彼女が『ネトラレ』たので『ネトリ』かえす物語

久保良文

第1章 ネトラレたのなら、ネトリかえす【ネトリ準備編】

第1話 今日、彼女がネトラレました

 漫画みたいな話なんだが、俺の彼女が見知らぬ男とホテルから出てきた。

 

『あ……』


 それは俺と彼女の声が重なり合った声であったが、てんで嬉しくはない。

 

 そのまま俺たちは話をするために近場にあるファミリーレストランへと入店した。だが、何も言葉を発することのできない俺にかけられたのは、彼女からの無機質な宣言である。


「あなたとは違う人を好きになりました。ですので別れてください」


 俺はといえば、何も返答をすることができなかった。


 その後、現状ではまともな話し合いはできないという結論になり、その場は解散して、俺は帰宅し、自室のベットに寝そべる。

 そして──


「うんぎゃーーーーーーー!!??」


 もちろん発狂する。

 下階から「何事!?」と驚いたような母親の声が聞こえてきたが「なんでもなーい!」と叫ぶと「静かになさい近所迷惑でしょー」と返ってきた。きっと思春期によくある『青春の嘆き』だと思われたのであろう。若者にはよくあることだからと見逃してくれた。ふぅ、危なかった。


 さて、叫んで幾分か気が晴れたところで、現状を振り返る。


 俺の名前は工藤アラタ。

 極めて平々凡々な、学園に通う二年生である。


 そんな俺でも交際している彼女がいることだけが自慢であったのだが、この度、あえなくフラれてしまった。交際期間は三ヶ月である。生々しい。


 彼女には俺の方から告白した。

 玉砕覚悟で挑んだのであるが、まさか成功すると思わず……俺はその時点で浮かれ切ってしまい、彼女に対するアフターフォローを怠ってしまったようである。

 よくある『寝取られ』系の小説や漫画などでは、主人公が「俺はなんにもしていないのになんで!?」みたいな慟哭どうこくをする場面があるが、何もしなければフラれるのは当然のことである。悪いことどころか良いことさえしなかったのであれば愛想を尽かされるのは目に見えており、短い人生、いてもいなくても同じ人間に割く時間がもったいないのだろう。タイムパフォーマンスというやつだ。

 そのように、俺がフラれた原因はしっかりと理解している。俺はもっと四六時中べったりと彼女につきまとい、まるで夏場の蚊柱かばしらのようにそばに居続けるべきだった。後悔してもしきれない。


 結局のところ、彼女とは恋人らしいことは特にしないままでの破局となった。したことといえば、数回のデートに、校内での軽い語らい、それだけである。


 ──それなのに奴らはスケベしたんか!?


 思考は真っ先にシモへと走る。

 今日、俺は、ホテルから連れ立って出でくる彼女と浮気相手を目撃したわけであるが、それが意味するところは、もう、一つしかないわけである。


 つまり奴らは交尾したのだ。

 俺以外のやつと──


「おんぎゃーーーーーーー!!??」


 下階から、母親の本気の怒声が聞こえてきた。

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