第167話 All by Myself(1996年)Céline Dion;(1975年)Eric Carmen
私(
そのとき、すでに父(
それで、母方のおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に
スポーツ用品メーカーに勤めていたおじいちゃんはすでに退職し、嘱託のような仕事をしていた。おじいちゃんが東京で勤めていた時に、新潟県で大きな地震があり、実家が全壊してしまって、そのまま東京に住んでいたのだ。
私はそれまで父方の家に住んでいたが、母と父の折り合いが悪くなってから、母方の家にお世話になっていた。
それで新潟の食べ物や習慣などをよく知っていた
母は一人っ子であり、その家の歴史は古いらしく、私は大事な跡継ぎのように、おじいちゃん、おばあちゃんから良く可愛がられた。
3歳の時にアップライトピアノを与えられた。
わたしが音楽学校(高校)に進む切っ掛けをつくってくれたのは、祖父母の影響だ。
おじいちゃんは昔、ドイツ、当時は西ドイツに赴任していて、クラシック音楽に造詣があった。
そのアップライトピアノは日本でなかなかお目にかかれない、ベーゼンドルファーだった。
大地震の時には難を免れ、新潟の家を取り壊すときに「これは高いピアノだから大事に使いなさい」と壊れた家から取り出されて、私に与えられたものだ。
わたしは、中学あたりからグレ始めて、エレキギターを始めた。しかしおじいちゃんは怒ることはなかった。ニコニコしながら私のギターを聞いてくれた。ロックも好きだったのだ。
母が父と正式に離婚をしたのはその頃だ。
仕事ばっかりの母と、私はケンカばかりだったが、ギタリストで音楽プロデューサーの父は私には優しかった。
私は父には頻繁に会いたい気持ちがあったが、やさしいお爺ちゃんお婆ちゃんのこともあって、なかなか会わず、母親の元でずっと暮らしていた
私は母とは仲が悪いが、母は本当は優しい人だ。
母のもとに行ったのはそういう事情もあった。
私の名字は、そのとき「雪」から「星」になった。
「
まるで漫画に出てくる主人公のようで、キラキラした名字変更なんだろう、とクラスで笑われた。
どちらも新潟や福島にある名字だ
私は名字変更を隠さずに学校で公表した。両方の名前を気に入っている。
もう一つ、
私の祖父母は今でも健在である。
新潟の家は地震で無くなってしまったが、田畑山林はまだ残っていて、人に貸している。その他の資産らしきものは新潟には何もない。新潟には帰る場所もない。
祖父母は、一輝が資産目当てでないことを良く理解していた。
それでも彼が跡取りになることが嬉しかったらしい。
一輝はホントはアホだから、深く考えてないはずだ。
名前はフィーリングだけで決めただけだ。
「星一輝か、かっこいいじゃん」それだけ
夫婦で似たような名前になることすら、深く考えていない。
私が住んでいた三鷹、といっても、吉祥寺に近い場所だったから吉祥寺で中央線に乗り、東京メトロ東西線直通の日本橋に、よく買い物に出かけた。
そして日本橋から一駅の銀座にも買い物に出かけていた。
一輝は昔は門前仲町に住んでいて、すぐ近くの日本橋で買い物をしている時に遭遇していてもおかしくないだろう。
彼とはどこかで会っていたかもしれない
◆◆◆
令和2年4月 新潟市中央区 私は母と会った
おなかの赤ちゃんのために、結婚した(籍を入れた)わけであるが、私たちにはお金がなかった。
教会で式を挙げる段取りをしたものの・・・。
「あなたは洗礼を受けるんだし、信仰心なら、形だけでいいじゃん」と母は言っていた。
私は母に「ねぇ、離婚したお父さんとの婚約指輪をちょうだい?ダメなら貸して」と聞いた。
母は、離婚はしたものの、婚約指輪は持っていたのだ。
「別れたお父さんのを使ったら縁起が悪いからやめなさい」
「なに言ってんの、わたしはクリスチャンよ。『縁起』って仏教じゃない。私には縁起なんて関係ないわ」
「呪いの指輪になるわよ。不幸になる、絶対に。ロード・オブ・ザ・リング…ウウゥ、きっと来る、きっと来るゥ…」
「それはホラー映画の『リング』でしょうが!指輪じゃないわ!じゃ、お母さんはなんで別れた人の指輪を大事にとっておいてあるのよ」
「高いヤツだから、もったいないから」
「ちぇ、結局、金かよ……ちょっと貸してくれるだけならいいじゃん」
「ダイヤの石が大きくて目立つし。お父さん派手好きだったからね、ロックなヤツで…ホントにロック…」
「ちょっと見せてよ、うわ、この石デカ……ロックて岩か!」
「神父さんがびっくりするから、『
「なにをバカな…あ、そうだ、ドレスも貸してよ……」
「そんなもの、あるわけないでしょ!」
「だって、レンタルだって結構お金かかるしー」
「輝には一生に一回、いや、何回もあるかもしらないけどねー…ははは、まぁ晴れ舞台だから。うちの会社、テレビ局といっても地方局だけど、制作部の衣装のツテでもあたってみようかしら……しかし、あなたも私に似て身長がデカいから、なかなか合うサイズなんて、ないんじゃないの?」
「ウルサイわね、お母さんも身長デカいでしょうが!態度もデカいけど!」
「態度がデカいのはお互い様よ!」
◆◆◆
私はマンションに帰った
一輝は夜に学校から帰ってきた
シャワーを浴びて、一輝はベッドに横になった。
「ちょっといい?」
私は一輝の寝ているベッドに滑り込むように入った。
「どうしんだ、急に」
「ねえ、私を背中から抱きしめてくれる?」
「え!」
「あかちゃんが出来てから、私を抱きしめてくれていないでしょ?」
「そうだったね」
「ねえ、一輝、なにか心配ごとでもあるの?」
「おれ、学生だし、学費と生活費が一番の心配かな…」
「お母さんが言ったでしょ。『私が孫の面倒をみるから、心配しないで』って」
「お義母さんには、いつまでも頼っているわけにはいかないよ」
「お母さんから、一輝に伝えて欲しいことがあるって」
「伝えて欲しいって、何を?」
「お母さん、『精一杯頑張っても、この子が保育園に入るのを見られるか、どうか』だって。もう長くない。だから『一輝君は私に気にせず、大学に行って
一輝は沈黙した
そして私に言った
「お母さん、そんなに状態良くないのか、大丈夫だったんじゃ?」
「大丈夫じゃないわ。ステージも進んでいて。一輝が星の姓にして跡を継いでくれるから、生命保険の受取人をあなたにしておいたから、忘れないでってさ。娘の夫だから保険の手続きが簡単だったんだって。そのお金で一輝は学費にして欲しいと、アメリカに留学できるくらいあるそうよ。良かったじゃない」
「なんだって?そんな、絶対に悪いよ。生命保険をアテにするなんてさ…でも、俺、お義母さんから赤ちゃんを『堕ろせ』と言われるかもしれない、とずっと思っていたけど、俺のこと思ってくれていたんだ……」
一輝は泣いていたようだった。その震えが私に伝わった
お腹の赤ちゃんにも伝わったかもしれない
◇◇◇
平成22年(2010年)の春頃
私(雪夏美)は、娘の輝を連れて日本橋に買い物に出かけた時だった
私は当時は三鷹に住んでいて、中央線と地下鉄東西線は直通だから、日本橋のデパートに良く買い物に行っていた。
その日は日曜日だった。銀座の歩行者天国に私は足を伸ばしていた
ふと、ある外国人が、道に迷った様子で、誰かに尋ねようと回りを見回していた
私はその人に声をかけようとして、向かって行った時、その外国人は、小さな女の子を連れた女性に声をかけた
その女性は流ちょうな英語でその外国人に説明していた
しかし、彼女は銀座、日本橋の地理に詳しくない様子で、私が手助けをしたのだった
その外国人観光客は私たちにお礼行って去っていった
その人が連れていた女の子は、娘の輝より三歳くらい年下に見えた
「ありがとうおかげで助かったわ。私、東京の地下鉄に詳しくないので」
その女性はそう答えた
私の英語はドイツ語の訛りがある。聴く人によってはクセが強く感じるらしい
しかし、その女性は綺麗で上品な英語だった
ふと、その女性が連れている女の子を見た
この子、誰かに似ている…瞳の色に…虹のような光があった
もしかして?いや、そんなことは…あるわけない…
「おじょうちゃん、お名前は」
「たちばな・さき」
え?たちばな?もしかして…
その母親は私を見て
「人違いだったら申し訳ないのですが…よくテレビでお見かけしますよね?」
「ええ…確かにテレビに出ていますが」
「星夏美さんですか?」
私はテレビに解説者として出演する際には旧姓使用をしていた
「はい…そうです」
その女性の表情は一瞬、強ばった
明らかに固い表情をしていた
「そうですか…ありがとうございました。行くわよ、沙希…星さん、いつも応援していますから」
「あ、そうだ、輝、あなたが持っているその風船、それをこの子にあげてちょうだい」
「えぇ…まあいいか。カワイイ子だもんね、はい、私の風船をあげる」
「ありがとう。お姉ちゃん」
あの綺麗で上品な女性は、恭平の奥さんだ…奥さんに間違いない、絶対に
娘さんの顔も恭平に似ていた。
特にあの瞳の色は間違いない。それですぐに分かった。そしてさらに特殊な輝きが入っている瞳の色だった
こんな東京のど真ん中で、元カレの妻にバッタリ会うとは…
しかし、あの女性の反応は、私をテレビで見て知っているというだけでない
この人は、「私がダンナの元カノ」だと知っているに違いない…
カンも良さそうだ
恭平の古い写真が残っていたら、見て絶対にわかるはずだ
歩いて去って行ったその女性は、遠くで私の方を振り返り、またお辞儀をして去って行った
私は急に動悸がして
なぜだろう
別れた元カレの妻に会ってしまったからなのか…
失ってしまったものの大きさに気がついたからなのか
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