昼休み返上と夜の飲み屋

 変わらず、雉山はリモートワークだ。桃太郎は昼休みも返上の作業が続く。

「雉はどうした?会議に出ない。チャットの返事もない。電話もでない。勤務中のはずなんだか」

 桃太郎が独り言を言っていると、金太郎が声を掛けた。

「はっはっは、まさに羽休めってところだな」

「笑いごとじゃないって」

 桃太郎は、昼休みを潰してまで犬原の出張精算をしたが、夕方になると、犬原本人は定時前からPCを閉じ、机を片付け、定時と供に退勤していった。


「雪女、最近いないよね。冷たい女だな」

 桃太郎はいつもの飲み屋に来ていた。席に着いた桃太郎にスタッフが声を掛けた。

「最近入った娘さんいるんですが、呼んでいいですか?」

「いいね。連れてきてよ」

「かしこまりました」

「お客さん、ワンカップカクテルはいかがですか?ワンワン」

 桃太郎は思った。ワンワンって、何だか聞いたことあるような話し方だな。いや、違う。これは自分の部下そのものではないか。何でこんなところにいるのか?桃太郎は思わず声を荒げた。

「犬原。こんなところで何やってんだ!!!御伽商事は副業禁止だぞ!!」

 その時、ようやく犬原は目の前にいる男性が自分の上司であることに気づいた。

「係長・・・。冬のボーナスが少なくて」

 犬原はしくしく泣き始めた。泣いてばかりで会話ができない。この状態でフロアをうろつかれるのは嫌だし、これで帰るのは店に失礼すぎる。桃太郎はスタッフを呼んだ。

「ラストまで、この娘を指名でお願い」

「かしこまりました。お知り合いですか?ちなみにこの娘、月金が出勤日なんです」

 週2で指名は、まじで勘弁してくれと桃太郎は思った。

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