悪役魔王軍モブが前世知識で人生逆転!?俺は死にたくないだけなのに、勝手に出世してしまうんですが

虎とらユッケ丸

第1話 前世と今


「……やばい! このままいくと俺は死んでしまう!」



 俺はガバッとベッドから起き上がった。


 バクバクと鳴り響く心臓の音と荒くなった呼吸。

 まるで悪夢を見て飛び起きたかのようだ。


 なぜこんな状態になっているのか。

 それは俺の体に起こった異変が原因だ。


 自分を落ち着かせるために、何度か深呼吸を繰り返す。


 すると今度は頭痛が襲ってきた。



「いてててて」



 ズキズキと痛む頭。

 たしか、訓練をしていて頭にいい一撃をもらったんだったか。


 あの野郎思いっきり叩きやがって……って問題はそこじゃない。

 頭に受けた衝撃で、幸か不幸か俺にとって重大なことが起こった。



 ──前世の記憶がよみがえったんだ。



 ただでさえ物理的に痛かった頭が、この記憶のおかげで余計に痛くなってしまった。



 もしこの記憶が正しいのなら、そう遠くないうちに、多分俺は死ぬ。



 あぁ本当にどうしたもんだか。





 俺の名前はレオン。

 魔王軍所属の暗黒騎士だ。

 年齢は24歳。


 暗黒騎士なんて大層な呼び名で呼ばれているが実態はただの兵士。


 その中でも実力は普通クラス。飛び抜けて強いわけでも、見限られるほど弱いわけでもない。


 完璧なまでの雑兵。それが俺。


 ふふふ、ここまで完全なモブを体現していると逆に恐ろしく……ないか。うん、ないな。

 でも、色んな種族がウヨウヨしている魔王軍で、普通に働いているのは素直に褒めてほしい。



 そして、俺の頭の中に現れた記憶によると、前世では日本で普通のサラリーマンをやっていたようだ。ポジションは平凡な社員。


 前世もただの企業戦士なのかよって思った人、もしいたら勘弁かんべんしてほしい。

 俺のスペックなんてたかが知れているんだ。

 これでも上等な結果だと思ってる。


 毎日死んだ目をして仕事をして帰る。

 そんな社会の歯車のような生活を送っていたはずだ。

 だが、ある日からプツリと記憶がなくなっている。

 多分その辺りで死んだんだと思う。


 死因はわからん。俺のことだからかっこいい死に方ではないと思う。

 誰かをかばって死ぬとか憧れるけど、社畜の俺がそんな大層な事をできるはずないもんな。



 まぁそれはいい。この世界でレオンとして生まれ、レオンとして生きてきたんだ。今さら元日本人だと判明したところで何も問題はない。

 見た目もちょっと角があるだけで、意外と普通の人間だし、人格への影響もないと思う。


 前世は会社の犬で、今世は魔王軍の犬だから、俺の性格は魂に根付いているのかもしれない。

 デフォが社会の犬っていう……くぅーん。やめよう悲しくなってきた。



 それよりもだ。今は考えなきゃいけない重大な問題がある。


 それはこの世界が、前世で俺がプレイしていたゲーム『エンシェントクエスト』の世界にとても似ているということだ。


 『エンシェントクエスト』というのは国民的RPGとでも言えば伝わるだろうか。

 ファンタジーの世界で勇者が魔王を倒すゲームだ。


 最新ゲーム機による美麗なグラフィック、臨場感のあるサウンド、豪華な声優陣、そして練り込まれたゲームシステム。どれをとっても一級品のゲームだった。


 前世の俺は世知辛い社会からの現実逃避もあって、この『エンシェントクエスト』を相当やり込んだ。4000時間は超えていただろうか。

 何十周とゲームを繰り返しプレイし、WIKIの情報が浅いと思えるくらいトコトンまで遊び尽くしていた。それくらいどハマりしていたんだ。


 そのおかげなのか、そのせいなのか。俺は前世の記憶を得て0.1秒で気づいたね。



 この世界の地名も人名も全て『エンクエ』と同じでんがな! ってね。



 ふふ。この瞬間は嬉しかったな。思わずエセ関西弁になるくらいには嬉しかった。だって大好きなゲームの世界なんだぜ? 喜ばないはずがないだろう?


 だが、その0.5秒後に俺は奈落の底に突き落とされた気分だった。

 知ってはいけない真実を知ってしまったんだ。辿り着いちまったんだよ。



 俺の所属してる魔王軍って、勇者にボコられて滅びるやん!



 ということで先ほどの、俺の叫びに繋がるわけだ。


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