第10話 初めてのテイム

 ガレウルフを倒した直後、シャルロットから歓喜の声が上がる。


「や、やりましたね……!」


 俺は喜ぶ彼女にゆっくりと歩み寄る。

 危険な戦闘を潜り抜けたばかりだ。怪我がないか確認しないと。


「ご無事ですか?」


「は、はい。貴方の……レスト様のおかげです」


「っ!?」


 その返答に俺は思わず表情を凍らせた。


「どうして、俺の名前を……」


「そちらの木剣、エルナ様にいただいたものですよね? 私も同じものを持っていますから」


 シャルロットは凛とした面持ちで立ち上がると、改めて自己紹介をしてきた。


「大変失礼いたしました。改めまして、私はフィナーレ王国第二王女、シャルロット・フォン・フィナーレ。レスト様とは、同じ剣の師匠を持つ身でございます」


 一呼吸置いてから、シャルロットは感謝の言葉を口にする。


「この度は私をお守りくださったこと、心より感謝申し上げます。貴方の勇気と剣技に心から感服いたしました」


 畏まった口調と言葉。

 しかしそこでシャルロットは表情を崩すと、ゲームのイベントスチルにも負けない満面の笑みを浮かべて言った。


「本当に、ありがとうございます――レスト様!」


 その屈託のない笑顔に、俺はしばらく見惚れてしまうのだった。



 お互いの素性が判明した後。

 俺はシャルロットに兄たちの面倒を見てもらうよう頼んだ。


「申し訳ありません、俺は少しガレウルフの様子を見てきます。シャルロット様にはどうか、兄たちの手当てをお願いできますか?」


「はい、わかりました。お任せください」


 許可をもらった俺は、意を決してガレウルフの元に向かう。

 最後の一撃はかなり威力が出ていたようで、木々を数本超えたところにガレウルフが横たわっていた。


 シャルロットの位置からは、今から起きることが確認できないはずだ。

 ……俺にとって、この上なく都合がいい。


「ガルルゥ……」


 すると、足元から聞こえる弱々しい唸り声。

 立ち上がれないくらいに弱ってはいるものの意識はまだ失っていないようだ。

 その証拠に、ガレウルフの両目には力強さのようなものが宿っていた。


(よし、ここまでは上出来だ。後は、コイツが俺に仕える意思を見せてくれるかどうか……)


 ここから先は全ては運に委ねられている。だが、俺の決意に迷いはない。

 そう心に誓った時、目の前に突如としてウィンドウが現れた。



『ガレウルフが、自分を打ち破った強者である貴方に興味を持っています』

『ガレウルフが使役可能となりました。テイムしますか?』



 そのメッセージを見た瞬間、俺の胸中は歓喜に包まれた。


(やった……! テイムできるぞ……!)


 俺の意思を問うように浮かび上がったその文字。迷う理由などどこにもない。

 ガレウルフは俺を新たな主として認めてくれたのだ。


 高揚を隠しきれないまま、俺は優しくガレウルフの額に手を伸ばした。

 魔力を込めて静かに語りかける。


「ガレウルフ……俺が使役テイムする、初めての魔物になってくれ」


「……ガルゥ!」


 俺の言葉が通じたのか、ガレウルフは小さく、だけど力強い唸り声で応じる。

 直後、俺とガレウルフの間に眩い魔力が生じた。


 刹那、次々と現れていくメッセージウィンドウたち。



『テイムに成功しました』

『テイム対象が持つ力の一部が、あなたに与えられます』

技能アーツ【風魔法】を習得しました』

『初めてのテイムに成功したため、【縮小化しゅくしょうか】と【異空間住居いくうかんじゅうきょ】を習得しました』



「よしっ!」


 繋がる経路パス

 流れ込んでくる魔力と新たな力。

 確かな手応えと共に、俺は思わずガッツポーズをしていた。



 ――――そう。これこそがまさに、レストが最強に至ると考えた理由だった。



 レストの持つ【テイム】は魔物を使役できるだけなく、なんと使役した魔物の力を獲得することができるのだ。

 どの魔物にも共通しているのが身体能力ステータスの強化。さらに固有の技能アーツを持っている場合、その技能アーツすら使用することが可能となる。


 ちなみに技能アーツというのはゲームにも登場した単語ワードであり、主にスキル以外の技のことを指す。今回でいうならガレウルフが使用していた【風魔法】のことだ。


 ゲームのレストはこの力に溺れた結果、全てを失うという悲惨な末路を迎えた。

 だが俺は違う。欠点を補うべく鍛錬を重ね、強靭な肉体と精神を得た。

 ステータスを伸ばすだけでなく、師匠エルナに教えを請い剣技も磨いた。


 それらの努力は今後も怠るつもりはない。

 故に俺は、魔物を使役すれば使役するだけ強くなれるのだ!


(いける! これなら本当に、俺がこの世界で最強になれる!)


 言い表せないほどの興奮に包まれながら、俺は歓喜に打ち震えた。


 だが、ここで次なる問題が立ちはだかる。

 こんな大きな体のガレウルフを一体どうやって連れ帰れば良いのか。


 その答えは既に知っていた。

 先ほど授かったばかりの、【縮小化】と【異空間住居】を使えば良い。

 ガレウルフを小さくして異空間に待機させておけば、どこへでも一緒に連れて行ける。


「ガレウルフ……って毎回呼ぶには長いな。そうだ、名前の一部を取ってガレルってのはどうだ?」


「ガウッ!」


 嬉しそうに吠える姿を見て、俺は微笑んだ。


「よし、決まりだ。ガレル、お前の存在をひとまず周囲に隠しておきたい。この力を使わせてもらってもいいか?」


「クウゥン!」


 同意を得た俺はガレルを小さくし、異空間へと送り出した。

 これで屋敷に戻ってもテイムの力がバレることはないだろう。


 こうして、俺にとって初めてのテイムが無事に終了した。



 テイムを無事に終え、シャルロットのもとへと戻ろうとした次の瞬間だった。


「お嬢様!」


 森の奥から青髪の女性が慌てた様子で駆け寄ってくる。

 シャルロットの使用人であるエステルだ。


 傷だらけのシャルロットに、意識を失ったままの兄たち。

 その惨状にエステルの目が見開かれる。



「お嬢様、ご無事でしたか!?」


「エステル……ええ。実はガレウルフがもう一頭現れたのですが、何とか撃退することができました」


「なっ、ガレウルフがもう一頭!? しかも既に撃退を終えた後だとは……お嬢様みずからが戦闘を? それとも彼らがお嬢様を守ってくれたのですか?」


「いいえ、守ってくれたのは外でもない……」



 そう言ってシャルロットがこちらに顔を向けた。

 その結果、少し離れたところから様子を窺っていた俺と視線がぶつかる。


 すると、遅れてエステルも俺の存在に気付いた。


「っ、貴方は……!?」


 身構えるエステルに、シャルロットが優しく言葉を重ねる。



「大丈夫ですよ。こちらはアルビオン家のレスト様、私を救ってくださったお方です」


「なっ、ということは彼がガレウルフを!? 私ですら倒すのにかなりの時間を有したというのに、まさかこれほどの若さで成し遂げてしまうとは。それにレスト様といえば、確か【テイム】のスキルしか持っていないと先ほどお聞きした気が……」


「この目で見たので確かです。そうですよね、レスト様?」



 シャルロットが少し茶目っ気のある笑顔を向けてくる。

 俺はゆっくりと頷いた後、ガレルをテイムしたことがバレないよう、脚色交じりに経緯を説明することにした。


「はい。危険な戦いでしたが、なんとかガレウルフを退けることができました。殺すまでには至りませんでしたが、あの傷では追ってくる心配はないでしょう。ご安心ください、エステルさん」


「それはなんと! どれだけ感謝してもし足りません。また場を整えてしっかりとしたお礼をさせていただきたく……ん?」


 恐縮した様子で話し続ける彼女だったが、途中で何かに気付いたように小首を傾げる。



「気のせいでなければ今、私のことをエステルと……貴方にもう名乗りましたでしょうか?」


「あ、いえ、それは……」


「もう、エステルったら。私が先ほど貴方を呼んでいたのが聞こえたのでしょう」


「なるほど、そういうことでしたか。それでは私の方からも改めて……お嬢様をお守りくださり、本当にありがとうございました!」



 一瞬どう誤魔化したものかと狼狽えたが、運良くシャルロットが助け舟をだしてくれて事なきを得た。

 次からゲームの登場キャラクターに会う時は気をつけなくちゃな……


 っと、こうしてる場合じゃない。


「とりあえず、先にこの森から出ましょう。ガレウルフを退けたとはいえ、他にどんな魔物が出てくるか分かりませんから」


「それもそうですね。もう動けますか、お嬢様?」


「ええ、大丈夫です」


 その後は気を失ったエドワードたちを俺とエステルがそれぞれ担ぎ、屋敷への帰路を急ぐことになった。


 二人にはこの後、王女を危険に晒した愚行に対し何かしらの処分が下されることだろう。

 まあ、俺に影響が出なければそれでいい。



 何はともあれ、こうして長い長い一日がひとまず幕を閉じるのだった。



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