夢の中で夢を見て、それすらも夢だった夢(悪夢)

2024.9.5


 私は、大学から自転車に乗って、最寄り駅に来ていた。

 これから家に帰るのだ。


 駅に着き、自転車を降りて、駐輪場へと向かう。

 そこの駐輪場は、普段であれば警備員がいるはずだと、夢の中でそう認識していた。しかし、そこには誰もおらず、電気もついていなかった。

 空きスペースを探すために、暗い駐輪場の奥へと進む。入口から差し込む陽の光は、辛うじて奥まで届いている。


 フラッシュバックするかのように、頭の中にイメージが浮かんだ。

 この駅周辺で、ずた袋をかぶった不審者が出没しているのだと、大学で聞いた。

 次の瞬間、鉄扉を閉めるような軋み音がした。慌てて振り返ると、今にも入口が閉められようとしている。私は自転車を放り投げ、慌てて入口へと走った。

 

 閉められた鉄扉を開けようと、内側から力任せに押す。鉄扉は少しだけ開き、しかし外からの力によって閉められる。

 もう一度押す。少しだけ開いたが、再び閉められる。


 閂をかける音が聞こえる。やばいと感じた私は体当たりした。


 扉が開いた。

 閂はかかってなかったのだろうか。

 誰が扉を閉めようとしたのか。

 しかし、それを確認する余裕がなかった。耳元でチェーンソーの音が聞こえたからだ。


 無我夢中で駅へと走る。鞄にぶら下げたパスケースを手に持ち、改札を走り抜けようとする。

 エラーが発生した。改札は、電子音と赤いランプでエラーを知らせる。

 早くしてと、私は焦る……


 ふと目を覚ます。

 自宅リビングのソファに、私は寝転がっていた。


 そうだ、今日は休日だ。昼寝をしていたのだった。

 しかし体は動かない。寝起きで体が起き上がらないんだなと理解した。


 しかし嫌な夢だった。


 ふと、玄関が気になった。

 そういえば鍵をかけていなかった。さっきの嫌な夢を思い出し、鍵をかけようと思い立つ。

 重たい体を無理矢理起こし、玄関へと向かう。


 しかし、玄関に行き着く前に、大きな音を立てながら玄関が開いた。

 知らない男が、チェーンソーを持って家に入ってきたのだ。


 私は叫びながら引き返す。ペット部屋にこもり、扉を閉めて、ガタガタ震えながらへたりこんだ。

 男はペット部屋までやってきた。鳥二匹とデグーを流し見て、私を見下ろす。

 殺される。やばい。

 命乞いをしようとしたのに、口から出たのは、


「うちの子達には何もしないでください」


 だった。

 男は聞いているのかいないのか。

 私の胸倉に手を伸ばし……


 ハッと目を覚ました。

 自宅リビングのソファに、私は寝転がっていた。どうやら、夢の中で夢を見ていたらしい。


 あんまり怖い夢だった。私は、悪夢から解放された安心感に暫くひたっていた。

 上階からは、掃除機の動作音がする。

 隣の部屋からは、男性の咳払いがする。

 それをぼんやりと、横になったまま聞いていた。


 ふと、玄関が気になった。

 そういえば鍵をかけていなかった。さっきの嫌な夢を思い出し、鍵をかけようと思い立つ。

 重たい体を無理矢理起こし、玄関へと向かう。


 玄関に行き着く前に、扉がガタガタと音を立てた。

 先程の悪夢を思い出し、サァッと血の気が引いた。

 

 僅かに扉が開く。隙間から知らない目が覗く。

 私は玄関に飛びつくようにして扉を閉め、鍵をかけようとして……


 目を覚ました。

 心臓がバクバクと鳴っていた。


 夢の中で夢を見て、それすらも夢だったということだ。

 目を覚ました私は、今度こそ鍵を閉めようと玄関に向かった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る