第12話 第一の破壊神
1
クサナギが魔王を粉砕した日──それは遙か遠く離れた場所で、なんの前触れもなく発生した。
人の認知が及ばない速度で天から落ちてきた小さな何か。それは何も無い草原に落ちて、地面をほんの少しだけ抉った。
威力に比べ影響は小さい。そのことも非情に不可解である。しかし、何より不可解だったのはその物体が点滅したことだ。
それは魔王が造りだした物──魔王を構成した一部だった。
2
一面に短い草が広がる非常に景色の良い大草原。その中央を通る田舎道をクサナギ達は歩き進んでいた。
空は青く気分はピクニック。少なくともクサナギは爽快だ。スキップしたりくるりとまわったり、移動経路すらも楽しんでいる。
一方、新加入のセシリアは──景色どころではない様子だが。
「はあはあ……」
「お、どうした?」
「別に……なんでもありません」
セシリアはクサナギに強がった。
しかし、疲れているのは明らかだ。
「巫女の仕事は後方の支援だ。体力はほぼゼロと言って良い」
その原因をチビが解説した。
セシリアの装備は木製の杖。身の丈ほどもあるが杖にもなる。服装は清楚な魔法のドレス。クサナギと比べれば身軽である。
だが彼女は力尽きる寸前。そこでクサナギはピンときた。
「なんなら俺が抱っこして運ぶか!?」
「結構です! 自分で歩けます!」
しかしやはりセシリアも強情だ。そこがまたキュートなところでもある。
「勇者よ。少し休憩だ。それと旅についての話もある」
クサナギがほっこりとしていると、チビが横から提案をしてきた。
別にクサナギは疲れていないが休むことに異論も特にない。
「じゃ、休むか!」
「うう。私は別に……」
「多数決だ。セシリアよ、諦めろ」
まだセシリアは意地を張っていたがチビの前では巫女も形無しだ。
竜とは思えない気配り上手。勇者クサナギもそれは知っていた。
=====
そんな訳でビバピクニックタイム。
チビが取り出した椅子に着席し、チビが取り出した机にスイーツ、チビが取り出したティーカップを持ち、チビが淹れた茶を飲むティータイム。
「自然の中でしばく茶は美味いな!」
「そうですね……染み渡ります」
クサナギは上機嫌。セシリアは──珍しく表情が蕩けている。
およそ冒険中とは思えない、恐ろしく優雅な一時だった。
しかし、その用意をしたチビだけは腕を組み解説を開始したが。
「休憩をしながらで良いから聞け。破壊神の対処法を教える」
チビは眉間に鱗を寄せ、言った。
「まず、破壊神は休眠状態。今はまだ活動をしていない。だが我らがその身を脅かせば、こちらに襲いかかってくるだろう」
破壊神──人の新たなる脅威。未だベールに包まれた存在。
「奴らの能力や姿について、我らには一切情報が無い。しかし魔王以上の脅威であり、数は七体と判明している」
チビはそこまで言って勇者を見た。
「そこで破壊神にはクサナギよ。お前一人で近づき、対処する」
「困ったときの勇者頼みだな?」
「そうだ。お前の力を見せつけろ」
セシリアに──と、言うことである。
「ただし、殺すだけで終わりではない。死体をそのまま放置は出来ない。そこで今回はセシリアに頼み、破壊神の残渣を封印する」
チビが言うとそのセシリアが、懐から短剣を取り出した。
短剣に封印。だがそれは、魔王に対し失敗した策だ。
「短剣には良い思い出がねーな」
「安心しろ。そのためのセシリアだ」
クサナギがチビに視線を送る。するとチビはセシリアへと送った。
「竜の巫女は魔法に長けています。この前のようにはならないでしょう。それに短剣は確実に、破壊神を倒して使用します」
「そういや魔王は素手で倒せたな」
「それは未だに信じられませんが……」
今度はセシリアが疑いの目でクサナギを見たが──真実である。
「まあ任せとけ。この勇者クサナギ、破壊神を纏めてぶっ殺す」
そしてセシリアちゃんと結婚する。クサナギの目的は明確だ。
そのための英気を養うためにクサナギはクッキーを頬張った。
「お、これうま!」
「我の自信作だ。勝利したらいくらでもくれてやる」
チビはそれを見てまた呆れていた。あの旅で何度も呆れたように。
3
そんな訳で、第一の破壊神バトロスの前にクサナギは立った。
まばらに木が生えた草原の中。小さなくぼみで明滅する石。それにクサナギは見覚えがあった。おそらく魔王の体の一部だ。
幸い、未だ起動してはいない。今なら攻撃するのは容易だ。
チビとセシリアは遠くで待機。巻き込まれる心配も無いだろう。
「んじゃまあ取り合えず、斬ってみるか」
そこでクサナギは剣を抜き、薪割りの要領で叩きつけた。
いや──叩きつけようとした。石に剣が命中する瞬間、光の粒子になりほどけたのだ。そのため剣は粒子を通り抜け、無意味に地面を叩いて砕いた。
一方その粒子は天に昇り、広範囲に広がり覆い尽くす。
「あー、まあそりゃそうなりますわな」
その天を仰いで勇者は言った。
破壊神は攻撃を受けたとき、その本来の姿で襲い来る。チビが休憩時に話したとおり。破壊神が実体を造り出す。
それはクサナギの真上に現れ、一見平らな天井に見えた。太陽光を遮る広大な、あまりにも広大な破壊神。その巨体を四本の極太なたくましい足が支え立っている。
クサナギからはそれしかわからない。この破壊神は巨大すぎるのだ。
破壊神バトロス──その姿は、凶悪な陸亀のようだった。
「でかっ! お前限度って知ってるか?」
クサナギはその亀の腹に向けて、下方向から話しかけてみた。
すると、バトロスの四本の足が浮き上がり甲羅の中に引っ込む。
つまりそうするとどうなるか? 巨体がクサナギに向け、降ってくる。
そんなこんなで勇者クサナギは──バトロスの下敷きと相成った。
入手アイテム:特に無し
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます