二次面接

 太郎が面接会場に入ると四人の桃太郎が並んでいた。全員が陣羽織に鉢巻姿。髪型も全員坊ちゃん刈りで全く一緒。日本一の旗を掲げていた。

 面接官が話し始めた。

「実はここにいる5人はみんな桃太郎を名乗っているが、誰が本物かわかりません。ただ、本物かどうかは関係なく、弊社に合った優秀な人材を採りたいと思っています」

 自己PRが始まった。

「桃太郎です。練馬区出身です。食品メーカーに勤めており・・・」

「桃太郎です。中央区出身です。塾講師をやっており・・・」

「桃太郎です。埼玉県出身です。外資系商社に勤めており・・・」

「桃太郎です。横浜市出身です。公務員です」


 桃太郎の自己紹介を聴く機会はなく、しかも、四人連続。桃太郎はわけがわからなくなっていた。

 こいつら、全員、桃太郎なのか。桃太郎って、こんなにいたのか?

 一体俺は誰なんだ。

 もはや、桃太郎は自己紹介で何をしゃべっていたのかわからなくなっていた。


「・・・ピーチなだけに、スピーチが得意です」

 気が付くと面接官が苦笑していていた。

「君は帰っていいよ」

 帰宅途中、桃太郎は思った。最悪の終わり方だ。今日、犬原はいないだろうか?

 今日は火曜日で、犬原の出勤日ではなかった。

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