1たす1は?

有部 根号

第1話 1+1=問題

キーンコーン カーンコーン

チャイムの音がなっている。どうやら授業が終わったらしい。俺は大きくあくびをし、机の上にある『のぞみ あめ』と書かれた教科書を机の中へしまう。

「また寝てたの?」

正面から彼女の声が聞こえる。親友ー『陽向ひなた はる』の声だ。

「睡眠学習だよ。」

「はい、はい、」

晴は弁当を俺の机の上においた。昼休みはいつも一緒に食事をしている。

「全く、寝てばっかりなのにいい点とるからずるいよねー」

「そんなことない。結構考え事してたし…授業には関係ないけど。」

「関係ないんかい。…で、なに考えてたの?」

「1+1についてさ。」

「はあ?」

「晴は1+1ってなんだと思う?」

「そりゃ、もちろん…待って、引っかけクイズとかじゃないよね?」

「さあ?」

「…2かな、普通に。」

「ファイナルアンサー?」

「ええ」

「正解は……2でした~。」

「えっ、しょうもな…」

「でも、少し迷っただろ?引っかけかもって。それについて考えてたんだ。」

「どういうこと?」

「1+1ってさ、普通に考えたら2しか答えはないけど、いざ突然聞かれるといろんな答えが浮かぶなあ、と思ってね。例えば、さっきみたいに引っかけクイズだと思ってしまうと、1を2つそのままくっつけて11と答えたり、1+1=を組み合わせて田んぼの田と答えたり。」

「確かに面白いわね。子供の頃やったような引っかけクイズとかが、ふと頭に浮かぶもの。」

「そうそう、他にも1つの粘土と1つの粘土は組み合わせても1つだから1+1=1とかもあったよな。」

「あ~そういう系だと1人と1人が結婚して、子供ができて3人になるとか、ロマンチックで印象に残ってるかも。」

「まあ、子供が1人とは限らないけどね。」

「急にマジレスしないでよ…そんなこと言ったら粘土だって質量で見れば2倍になってるし、」

「まあね。」

ふぅ、と一息ついて俺も弁当箱を鞄から取り出す。

「あとは…2進数で考えたら10になるとか。正しくはいちぜろだけど。」

「そういや、そんなんもあったわね。」

「テスト大丈夫かよ…」

「その時はあんたに助けてもらうわよ。」

そう言いながら晴は米を口へと運ぶ。

「そう考えていくと、1+1の答えって案外人それぞれだよな。今までの生活で耳にした1+1の答えが頭のなかをめぐって、その場にあったものを答える。」

「そうね。」

「せっかくだし、最適解でも考えとく?」

「最適解…ねえ、」

「どの答えが一番面白いか、でもいいけど。」

「うーん…でも結局2が一番しっくりくるんじゃない?他の答えは結構ムリヤリってか、なんというか意地悪な答えっていうか…」

「そんなこと言い出したらこの話終わるぞ…もっと深く考えてみようぜ。1+1っていう小学生の問題も深く考えるから面白いんだろ。」

「そうはいってもねえ…例えば?」

「そうだな~…全てのものは1+1に帰着するってのはどう?」

「どういうこと?」

「さっき晴が言っていた人と人が結婚して子供ができるってやつみたいに、人と人との繋がりは1+1で表せるだろ。1人と1人が出会って、友達になったり、恋人になったり、1+1で繋がっていく。」

「でも、初めから友達が2人いたら3+1とかにならない?」

「いや、俺が言ってるのは単純に人数の話ではないよ。1人と1人が出会うことで1つの繋がりができるって話。そこに新しい人が来たら、また繋がって1つになる。いわば、樹形図みたいな感じ。」

「ふーん、つまりあんたが言ってるのは1+1=1ってこと?たくさんの人が1つの糸で繋がっているかのような。」

「そうそう。他にも例えば…ここにペンがあるだろ?1人の俺と、1本のペン、これが合わさって1つのペンを持った俺になる。」

「なるほど~じゃあ、ここにある1個のたこさんウインナーを1人の私が食べて、1つになるってのも?」

彼女は弁当からウインナーをつかみ、食べた。

「ああ、いいと思うよ。そういう食物連鎖ー草を動物が食べ、その動物を俺らが食べるってのも1+1の積み重ねだな。同じよーに考えたら、本を読んだり、勉強したりして1つの知識を得ていくのも1+1だ。」

「ん~結局あんたの言う1+1の最適解ってのは、1+1=1ってことでいいの?」

「まあ、そーなるかな。異論は?」

「別に~」

そう言うと晴は手を合わせ、ごちそうさま、と呟いた。気づいたら結構時間がたっていた。

「んー、ああ寝みぃ。」

俺は思いっきり体を伸ばして言った。

「散々寝たでしょ…全く……ふふっ」

「なに笑ってんだ?」

「いや~、1人の眠いあんたが寝るっていう1つの行動をしたのにも関わらず、眠いあんたのまんまっていうのもある意味1+1=1なのかな~って。」

晴は弁当を片付けながら言った。

「ははっ確かにな。」

俺もごちそうさま、と呟き、弁当をしまい始めた。

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