第5話 まずは彼女と対話する②
「琴吹……俺はさ──」
そうして俺は事前に用意していた
舞台上の俳優になったつもりで彼女へと
決して俺の本心を悟らせてはいけない。
「君が初めての彼女だったんだ」
「……」
返事はない。
彼女はジッと、こちらの話を聞く体勢を見せている。
「だから絶対に大切にしようと頑張った……いや、頑張ってたつもり……かな? 多分、盛大に
そこで一度、言葉を区切る。
そして軽く息を吸い込むと、それを言った。
「この3ヶ月間。俺はずっと自分のことばかり考えて、君を見ることができなかった」
彼女は
だから説明するようにして言葉を続ける。
「結局俺は、自分の気持ちを制御するのに精一杯で、君が何を望んでいたのかすら考えようともしなかった。『君を幸せにしよう』ってその考えが足りてなかったんだ、俺は。
さぞつまらない恋人だったと思う。それについては本当に申し訳ない。本来なら彼氏として、琴吹に不安を覚えさせるべきじゃなかった」
「そんなっ……こ……と──」
ない、とは言い切れない。
尻切れになる彼女の言葉を聞きながら思う。
俺が彼女を満足させることができていたのなら、彼女が
琴吹はしばし
「でも、それは工藤くんが謝ることじゃない。私が不義理を働いたことは確かだから……だから工藤くんは私を嫌いになってくれてい──」
「それができなかった」
彼女の言葉に被せるようにして言うと、彼女が息を
「俺は君を嫌いになろうとしても……どうしてもできなかったんだ」
琴吹が信じられない言葉を聞いたようにしている。
それを受けて、俺はここぞとばかりに
「お前は
「でも……でもっ私は──」
そこで琴吹は動揺する気配を見せる。
俺の言葉があまりにも意想外だったのだろう。
困惑した感情のまま、何かしらの言葉を発しようとしている。
しかし俺は、彼女から計算外の対応をされる前に、先んじて言葉を制する。
「俺は君を許そうと思う」
「えっ──」
彼女の動きが止まった。
「結局、今の俺にできる精一杯ってのはそれしかないってことに気づいた。今更になって遅いとはわかっているけどさ。それでも俺は君が大好きだったから……だから君の幸せを願うためにできることする」
そこで俺は、ついにその
「──俺は
彼女からの返事はなかった。
しばらくは二人とも黙って、静寂の時間が過ぎる。
それがどれくらい過ぎた頃だっただろうか。
彼女の口が開かれる。
「私を許してくれるの……?」
「ああ」
「でも……だって……私は浮気をしたんだよ?」
「それは確かに辛いけど……琴吹が笑顔になれるなら、それでいい」
答えると、
彼女の瞳からツウ──と、ひとすじの涙が流れる。
それは歓喜の涙か、それとも安堵の感情からか。
しかしそれを見て、俺はというと──
──だ
と、内心にてほくそ笑んだ。
琴吹の頭がお花畑で助かった。
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