TS魔王様の奇妙な日常 ~現代日本でのんびり暮らしたいのに、気が付いたら戦闘に巻き込まれている~
チャーハン@カクヨムコン参加モード
一話目 魔王さま、現代日本へやってくる
ワシ、リーヴ・ストラグヌスは魔王である。
いや、魔王だったというのが正しいかもしれない。
最後の勇者が魔王城に現れてから七百年も経過したからだ。
魔王城の本を読みつくし、魔法も大半使いこなせるように鍛えてきた。
ワシと対峙できる生物はもはや、勇者のみである。
「なのにッ……勇者すらこないとはどうなっとるんじゃ!!」
膝を叩き嘆く。心技体を鍛えても、全力を出せる相手が存在しなければ意味を成さない。ワシは長い溜息をつきながら、
「魔王、やめたいのぅ」
と呟いた。そんな時だ。部屋の扉が勝手に開く。従者がやってきたのかと思いながら背もたれに体重をかけていると――
「初めまして、リーヴさま。私は神のつかいです」
と素っ頓狂なことを言う女が現れた。これには、ワシも困惑するほかない。
「おぬし、勇者の仲間じゃないのか……? どうやってここまできた」
「魔物の方々は眠ってもらいました。当分、眠ったままですよ」
ワシは奴の言うことが本当か確かめるために魔力探知魔法を行使する。数秒で情報を取得し終えたワシは、女の言うことが事実であると理解する。
「配置した魔物たちを殺さず無力化するとは、すばらしい技量じゃな。どうだ、おぬしは世界の半分を欲しかったりしないのか?」
「それ、ゲームオーバーになるやつじゃないですか。断りますよ。それに、私は魔王様を討伐しようと思っていませんよ」
「……そうなのか」
「そうですよ」
……なんと退屈な奴じゃ。力を持つのに、行使しないとは。
「では、おぬしは何しに来たのじゃ?」
ワシは面倒くさそうに質問する。
発言次第では屠ってやろうと思考を巡らせている中、奴は口をひらく。
「人間の女の子になって世界を救いませんか?」
「――は?」
その女の発言は、あまりにも予想外のものであった。
魔王のワシが、世界を救う?
それも、人間の女になって?
「ワシに、何の得がある?」
「得ですか……強いて言うなら、退屈な人生を終われますよ」
「退屈な人生、か。ククク、それには同意じゃな」
名前だけの魔王として生きるワシは、退屈しきっていた。
第二の人生を得るために魔王をやめようと思うほどに。
「しかしのぅ。おぬし――」
「シッシーです」
「……シッシーの言う、現代日本とやらに好敵手なりえる生物はおるのか?」
「はい。それはもうたっくさんいますよ!」
奴は嬉しそうに返答する。言葉が嘘か誠か、見極めることは出来ない。 唯一真実として理解できるのは、シッシーが紹介した映像に映る人間たちの道具技術が我が国よりも数倍進んでいるということだ。
この技術を理解できれば、ワシの人生は今よりも数段豊かになる。
「退屈していたところじゃしのぅ……折角じゃし、力を貸してやるわい」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ!!」
シッシーは嬉しそうに飛び跳ねながらワシの手を掴む。時折「美少女と……うへっ、うへへへへ」と変な言葉をつぶやいていた。
そんな奴に対し、ワシは一つ質問する。
「シッシーよ。この世界に戻ってくることはできるのか?」
シッシーは少し考えるそぶりを見せたあと、「転移者が問題を解決すれば戻れますよ」と返答する。
「なるほどのぅ。世界を救わないと戻ってこれないわけじゃな」
「おっしゃる通りです」
「ふぅん……ま、大丈夫じゃろ。ワシ最強じゃし」
強気な返答を返してから、「そろそろ現代日本へ送ってくれ」と急かす。それに対し、シッシーは「ちょ、ちょっと待ってください」と言う。奴の行動に対し少し気になったが、特に害のある行動ではないじゃろう。
「最後に玉座にでも座るかのぅ」
魔王城の椅子に座りながらのんびりしているとシッシーが「準備完了です!」と連絡してきた。ワシは椅子から立ち上がると同時に、奴の前へ歩いて向かう。
「いったい何をやっておったんじゃ?」
「はい! リーヴさまに合う、体の見た目についてです!」
ほぅ、そういえば見た目について口にしていたのぅ。
魔法によって戻れるんじゃから、見た目なんてどうでもよい。寧ろ、美少女として敵を油断させてから潰すという遊びもできそうじゃ。
「とにかく! あなたには今日から私好みの美少女として生活していただきますからね! そのために、私が住む場所の近くへくるようにしましたから!」
「なんだか面倒くさいことをするんじゃのぅ……まぁ、よいわ」
ワシは腕を組みながら首をこくこくと上下に動かした。
「ではではっ! 早速転送しますね!」
「おぅ! 頼んだぞ!!」
シッシーに返事を返すとともに、ワシの体がキラキラと輝き始める。転送する際に光の粒が発生するとのことだ。星々を見ていなかったワシは少しばかり心を躍らせていた。刹那――視界が急に明滅し、ドスンと落下する音が響く。
「いたたたた……」
ワシは臀部に生じた痛みを無くすために軽く擦る。声質から察するに、シッシーが口にしていた少女という生物にでもなったのだろう。ワシがそんなことを思いつつ、辺りを見渡す。
茶色の床に、鉛色の取っ手が付いた扉が散見される。奥の広いスペースには細い板が飾られており、画面に人間が映っている。
「人間は板の中で生活できるようになったのか。近未来だな」
ワシがそんなことを口にしている時だった。
後ろから何かを落下させる音が響く。音の発生源に顔を向けると、白色の服と膝小僧が見えるほどのズボンをはく男が体を震わせて立っていた。
その男は、ワシを指さしながらとんでもないことを言い放ったのだ。
「露出狂だああああああああああああああああああああ!」
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