ワールドファクター

Ricky

第1章:青灰色の世界

プロローグ・α

 星々と月明かりが照らす夜空に幾つもの流星が尾を引きながら空を駆ける。同時に花火が打ち上げられ、さらに彩りを加えた。「創の流星」と呼ばれるこの現象は、30年に約10日間だけ起こるとされている。それを祝う祭りが始まったのだ。

 一人の金髪の少年が遠くの丘の上からその様子を見つめていた。少年は黒を基調とした軽装に身を包んでおり、左腰には剣を、そして右腰にはポーチを着けている。街中が賑やかで屋台も多く立ち並んでいるが、少年はそれらには目もくれずに空を眺めていた。

 少年の名はジェノと言う。ジェノは固有の魔力を一切有していない。魔法が扱われる事が当たり前となったこの国においては、簡単に言えば異端児と言われる存在だ。魔法大国と言われる国からすれば、彼が生まれる事など想定外の事であったのだ。

 そんな国の中で生まれ育った自分の中で、生きるために魔法を得なくてはならないという考えが渦巻いた。そのために、ジェノは旅に出る事にした。

 ジェノは「創の流星」が始まる今日を最後に国を出る。いざ立ち去る日が来てしまうと、理由も分からないままに寂しく感じてしまう。この土地単体で考えれば、特に深い思い入れがあるわけでもない。それなのに、何故そう考えてしまうのか。それを心のどこかで不思議に感じていた。

 ジェノが自分が長らく暮らしてきた街並みを丘の上から見下ろす。建物同士を繋ぐように吊るされた灯篭が色とりどりの景色をさらに映えさせている。自分が好んでいた場所にもう来られなくなるのかと思うと、それはジェノには少し残念に思えた。

 ジェノは花火と流星群を見上げたまま、この街での最後の時を過ごした。そして、彼の魔力を得るための旅がここから始まる。

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