第55話 魔法を使わない敵陣営
洞窟に入るなり、“銀龍の魔女”は高速移動する魔法で一気に中を駆け抜ける。
俺もすかさず俊足魔法を唱えた!
だが後を追うのでやっと。
魔法を使っているとはいえ異常な速さだ!
「おいガトリングさん!待ってくれよ!!」
「これも修行を兼ねての事じゃ!!ついてこい!!!」
魔女はさらにスピードを上げ、ごつごつとした岩がむき出しの洞窟内を疾走していく。
高速移動を可能とする俊足魔法は使えば重い甲冑を着込んだ鈍足な戦士でもシーフクラスのような高速移動が可能になり、さらに熟練すれば壁を蹴って忍者や武道家のような身のこなしさえ可能になる。
しかし、修行をしていなければその高速移動に体のコントロールがついていかないため、障害物へぶつかったり勢い余って転倒することが多く、大けがをしやすい。
俺もベルリオーネさんに北部地方の攻略の合間に教えてもらった時も、まずは周囲に障害物がなく、地面にもつまずく原因となる石などがない平原地帯を選んでまっすぐ走っていくことからやり始めた。
それから徐々にカーブを曲がれるようにしたりする練習をしていたが、今日は初の洞窟内でのハードな使い方。
体が軽く感じる分、少しの動きで体が遠心力でバランスを失いそうになる!
鋭い槍状に尖った鍾乳石の前を通過する。
今にも突っ込んで串刺しになろうとした時、前を走る魔女がいつの間にか俺の手を取った。
「まだ慣れていないようじゃな小僧!!」
「ガトリングさん、あんなに前を走ってていつの間に!!」
「われは自在!われに遮るものなし!実際に体の使い方を知ればおぬしもすぐ飛べるわい!!」
グイッと俺を引っ張って危ないところに突っ込まないようにしてくれた後、また俺より先を行く魔女。
洞窟に等間隔で置かれているろうそくの光に照らされたグレーの魔女帽とローブが風にたなびいて妙な頼もしさを感じる。
目の前を走る魔女の背中はまさに忍者の如く素早く、カーブも壁を軽々と蹴って難なく曲がっていく。
途中で多くのモンスターとすれ違う。
多くはあっけにとられたような表情で俺らが通過するのを見るだけだが、中には出入り口で遭遇したようにAKやSAAを放ってくる奴らもいる。
物理防御魔法を全開にすると弾は防げたが、銃弾のような強力な物理的衝撃を防げるレベルをずっと展開すると結構魔力を食う上に、小さな点に強烈な衝撃力が来る銃弾は剣や棍棒、弓より防御する際の負担が大きい。
少しでも魔力が弱れば突き破られるから多用はできない。
だが、目の前を走る魔女に魔力を気にしている感じは全くない。
AKやPKMの引き金を絞ってくるスケルトンやオークの群れに突っ込み、得意の魔法を込めた拳ですれ違いざまに叩きのめしていく。
彼女の通った跡には顔面が変形して地面に突っ伏すモンスターの死体が山積みになっていくのみ。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ!!!久しぶりに体が唸るわい!!!!!」
「小僧!!ついてこれとるか!!」
立ちはだかる奴らはすべて叩きのめす魔女。
魔女というより武道家か、狂戦士(バーサーカー)の類じゃないかこの女・・・・。
ドシンンンンンンッッ!!!!!!!!!!!
突然の地響きに目の前の魔女が急ブレーキをかける。
俺も急停車したが、勢い余って魔女の後頭部の髪に顔をぶつけた。
「痛った~。なんだよいきな・・・!?」
暗く湿った洞窟の奥。
大きく開けた天井の高いひと際広い空間に俺たちはたどり着いた。
そこで地響きとともに立っていたのは・・・。
「ブギヲズデナザイ・・・・!30秒間ノユウヨオアダエル・・・・!」
全身が土色をした2足歩行の人形、いや巨人!?
両手には・・・・・、バルカン砲を持ち、左肩にはロケットランチャーらしきものを載せているモンスター。
「ゴーレム!?初めて見た!?」
「ほう、少しは遊べそうな奴じゃな」
巨人はもごもごとと喉が詰まったような言い方をする。
「ギザマラニハモグヒゲンガアル!25秒・・・、20秒・・・・」
両手のバルカン砲をこちらに向け、発射する気満々。
カウントはアリバイ作りにしか見えぬ。
「1秒!!」
ゴーレムの両腕が30秒どころか10秒で火を噴く兆候の2秒前に俺たちはその場から飛び跳ねた。
・・・・・・・・・・ブオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!
固い地面が大きくえぐられ、岩の壁にはクレーター並みの穴が開いた。
バルカンの速射を喰らえば何の痛みもないまま死ぬだろう。
が。
ドググオオオォッッッッッッ!!!!!!!!!!!
「グルヴァ!?」
直後にゴーレムの方のロケットランチャーが爆発した!
奇声を上げ、自らの身に何が起こったか分からない様子のゴーレム。
「元素に帰れ、デカブツ!」
“銀龍の魔女”がゴーレムの背後に触れた瞬間、巨体が一瞬にして砂へと変わった。
ザアアアアッッッッッッ!!!
きれいな円錐形の砂山ができた後には黒い金属の塊が2個と炎上する残骸が一つ。
「ガトリングさん・・・・、聞いていいか?」
「こいつらがなぜこの世界のものじゃない武器を持っているか?じゃろ?」
「そう!こいつらなんで・・・・って!?」
!?
動けない!?
魔法!?
いや、違う!
何か別の気力か何かの!
そして、俺の目の前にいる“銀龍の魔女”も一瞬で目つきが鋭くなった。
“銀龍の魔女”の背後に誰かいる!
彼女の背後の首のあたりにする光るものが見える。
“銀龍の魔女”の背後に突き立てられた、ろうそくの明かりに照らされる白刃。
鋭い両刃の切っ先は彼女の背後の脊髄の付近に突き立てられている。
少し押し込めば容易く彼女を絶命させることができる位置にある。
「少しは腕を上げおったか?」
“銀龍の魔女”の背後をとったのは人間ではない。
全身が真っ赤な血のように赤い皮膚をした、人間のようなモンスター・
「侵入者ありと聞けばお前か、“銀龍の魔女”!!」
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