第10話 ホールドアップ

武器などをそろえるつもりが、補助アイテムもかなり買い込んだ。


ベルリオーネさんは女王様から多額の準備金をもらっているらしいので、俺もそれなりにいい装備を用意させてもらった。


「なあ、ベルリオーネさん」


「何でしょう?」


「俺はステータスオープンしたときにすでに何点かの魔法を使える見たいだけど、具体的にどんな感じ?」


「すべて攻撃型の魔法です」


「ですがスドウ様、攻撃系の魔法だからと言って攻撃しかできないという狭い視野は捨ててください。発想を自由にすれば攻撃系だろうと防御系だろうと、はたまた補助系だろうと攻防その他あらゆるシチュエーションで役に立つ使い方ができます」


ベルリオーネさんの表情がとても生き生きとしてきた。


「おそらくレベルを上げて慣れてくれば出力を調整することもできるようになります。こんなふうにね」


するとベルリオーネさんは指先に電流を流して、内部に電流が流れる球を人差し指の先に出した。


彼女の人差し指の先端にできた電球のような透明の球は、中に雷のような電気が無音で走り、真昼とはいえ周囲の影がなくなるほど明るく照らした。


「何か理科の実験みたいな感じだな」


「これは本来電撃系の攻撃魔法なんですが、こうしてより魔力を高めて光らせれば洞窟探索の際に明かりになるんですよ」


「攻撃と防御は表裏一体。攻撃魔法も別の用途に使えるし、防御魔法や補助魔法も攻撃に転じることができます。大事なことは想像力なんです」


「すなわち、本来攻撃とか防御とかの区別はない。魔法の深淵は一つ。使い方次第で無限に操ることができたとき、魔法は人を自由にするのです」


「ですから本来魔法を攻撃とか補助とか区別して分類することに私は反対です。すべての魔法の境界をなくしたとき、各個人オリジナルの魔法を会得できるというのが私の考えです」


何やら魔法についての理論なのか、哲学なのか、ベルリオーネさんは得意げに語り出した。


確かに魔法にせよ何にせよ、一つのジャンルの枠だけにとどまるのは俺の趣味ではない。


別の領域と合わさると化学反応を起こしてより面白いことになるという漠然とした感覚はベルリオーネさんに共感する。


街中を歩くだけでも、いろんなものがそこらじゅうの屋台で売られている。


各種のポーションなのか、透明の瓶に入った毒々しい色をした液体が回復薬とか毒を消す薬と値札に書かれて売られているのが目に入った。


「ギルドで仲間を得られたら、本格的に魔法の使い方もお教えします」


そんなこんなで俺たちは城下町南部を目指して目抜き通りを歩く。


すると、途中、妙な男がこちらを見るなり、ベルリオーネさんを手招きした。


「ちょっとここで待っててください、スドウ様」


ベルリオーネは俺から離れて、その男の他、近くにいた甲冑姿の兵士と何やら話をしている。


そして、話が終わった感じになったベルリオーネさんが神妙な面持ちで駆け足でこちらへと戻ってきた。


「スドウ様、申し訳ございません。急用です。先に私の指定した人材紹介ギルドの地図を渡しますので、申し訳ないですがそこに行ってください。あとからすぐ私も行きますから」


「分かった。急用とは?」


「すみません、秘密です」


彼女の表情から先ほどまで魔法の理論を俺に説いていた時の陽気な表情が消えていた。


彼女を呼び止めて何か話をしていた男2名は一応この王国の関係者っぽいが、普通の役人や一般兵の感じではない。


雰囲気的には秘密警察的な何かだ。


「分かった」


しかし、彼女が有無を言わさぬ声色で先に行けという以上、ここで立ち止まってもらちが明かない。


俺は先に指定された場所へ行くことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


地図に書かれた場所は酒場が集中する場所で、それもタダの飲み屋街ではない。


先ほどベルリオーネさんが言っていたように、そこはどうも旅人が旅をする際に仲間の候補となる人材をマッチングさせる場所の様だ。


中には手練れの傭兵と思われるバイキングみたいな甲冑姿のおっさんが自分を雇用しないかと、自分からギルドの出入り口付近で雇用条件を記した看板をサンドイッチマンの要領で胴の前後に甲冑の上から着込んで勧誘している所もちらほら見る。


このあたりか?


妙に入り組んでいるうえに店の数が多すぎる。


「いったいどこなんだよ?」


俺があくびをしながら周囲を見回していたその時だった。


「こちらですよ、勇者様」


背中に突き付けられる鋭い感触。


恐らく両刃の刃物が俺の右腎臓付近に突き付けられている。


人ごみの中とはいえ、気配を感じなかった。


「誰だ?」


「おとなしくわたしについてきてもらおうかしら。我が主があなたをおまちです」


!?


声からすると女の様だ。


「いったい誰なんだ、俺はこれから用事があって君に付き合っている暇は」


「その暇を我らの宿で過ごしていただきましょう、ミスタースドウ」


俺の名を知っている!?


「ゆっくりこちらを向いてください、妙な真似をしたら暗黒針投擲魔法(シュヴァルツシュピッツ)の速度を超低速にして体内に残るようカスタムチューンしてあなたの心臓に打ち込みます」


カスタム?


魔法のか?


「それってどういうことか教えてくれないか?」


俺は好奇心からこの状況下でもとっさに聞いてしまった。


「・・・・通常、シュヴァルツシュピッツは高速の闇属性の針を出現させて相手を貫き、貫いた際に体内を闇の世界の毒で汚染させることで心身、特に魂を病ませて殺す魔法です。ですが、その速度を超低速にして体内に残るようにし、かつ、呪いの進行速度を極度に遅らせることで相手に死へと向かう極限の苦痛を長時間味合わせることができる素敵なマジックカスタムですよ」


「最も、この世界に来た手のはずのあなたはまだそんなことを言っても意味不明でしょう」


低速にして体内に残るようにするか・・・、ガバメントの45ACP(オートマティック・コルト・ピストル)弾やホロ―ポイント弾と同じ考えだな。


さてどうする。


人ごみの中だから助けを求めやすくても、この女見た感じ実力はありそうだし、何よりたちの悪い攻撃魔法を放とうとする気満々である以上、銃を突きつけられているのと同じ。


武道の達人でも銃を突きつけられれば素直に従った方がよいとSASやNAVY・SEALSの本にも書いてあったし、ここはとりあえずおとなしく従うしかないか。


俺はゆっくりと後ろを振り返った。


その先にいたのは目のやり場に困る何かだった。


短めの黒のマントを羽織り、黒い蝶をモチーフにした髪飾りをしたショートヘアの少女は飴色っぽい髪の色で顔つきはやや西洋人っぽいがどことなく俺ら日本人にも近い感じの美少女だった。


年はほぼ俺と同い年か少し下くらいか。


だが、着こんでいるのはおおよそ公衆の面前に出れるような代物ではない露出度の高いビキニアーマーだ。


腹は露出し、胸と下半身は文字通りビキニそのもの。


それをマントを着込んで隠すようにしていて、それにロングブーツを履くなどやたらフェティッシュな格好は古典的なやらしさを醸し出している。


全身黒一色に統一しているのも幼い雰囲気と相成って危険な妖艶さが増していた。


昔ゲームとかアニメで時々見たことがあるお色気装備で、実際の人間が着用しているところを初めて見たが、実際に見ると正直引く・・・。


腰には刃渡りおおよそ30センチ未満くらいのナイフかショートソードの先端が金属で補強された革製の鞘が見えた。


俺に突き付けていたであろう右手に握られている両刃の短剣は周囲から目立たぬようマントでとっさに覆うことで半分隠れた状態になっている。


腰の左右にはさっき店で見た者とおそらく同じ魔力を溜めて非常時に補給できる保管用アイテム、ちょうど某黄門の印籠のようなものを2つずつ、計4個、弾帯のように身につけている。


「余計なことはしない方が身のためです」


「分かった。ついていく」


すると、少女は左手の人差し指に集中させていた黒い光を一瞬で消した。


さらに何やらブツブツ唱えて俺に何か妙なギリギリ視認できるくらいの薄い膜のような空間で覆った。


特に痛みとかはない。


次いでオレの背後にまわり、剣を取り上げて自らの背中に背負った。


そして、鞘に納めた左腰の短剣に右手を添えてすぐ抜ける状態で俺に歩けと命令する。


俺はまだ魔法の事とかは少ししか知らぬ。


だが、どうも直感的に感じるのはなぜかこの子の体からおそらく魔力のものだったであろう雰囲気が消えたのだ。


さっきまで禍々しい湧き上がる何かがひしひしと感じられたのに、である。

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