第5話 招かれざる客

私が作戦の成功を喜んでコーヒーを飲んでいると、目の前にふわふわした小型の魔物が現れた。


「助けてほしいハム、大魔王様〜!」


その魔物はオレンジ色のネズミのような外見をしている。が、ネズミと思えないほど丸っこく可愛らしい。


これが俗にいう「ハムスター」というやつか。本で見たことがあるが、魔界では乱獲が原因で絶滅したのではないのか?


もっとも、齧歯類の繁殖力はバカにならないからどこかで息を潜めていた可能性もなくはないが。


……いや、ネズミが喋るわけがないか。まあ、ハムスター型の喋る魔物だろう。


「それで、何だ?用件とお前の名前を言え」


「ぼくの名前はハムミンっていうハム。西の方からやってきたテッソ族の魔族ハム」


「テッソ族?そんな種族は聞いたことがないな……。語尾に何かをつける種族は珍しくないが、お前みたいな鮮やかな色のネズミの種族は見たことがないな」


「そうハムか……」


「一応確認させてもらおう。おい、ドリケラ!」


俺は学問を担当する側近・ドリケラを呼び、ハムミンのいう種族が本当なのか調べることにした。


ハムミンは少し汗をかいているようにも見えたが、俺と話している時に落ち着いていたから多分大丈夫だろう。


「ふむ、彼がハムミンさんですね、大魔王様?」


「ああ、そうだ。こいつはテッソ族と名乗っているが、そんな種族が本当にいるのか確認してくれ!」


「わかりました。種族事典をお持ちしますね」


ドリケラは最新の種族事典をとりに書庫に向かう。しばらくするとドリケラは書庫から最高級のステーキほどの厚みがある一冊の種族事典を取り出して戻ってきた。


「テッソ族……と言いますとイニシャルはTですね」


ドリケラは「T」のところまでパラパラと紙を捲ると、一枚一枚、丁寧にページを切り替えていく。そしておそらく「U」のところまで捲った後、彼はこういった。


「すみませんが、そのような種族は見つかりませんでしたね」


「そんなわけないハム!きっとその事典が古いんだハム!」


「いいえ?この事典はわずか2週間前に刊行された最新の生物事典です。あなた、本当に魔族なんですか?」


ハムミンはダラダラと汗を流す。そして、突拍子もなくこう叫んだ。


「こっ……こいつは揚々と信じてくれたハム!なのにお前がきたせいで全部台無しになったんだハム!全く最悪だハム……」


おい待て。まさかこいつ……本当に魔族じゃないのか?


「ほぅ……今のセリフ、かなり聞き捨てなりませんね……。我らが偉大な大魔王様に『こいつ』呼ばわりとは……」


ドリケラは目を赤色に光らせる。そして、大声で魔法を詠唱する。


「ランドスライド!」


ランドスライド。私も魔王になる前に何度か使ったことがある、上級の土魔法だ。


ハムミンの頭上に数十メートルはありそうな大きな岩が出現し、それが数個に割れて頭上に降り注いだ。


「ハムーーーーッ!」


岩に押しつぶされたハムミンの甲高い叫び声が聞こえる。


「助けてくれハム!魔法少女・ミラコロマギアー!」


魔法少女……だと?


魔法少女といえば、我々を襲う四種の『勇者』の一角のはず……。


————


(ここから三人称視点)


一方その頃、魔法少女・ミラコロマギアの者たちは……


(助けてくれハム!魔法少女・ミラコロマギアー!)


「これは……ハムミンの声!?」


「まさかとは思うけど……あのキラーインたちに捕まったの?」


ちなみにキラーインとは、彼女たちがいた世界で人間に取り憑いて憎しみや恐怖の感情を増幅させ、異形の怪物に変えている存在のことである。


「……ハムミンが危ない」


「どうするんだ?ハムミンを取り戻しに行く?」


「ハムミンの反応はあのお城から来ているみたい。今すぐ行こう!」


そうして、魔法少女たちは前にステッキを突き出す。突き出されたステッキはどんどん伸びていき、最終的に安定して飛べるほどの長さになった。


魔法少女たちはその上にまたがり、そのまま魔王城に向かって高速で空を飛んでいく。


————


(ここから対勇者隊員アクラブ視点)


俺が外での勇者調査と人命救助の仕事を終えて魔王軍から出された弁当を食べていると、外から何かが高速で飛んでくるような風を感じた。


「あれはなんだ?魔王城に向かってくるぞ!」


「翼を広げて飛んでいるわけではないということは、見たところ魔族ではないようですね……これも人間の勇者でしょうか?」


「とりあえず、撃ち落とそう!」


棒状のものに乗って向かってくる飛行物体の上に、魔法で発生させた炭のような黒い雲が出来上がる。


その黒い雲は飛んでいる奴らの方に向かってゴロゴロ、ゴロゴロと音を立てて雷を落とす。


「キャアアアアアア!」


「よし、一人落としたぞ!残り三人を狙え!」


大魔王城防衛軍の一人がそういうと、雷が落ちる間隔がさらに狭まる。


「うわあああああ!」

「うっ…………」


そのまま残りの三人中二人も雷で撃ち落とされていく。


「残り一人になったぞ!あいつに雷を集中させろ!」


「わかりました!」


残り一人になった勇者に向けて雷を落とそうとする。しかしここで勇者は移動速度を上げ、魔王城に近づいてくる。


そのまま彼女は魔王城の敷地に侵入してしまうのだった……。

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