贅沢を編む

@rona_615

第1話

 クッションの上に型紙を置く。細かに引かれた線の交点に一本一本、ピンを落としていく。それらを支点にボビンを操る。目が霞むのを堪え、両の手を動かし続けると、ほんの少しずつ花や葉の模様が形作られていく。

 物心ついた頃から繰り返してきた作業。昨日も今日も明日も、型紙のデザインが変わるだけの、出来損ないの複製のような日々が連なっている。

 この仕事はなくならない。だから自分に選択肢はない。小さな部屋とレース屋との往復だけで人生が終わる。

 そう信じてきた。けれど、自分が俯いてレースを編んでいた間に世界の方がぐるりと変わった。

 店の棚を機械編みのレースが占める割合が増えていく。安価なそれを横目に手編みレースを選ぶような貴族様方は減っていく。仕入れても売れないことが決まりきっている品を引き受けてくれる店などない。

 これで、やっと自由だ。

 たった一人きりなら、その日暮らしでなんとでもなる。

 クッションやボビンを売った金を手に軽やかな足取りで私はパリに向かう。

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