第52話 剣友訪問②

 【欺瞞の神殿】攻略から約一週間後。

 自室で寛いでいた俺のもとに使用人がやってきた。


「レストお坊ちゃま、お客様がお見えになりました」


「分かった、すぐ行く」


 そう返した後、急いで玄関へと向かう。

 するとそこには、幾つも見知った顔が並んでいた。


 まず、そのうちの一人と目があった。

 サラリと伸びる金色の長髪はキラキラと輝き、見るもの全てを吸い込む大きな瞳にはサファイアのような深い蒼を宿している。


 彼女の名はシャルロット・フォン・フィナーレ。

 『剣と魔法のシンフォニア』に登場するメインヒロインであると同時に、ここフィナーレ王国の第二王女。そして、俺の友人だ。


 シャロは俺を見つけるなり、パアッと顔を輝かせる。


「レスト様! お久しぶりです!」


「ええ、お久しぶりで……あれ? 前回シャルロット殿下がいらっしゃってから、まだ二週間程度しか経ってない気がするのですが」


「はい! ですから、ですね!」


「…………」


 王女が月2で来訪するなど、かなりのハイペースだと思うが……

 どうやら俺とシャロの間では、体感時間がかなり異なっているらしい。


 そんな感想を抱いていると、続けて二人目が頭を下げる。


「度重なる訪問をお許しいただき、感謝いたします、レスト様」


 艶のある青髪が特徴的な彼女の名はエステル。

 彼女もまた『剣と魔法のシンフォニア』に登場したサブヒロインであり、シャロの使用人兼護衛でもある。


「顔を上げてください、エステルさん。私としても、こうして殿下が来てくださるのは歓迎ですから」


「そう言っていただけると助かります」


 エステルはそう呟きながら、ほっと胸を撫でおろす。


 その直後だった。「ははっ」と、軽快な笑い声が響いたのは。


「既にシャロから話は聞いていたが……まさかここまで、君たちの仲が深まっているとはな」


「……エルナさん」


 最後の一人は、ある意味で俺にとって、シャロ以上に関係のある人物だった。


 透き通るような白銀の長髪を靡かせ、ルビーのように鮮やかな瞳が特徴的だ。

 均整の取れた体には、美しさと強さを兼ね備えた服を纏っており、その立ち姿はまさに威風堂々の一言に尽きる。


 彼女の名はエルナ・ブライゼル。

 18歳という若さにしてSランク冒険者の称号を持つ、この国きっての天才だ。

 そして、俺がこの世界に来てから多くのことを教わってきた師匠でもある。


 ちなみにシャロやエステルとは違い、エルナは『剣と魔法のシンフォニア』に登場していない。

 そのため俺が知っている彼女の情報は、転生前のレストが持っていたものと、転生後の俺が彼女から感じ取ったものに限られる。

 

 ――少し長くなってしまったが、一言でまとめると、この世界で俺が最も尊敬している相手ということだ。

 エルナは小さく笑みを浮かべると、俺をじっと見つめてくる。


「前回会ってからそれほど経っていないはずだが……見違えたな、レスト。君を見るたびに驚かされている気がするよ」


「……エルナさんにそう言っていただけると、自信がつきます」


 さすがはエルナと言うべきか。

 前回、彼女と会ったのは兄二人との決闘を行った一か月前。

 それからの俺の成長ぶりを、剣を交えずとも測れたようだ。


(まあ、さすがに全てとは思わないけどな……)


 話を戻そう。

 そもそも、そんなエルナとシャロたちがどうして一緒にやってきたのかだ。


 ことの発端は数日前。

 俺はリーベをテイムした後、伝達用のマジックアイテムを利用しシャロに一つ連絡を入れた。

 先日の魔物襲撃について、もう危険性がないことを伝えるためにだ。


 元々、あれはリーベが俺の【テイム】を探るために起こしたもの。

 彼女をテイムした以上、同じような事件が発生することがない。

 だからといって、事情を一から十まで説明するわけにはいかず……

 最終的には、『あの襲撃は偶然により発生しただけで、誰かを狙ったものではないことが判明しました』――そうシャロに説明したのである。


 するとその数日後、シャロからは『それなら、次の剣友修行もすぐにできそうですね!』という元気いっぱいの答えが返って来た。

 さらにはエルナの指導日が近づいていることを知った彼女は、せっかくということでタイミングを合わせるのはどうかと提案してきた。

 その結果、彼女たちがこうして一緒にやってきたというわけだ。


 仮に道中で何かあろうと、エルナ以上に適任な護衛はいないわけだし……

 とまあ、まとめるとこんなところである。


 ちなみにだが、リーベには本日、屋敷に近づかないよう注意しておいた。

 エルナの勘の良さを考えると、彼女が魔族であることに勘付かれる可能性があるからだ。


 一通り状況を整理した後、俺は「こほん」と咳払いする。


「では、そろそろ移動しましょうか」


 そう提案する俺に対し、エルナが続けて言う。


「私は先にエドワードとシドワードへの指導がある。二人はそれが終わるまで時間を潰しておいてくれ」


 っと、そうだった。

 元々エルナが俺に指導してくれているのは、兄二人のついで。

 今日も本来の目的は二人への指導であるため、そちらを優先するのは当然だろう。

 さすがにそこへ俺たちが乱入するわけにはいかないし……(そもそもシャロが一緒にいれば、二人が何かやらかす可能性がありそう)


 俺はシャロに視線を向ける。


「二時間ほどかかると思いますが、お茶でも用意いたしましょうか?」


「私はそれでも構いませんが……他に剣を振れる場所はないのでしょうか?」


「一応小修練場がありますが、殿下をお通しするには適していない場所でして……」


 そう告げるも、シャロは首を横に振る。


「いいえ、剣が振れるのでしたら私は構いません! 今すぐ、レスト様との剣友修行を始めたいです!」


「剣友修行……?」


 とのことだった。

 ちなみに隣で聞いていたエルナが、不思議そうに復唱しながら首を傾げている。

 彼女には珍しいリアクションだった。



 何はともあれ、そういうわけで俺たちは一旦エルナと分かれ、小修練場に向かうのだった。

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