第24話 「誰か」
「
「学校の優太君と外での優太君は違うんですよ」
三好さんが嬉しそうに話している。
「二階組が戦いを始めたぞ!」
「楽しい」
え?喜多さんが初めて話した!誉に喜多さんを紹介してもらった後、私達は五、六回喜多さんと会っていた。
調べて分かったことをいくつか報告してくれた。スケッチブックに書いた文字で。喜多さんの声は一回も聞いたことが無い。
「確かに。この戦い、楽しいな」
驚いて黙っている私や茉奈、興津先生と三好さんをよそじ、誉はけらけらと笑っている。
優太君は喜多さんの手を握っていた。
「もっと楽しくなるのはこれからだよ。怪しい奴らと戦う時。そっちの方がハラハラドキドキするよ」
喜多さんは嬉しそうにうなずいた。
学校にいる時とは大違いだ。言葉で言わなくても顔の表情で楽しさが伝わってくる感じ。
ん?ガサって音がしたぞ。三階の入口は開けているから、誰が来てもおかしくはない。でも…誰が来たのか分からないや。
誉は私の目を見てキッとにらみつけた。たぶん声を出すんじゃないって言いたいんだと思う。ここには誰かがいる。
『こらあああ』
二階には見張りがいなくて(周りに建物も無いから観察ができない)心配だから、と誉がペット用の見守りカメラを用意した。
同世代の子供をペットと同じ扱いをするのはいいのかよく分からないけれど…。薄暗い廊下で香達が戦ってる様子がよく見える。
「まさか下手なリコーダーの演奏をするとは思ってなかった。ついでに木の板で迷路を作るなんて…」
「香ちゃんって本当にリコーダー吹くの下手なのよ。そういえば二階にいる人…皆リコーダー下手だよ」
茉奈はもう耳栓をしている。私もつけよう。
「
「噂では子供向けの童謡をロック調で吹けるらしいよ」
大庭さんって普通に天才なの?
『ああ!一人逃げたな、待て〜』
『香。うるさいから静かにしてくれないかな』
ちょっと大庭さんがかわいそうに思えてきた。
「一人二階から逃げてるってことは、三階の準備が役に立つね」
三好さんはかなり得意気だ。三階の仕掛けは三好さんが半分以上作ったから。器用な人だなあ。
「皆。興津先生も三好さんも隠れて」
誉が隠れながら言ってもかっこ良くはない。
ドタバタと階段を上ってくる音がした。ゼエハアと苦しそうな呼吸音が聞こえる。
「何がどうなってるんだ…」
奴らの一人がぼやいた。仕方無い。自分達の考えを否定する変な配信があっておびき出されたと思ったら、散らかしバリケードに、下手なリコーダー合奏に、木の板迷路…だもんね。
あ…奴らの一人ええっと…(仮名ボス)が三階に入って来た。
上下黒の服で、金髪の若い人。光の無い目をしている。右手で刃渡り十五センチぐらいのナイフを握っている。こ…怖い。
「最後には誰もいないのかよ。楽勝だな」
完全にボスは油断しているようだ。だとして…ここからどうする?
一応ナイフを持ってる大人だからなあ。誉も茉奈も優太君もお手上げのようだ。私もお手上げです。
しばらく続く沈黙がやけに怖い。ん?待って…。
「この法律は、全ての国民が…障がいの有無に関わらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない[個人]として尊重されるものであるとの理念にのっとり…」
……法律。どこからか声が聞こえて来る。ボスが戸惑う。
「は?何のことだ」
「何?って障害者基本法の第一条の一部だよ。知らないんだね」
なぜか
「あいつは黒電話の上に立っているんじゃない。よく見ろ。黒電話から足が少し離れている…。浮いているんだ」
「二センチは浮いているね」
高妻さんって超能力あったっけ?覚えてないなあ。
「何人も、障害者に対して障害を理由として、差別すること…その他の権利利益を優先する行為をしてはならない」
「黙れ!」
ボスの怒りのパンチを、高妻さんは余裕そうによけた。怒りまかせにボスが何回殴ろうとしても、高妻さんはひらりひらりとかわして、やっぱり地面から浮いていた。
「これは君が持っていない方がいいよ」
そう言っていつの間にかナイフを握っている高妻さん。
ボスが呆気にとられている間に、三好さんと興津先生はスイートピー②の三階の四つある窓を全て閉めてしまった。
優太君がまだ開いている入口のドアを閉めようとしている。ボスは入口に背中を向けていて、高妻さんに対して怒っているから…気がつかないはず。
ガチャリ
ドアノブを回した優太君はボスに気がつかれた。
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