけど」
「えっ、そんなつもりで言ったんじゃないのに。受け取れないわよ」
……白々しい。
そんなつもりでしかないだろ。
「そういう変な遠慮いいから」
とりあえず早く帰ってくれ。
「……助かるわ、ほんと。今日のところはこれで帰るわね」
おいおいおい、今日のところはってまた来んのかよ。
え、なに私こうやって脅されて、これからも金せびられんの?
いつか私が刺しちゃうかもしんないわ。
「ありがとっ、陽ちゃん。じゃあねぇ」
やっと出ていった。
あいつ完全にナメてんな。
てか名前まで把握されてんのかよー。
まぁ住所分かってんだもんな、そりゃそうか。
真島さんとの不倫がバレるのが嫌だとか、慰謝料がどうのとかぶっちゃけそういうのどうでもよくて。
ほんとどうでもよくて、あの女に、真島さん越しに私という人間を把握されてるのがとても不愉快極まりない。
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