第85話 敵はハイン城にあり!

須藤がPKM汎用機関銃の引き金から人差し指を離した時、目の前に人がっていたのは死体の山だった。


ハイン王国国内治安騎士団の記章・紋章を甲冑や服に付けた人間の騎士に交じって、デーモン種やオーガ種、果ては須藤は気づかなかったがゴブリン種のモンスターどもの死体も確認できる。


近距離からの7.62mm×54R弾の一斉射撃はすさまじい。


コンクリートや厚い土嚢、ブロック塀などもたやすく粉砕貫通するそれを食らった騎士団の死体にはおおよそ原型をとどめている者はいない。


鋼鉄並みのご自慢の肉体を持つ屈強なオーガ種でも全身を穴だらけにされて血と臓物を地面にぶちまけ、頭が半分吹き飛んで脳みそをまき散らしている者もいる。


一応、物理攻撃を防ぐ防御魔法を全開にしたデーモン種がいたが、小さな一点に運動エネルギーと質量が集中する銃撃は負荷が高かったようで、やがて防御魔法も貫かれたデーモンどももその血まみれの屍をさらしていた。


「スドウさん!」


後ろから岩陰に隠れていたルイーゼさんが駆け寄ってきた。


さっきより落ち着いた表情になっている。


「ルイーゼさん、無事だった?」


屍の数々をじっくり見て、ルイーゼはやや驚きの表情に変わった。


「す・・・すごい・・・、スドウさん、そのような武器をどこで入手されたのですか!?」


「ちと洞窟で修業中に襲ってきたデーモンから捕獲したんだ」


「そうですか・・。見たところおそらく“それ”は“異世界”からもたらされた物でしょう。デーモン種の連中はしょっちゅう、たぶんスドウさんが元居た地球とかいう“異世界”とよからぬ取引をして荒稼ぎしてるって噂だから」


ルイーゼさんは地球のことを知っているのか?


「ルイーゼさんは地球について知っているのか?」


「ええ、少しは・・・。あっあれは?」


ルイーゼさんが指さす方向を見た。


何だこれは?


肉塊となって動かなくなったブラックオーガの腰のポーチから何か黒い革の物がはみ出ていた。


それを拾い上げるとその表紙には見たことのある金色の紋章が輝いていた。


「これは警察手帳?」


2つ折りの状態になっているそれを広げるとそこにはスコットの顔写真とさっき聞いたばかりの名前が記載されていた。


「警察庁特別公共調査局 猪頭徹(いのがしらとおる)警部補・・・・。こいつ本当に警察官だったというのか?」


「なんで警官が・・・・、こいつの言ってたことは本当だったのか?こいつの正体は・・本当に俺の世界から来た警官だったのか・・・?」


俺の疑問にルイーゼさんが俺の手にする手帳を見て反応した。


「あなたが今持っているその身分証のような物。私が本物かどうか探知してみます」


「私は元々図書館で司書として歴史書の解読作業をしていたんです。だから本に記載されている内容が当時書かれた物なのか、後世に偽造された物かを見分ける鑑定魔法をマスターしています。それを応用すればこのオーガの持っていたそれの内容が本物か否か、そしてその身分証に書かれた人物とオーガが同一人物か分かると思います」


するとルイーゼさんは目を閉じて警察手帳と思われる黒い手帳を両手で持つと、それに何らかの魔力を込め始めた。

手帳が緑色に輝き始めた。


「これはおそらく本物です」


「・・・・・本当なのか?」


「ええっ、こことは違う世界からもたらされた文物であることは間違いありません」


「取り込み中悪いけど!」


2人の会話に先ほど助けたエルフ2名が割って入ってきた。


一人はルイーゼさんがアールと呼んだ少女。


ショートヘアの金髪に小柄な体系。

服装は白の無地の服に腰に金色のベルトをつけている。

連行されそうになっている時に見た時と違うのは彼女はいつの間にか刃渡り20センチくらいの短剣を腰に差している点だ。

横目で彼女たちが騎士団連中の馬車の荷台から何かを回収しているのを見ていたが、その時に回収したものだろう。


彼女が捕えられた際に武装解除させられていたのを取り返したのか、騎士団の物を鹵獲したのかは知らない。


エールと呼ばれた少女はしかし、警戒した表情のまま短剣を抜いて俺に向けた。


「エール!?何をするの!?」


「ルイーゼ・・・、一体この男は何者?人間種みたいだけど・・・・」


「ルイーゼちゃん・・・、このひと・・・、なんか怖い・・・」

同時に彼女の端についている少女も俺を見てややおびえている。


「怖いって、この方はスドウさんと言って私を悪い人間から助けてくれた方よ、ルニエール」


エールはしかし、スドウに言い寄る。

「スドウ・・、といったわよね・・・。あなた、年齢は?」


「14歳だ。今年15」


「ありえない・・・・。さっきあんたが繰り出した“回天冥獄陣”とかいうやつ。あれはそこいらのチンケな魔法の類じゃない。死んだおばあちゃんに聞いたことを思い出したわ。君があのオーガに放ったのは私たちの間で知識としてのみ伝わる禁断魔法の類よ。魔力に長け他種族である我がエルフ族でも手を出すことを禁じられている。どうして君みたいな若い人間種があれをどこで習ったの?」


「人間種の寿命は短いにしても、そんな若さであれほどの“禁断魔法”を使いこなすなんて・・・、一体どんな修行をしたというの?」


「それだけじゃない。敵とみなした者を容赦なく仕留める非情さ、情け容赦のなさ。あれはいくら異種族に冷淡な人間種であってもそうそう出来るもんじゃない」


ルイーゼが割って入った。


「みんな!今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょ!!とにかくみんな無事でよかった!!」


「ところでみんなどうして奴らにとらわれたの!?私たちの村は結界魔法、強力な認識阻害結界で守られていたはずなのになぜこの国内騎士団の連中はそれを?」


ルイーゼの質問にルニエールが弱弱しく答える。

「強固な結界をはっていたはずなのにあのオーガが来てそれを力づくで破って・・・・」


「それで!?」


「ブロッケン研究所に連れて行かれそうになったの!」


「他のみんなは!?」


「先に他の騎士団の馬車で連れていかれた。けど、あいつらの話を又聞きする限り、私たちはブロッケン渓谷へ連れていかれる予定だったらしいけど、村のみんなの大半はどうもハイン王国の城下町へ移送されたみたい」


「ハイン王国の首都へ・・・?」

ルイーゼさんは思い出したように慌てた表情になった。


「まずい!私たちの村を襲ったのは国内治安騎士局の連中。奴らの表向きの任務は文字通り警察業務だけど、真の目的は国内の反体制派を狩ることと、麻薬やエルフ・人間を対象とした人身売買をすることよ!」


「ルイーゼさん、けっこう詳しいんだな」


「こう見えても伊達に150年生きていませんから!」


「てっ、感心している場合じゃないわスドウさん!国内治安騎士団は高度に情報網を持つ防諜組織。スドウさんが倒したこいつらは恐らくエルフ狩りを担当する第5部局の連中よ!オーガたちが倒されたことは即座に連中は感づいてこちらに追手を差し向けてくる!!どうすれば!?」


慌てふためくルイーゼさんと他2名。


だが、俺は冷静に考えた。


「なら話は速い。今から俺たちでハイン城を攻め落とす」


「攻め落とすって!!正気なの!?奴らは総兵力250万を超える大国だよ!!」


「しかし、首都防衛の兵力はせいぜい1万。それもほとんどは周辺へ魔王軍討伐の名目で出払っていて、せいぜい5千程度。それなら俺に考えがある」


須藤はしゃべりながらマブクロから上級ポーションを一気飲みし、魔力を完全回復した。


「今回のスコットが吐いた話からして俺はこの世界へ棄民された存在だと分かった。しかもスコットはハイン王国の国内騎士団とかいう、いわば秘密警察みたいなのに属していたことも今回判明したわけだ。ならばハイン王国の連中が俺をこの世界に転生させたことにかんでいるのは明白だろ。俺は奴らに聞かなければならないことがたくさんある!」


「でっ、でも・・・武器も魔法道具の類もほとんどない中でどうやって?人も私たちだけじゃ!?」


「俺はこんな時のために隠し物資をため込んである。任せるんだ」


「・・・分かりました」


須藤とルイーゼが話し込んでいる中、エールはルニエールがいつになく落ち着かない表情を増していることに気づいた。


「ルニエール?」


「エールお姉ちゃん・・・」


「ルニエールも気づいていたのね。あの子から感じるものを」


「あの人間の男の子・・・、何か妙な魔法鉱物の匂いがしたよ・・・」


エールよりやや髪が長い金髪の少女ルニエールはしかし、エールよりも背が高く、服装はほぼ同じ。腰には刃渡り65センチくらいの細身のサーベルを佩いている。


「おーい!2人ともおいていくぞ!!」


「はっ、はい!!」


ルニエールが慌てて須藤とルイーゼについていく中、エールは最後尾で3名の後を渋々ついていく。


須藤は国内騎士団が置いていった6頭立て馬車に乗り、4名は国内騎士団の服を着てハイン城へとまっすぐ動き出した。

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