第19話 黒竜との対峙
翌日。
深層への許可はまだ貰えていないが、俺は独断で目的地に向かうことにした。
浅層を抜け、中層を抜け、とうとう深層に到着。
時折現れるBランクの魔物を倒しながら突き進むこと約一時間、俺とガレルはようやくその場所に辿り着いた。
そこは、これまで見てきた光景とは明らかに趣が異なっていた。
ここにくるまでは森らしく巨大な木々が聳え立つばかりだったが、その一画には不自然なほど何もない平野が広がっている。
そしてその中心には、これまた場に似合わない巨大な祠が建っていた。
それを見つけた俺は、思わずニヤリと笑みを浮かべる。
「ここに、アイツがいるんだよな」
そう呟きながら俺とガレルが平野に――すなわち、竜が支配する結界の範囲に足を踏み入れた次の瞬間だった。
『グルァァァアアアアアアアア!!!』
大気を震わせんばかりの咆哮が、辺り一面に響き渡る。
それと同時に、祠の中から一体の巨大な影が姿を現した。
艶やかに輝く漆黒の鱗に覆われた堂々たる体躯。
そこから生えた巨大な翼を広げ、頭上から俺たちを見下ろしてくる。
全長は優に10メートルを超えているだろう。
俺の知る
そのあまりの大きさに圧倒されながらも、俺はゲーム時代の記憶を手繰り寄せ思わず苦笑する。
「ははっ、信じられないよな。これでまだ、生まれてから数年しか経っていない幼体だなんて……」
――そう。
黒竜はこれだけの威圧感を放っていながら、まだ完成された存在ではない。
ゲームに登場した全盛期に比べたら大きさも10分の1程度。
逆にいえば、完成された個体になると全長は100メートルを超え、強さもその分だけ膨れ上がるのだ。
それもそのはず。
この世界において竜とは大量の魔力を持ち、それらをありとあらゆる事象に変換する魔力の王。
さらに年齢はあってないようなもので、魔力を吸収することで急激に成長することもできる。生まれてからたった数年でこれだけの力を得ているのがいい証拠だ。
原作では中盤以降(レストが死んだあと)、魔王軍幹部に操られてしまい、暴走したこの黒竜が王都を半壊に追いやるというストーリーがあった。
その圧倒的な強さたるや……その時点でAランク級の実力を持っていた主人公たちが総出でかかっても敵わない、負けイベントだったといえば理解できるだろうか。
初めてプレイした時は、本当にこのまま国ごと滅ぼされてしまうんじゃないかと俺も思ったほどだ。
しかしそうはならなかった。
その一番の理由を挙げるなら……この竜が優しかったから、と言うべきだろう。
主人公たちの敗北後、魔王軍幹部の支配をなんとか退けた竜は、最後の力を振り絞り自分が傷を負わせた人や町を回復させた。
そして死の際で黒竜は語る。
竜種は先祖の記憶を受け継ぐことがあり、この黒竜もまたかつての記憶を思い出していた。
黒竜の遥か先祖は、かつてこの国の守り神として仕えた神竜であり、多くの魔族や魔物から町を守った英雄。
だからこそ、自分の力で人や国を滅ぼしてしまうのだけは避けたかった――と。
語り終えた黒竜は、そのまま静かに命を落とした。
このイベントは負けイベということもあり、プレイヤーの間でそこまで人気のあったシーンではなかったが……俺の中では妙に印象に残っていた。
たった一つのイベントにしか登場しなかったこの黒竜に、当時の俺は強く感情移入したのだ。
だからこそ俺がレストに転生したと分かった時、真っ先に思った。
俺が持つ【テイム】の力でこの竜を使役してみせる。
黒竜が味方になれば頼もしいという理由もあるが、それ以上に原作のような悲しい結末を迎えさせたくなかった。
(あとはまあ、原作で黒竜が登場するのはレストが死んだ後だから、テイムしても死亡フラグには関わらないだろうっていう打算もあるけど……)
それはさておくとして、今に集中するとしよう。
「俺がこの世界に転生し、お前をテイムすると誓ってから早4か月……ようやくそのチャンスが回ってきたってわけだ」
問題はテイムを試みる以上、そんな最強の黒竜に勝たなければならないわけだが……それについても考えはある。
ゲームにおいては、魔王軍幹部に大量の魔力を与えられ超Sランク級にまで成長した黒竜だが、今は幼体ということもあり高くてもBランク上位程度のはず。
俺とガレルが力を合わせれば、勝つのは決して不可能じゃない。
「そういうわけだ、黒竜。悪いが、俺たちに少しだけ付き合ってもらうぞ」
『――ルァァァアアアアア!』
そう告げると、空を舞う黒竜が雄叫びを上げながら俺を見据えた。
黄金の瞳がまっすぐに俺を捉える。
まるで俺の意図が分かったうえで、かかって来いと言われているかのようだった。
そんな黒竜に対し、俺は心の中で笑みを浮かべた。
――――望むところだ!
「いくぞ、ガレル!」
「バウッ!」
気合を込めた俺の声に、ガレルが力強く呼応する。
こうして俺たちと黒竜の戦いが幕を開けたのだった。
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