第10話 賊との戦い

『ぐうぅ』


 痛みに唸りながら目が覚めたが、どうやら一晩中ぐっすり寝ていて、明るさと痛みから目が覚めたようだ。


 体を曲げて寝ていたせいか、節々が少し痛む。健斗は小屋の外に出て、ストレッチを始めた。両腕を大きく伸ばし、肩を回したり背筋を伸ばす。深呼吸をしながら、体全体をゆっくりとほぐしていくと痛みは和らいでいく。。


「ふぅ・・・」


 痛みはまだ残っているが、少しずつ和らいでいくのを感じ、安堵の息をつきながら生きていることを実感した。外の空気を吸い込み、健斗は朝の清々しさを感じた。凛とした空気、やや肌寒いが森の中というのもあって空気が美味しいと清々しさを感じた。これが日本で家族と休日にキャンプでもしているのならば、爽やかな心地良い素晴らしい朝なのだが、生憎そうではない。


「昔、父さんたちと森でキャンプしたのを思い出すな」


 再びふうっと伸びをした途端にお腹が鳴る。たはははと苦笑いをしながら小屋に入ると、戸を閉めた。


 取り敢えず手持ちの果物を食べることにした。カバンから出した果物を口に押し込み、水筒の水で喉に流し込んだ。

早くまともなものが食べたいなと思いつつ、改めて荷物を確認した。幸いなことに無くなっている物はなく、何故あそこに全てを置いていたのか謎でしかなかった。


 尋問で一つ一つ何なのかを聞くために置いていたのだろうと、取り敢えずそのように結論付けることにして出発の準備をする。よく解らぬものを外に持ち出すことをためらったのだろうと、今度会ったら取っ捕まえて聞いちゃる!と一旦心の奥にしまいこむ。


 程なくして小屋を去り、警戒しながら歩き続けると、20分ほどで街道と思われる太い道に出たが、兵士の気配がしたら隠れようと警戒しつつ歩いていく。森の中を進むのは良いが、迷って人里が遠のくのがオチだろうからと、危険を冒してでも街道を目指していた。そして街道に出た今、やはり街道を歩くべきだと判断したのだ。朝の早い時間のためかまだ人影は見当たらない。


 しかし数分後、後ろから馬車が近づいてくる気配がした。急いで茂みに身を隠し、様子をうかがう。


「追手じゃないよな?」


 健斗は呟きつつ、やけに早い時間に移動するんだなと息を潜めて見守った。それは貴族の馬車のようで華美な装飾がなされており、馬に跨がった兵士が10人前後護衛についているようだった。この人数が多いのか少ないのか判断できないが、こちらの気配に気が付かずに素通りしてくれと祈るしかなかった。


 馬車の一行が通り過ぎてからもしばらく様子を見るべく身を潜めていたが、完全にやり過ごしたと確信してから再び歩き始めた。


 20分ほど歩いただろうか、少し離れた場所から争いと思われる気配を感じた。怒声や罵声、金属の当たるガキンという音が微かにしてきた。


 止せば良いのに、危険が待っているはずなのにも関わらず、これは絶対メインヒロインを助けるイベントだ!とあまり危機感を持たずに音がする方へ向かう。


 すると、そこには馬車が倒れ、ほとんどの護衛と思われる兵士たちが血を流して倒れている阿鼻叫喚な光景が広がっていた。馬車は盗賊に取り囲まれ、中の者を狙っているようだった。そして何より血の臭いが鼻を突く。


 街道を外れ、争いの中に踏み入れようとした健斗は、ラケットを手に取り、

賊たちの姿が見えるとすぐに行動に移った。


「ふははははは!これはあれだよな!メインヒロインを助け、英雄となるお約束イベントだよな!そうだよ!やっと作者が軌道修正したんだよ!」


 もちろん助けたらこちらも助けてもらえるという打算もあったが、助けに向かったのは単なる厨二病的発想だ。また、精神的にも参っており、そのような思考に陥るのは無理もない。

 

 そんな中、ボールを打ち出して1人ずつ敵を倒していくのは殺すことになるだろうと、魔物でないならばボールを打たず、代わりにラケットを振るうことにした。


 そして襲撃されている現場に辿り着いた健斗が見たのは、兵士の殆どが地に伏せ、血がどくどくと流れ出る凄惨な光景だった。これは人と人との戦い、いや一方的な虐殺だ。

 一番近くにいた賊は、自ら手に掛けた兵士を執拗に何度も刺し、悦に浸りながら蹴りを入れており、その虫唾の走る光景に健斗は一瞬怯んだが、吐き気をこらえながらも冷静さを保とうと努めた。


 健斗はその胸糞悪い賊に近づくと、ラケットを大きく振りかぶって強く振り下ろした。賊は気づく間もなく吹き飛び、木に叩きつけられて気絶した。そして健斗は次々と賊を制圧していった。ある者は腹を殴られてくの字に曲がり気絶し、またある者は骨を折られ泡を吹いて気絶したが、健斗は誰も殺してはいなかった。


 数人が吹き飛ぶ様を見て、賊たちはようやく自分たちが襲われているのだと気が付いて騒ぎ出した。

 しかし、健斗は一撃すら食らうことなく、一方的に賊の全てを蹴散らし、短時間で制圧していった。

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