第28話 からかい

 朝目を覚ましたリサリアは、エレナと自分の着衣に乱れのないことを確認し、微笑みながら床の上で寝ずの番をしている健斗の横に座った。


「おはようございます、健斗様。ちゃんと我慢できたのですね。意外でしたわ。てっきり健斗様の横でおはようのキスと共に目覚めるのだと思っていたのに・・・冗談よ、そんな顔しないで。冗談だってば。でも・・・」


 健斗はリサリアの言葉に一瞬驚いたが、すぐに彼女が冗談を言っているのだと気が付いて苦笑した。


 その時、エレナが目を覚ました。


「おはようございます、健斗様。リサリア、健斗様はそんなことなさらないわ。」


 エレナはリサリアの態度に少し驚いた表情を浮かべていた。


 リサリアは少し恥ずかしそうに微笑み、頭を下げた。


「少しからかいすぎましたわ。申し訳ありません、健斗様。」


 健斗は肩をすくめた。 


「大丈夫だよ、リサリア。でも、ありがとう。本当は感謝しているんだ。」


 そう言って彼女に微笑んだ。

 その時、リサリアが突然、服を脱ぎ始める素振りを見せた。

 服をめくり、お腹が見えたところで止めたのだ。


「やはり変態なのですわね、健斗様。女性の着替えをまじまじと見るものではありませんよ。見たいのでしたら拒否できませんが、少なくとも背中を向けるくらいの紳士さは持っていて欲しいですわ。」


 リサリアは悪い笑みを浮かべ、健斗をからかった。


「ト、トイレに行くよ!」


 健斗は顔を赤くして慌てて部屋を出た。


 その様子を見ていたエレナはリサリアを嗜めた。 


「リサリア、貴女らしくありませんよ。どうしたというのですか?」


 リサリアは少し恥ずかしそうに微笑み、頭を下げた。


「少しからかいすぎましたわ。申し訳ありません、エレナ様。」


 エレナはリサリアの態度に少し驚いた表情を浮かべた。そんなリサリアを見るエレナは、彼女が初めて恋をしたのだと確信し、嬉しくもあり、淋しく、そして胸が苦しくなった。やがて戻ってきた健斗にリサリアが少しからかい過ぎましたと謝罪するのを見て、複雑な思いを胸にしまった。


 朝食の後、健斗はリサリアと共に町の市場へ向かった。エレナが運悪く盗賊に襲われたのではなく、誰かに狙われて刺客だったり、捕らえようとした者に襲われたのかもしれないことを考慮し、撃退したことを示唆しないよう、盗賊のステータスカードを出さないことにし、ギルドにて換金するのを取りやめたのだ。


 町の中は賑やかで、各々の店では、店主が自分の仕事に励んでいた。健斗とリサリアは慎重に周囲を見渡しながら、エリナの安全を第一に考えつつ、次の行動を決めていった。


「健斗様、昨晩はありがとうございました。これからも私たちを守ってくださいまし」


 リサリアは微笑みながら、振り向き、健斗の手を軽く握る。


「もちろんだよ。俺がいる限り、君たちに危険な奴を近づけさせない。」


 健斗は真っ赤になりながらも力強く答えた。リサリアのそんな仕草は破壊力があり過ぎており、健斗の心を捕らえて行く。


 彼の冒険はまだ始まったばかりだったが、彼には守るべきものができたことを実感していた。


 リサリアは話し始めた。


「健人様、私は外では恐れながら健斗と呼びますわ。そして、表向きにはあなたはエレナ様の護衛です。エレナ様にはもちろんですが、私にも丁寧な言葉遣いをする必要があります。護衛が主人とその付き人に丁寧に話さないと浮いてしまいますから。」


「なるほど、わかりました。」


 健斗が納得した返事をすると、エレナが微笑みながら補足をした。


「もちろん、3人だけの時は今のままで良いわよ。いえ、そうではなくてですね、3人の時に畏まった話し方をなされると私、悲しいですわよ」


 そうやって打ち合わせをしていった。


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