4.ジークムント・ベルトラム

アバドンの神殿へと向かっている最中に、僕達は互いの冒険者ランクを確認した。


僕とリズの冒険者ランクはFだった。


ちなみにロイドのランクはEなんだけどね。



冒険者ランクは登録した当初はランクGから始まり、冒険者ギルドに貢献したと認められれば、冒険者ランクが上がる仕組みだ。



その貢献度については、討伐した魔獣ランクや魔獣の討伐数、ドロップ品の獲得数やドロップ品の価値など、その他にも色々とあって、それを冒険者ギルドが総合的に判断して決めているらしい。


あくまで冒険者の噂だからホントかどうかわからないけどね。


僕達が持っている冒険者カードには、魔獣を倒した時の魔獣のランクや数が詳細に記録されるから、あながち間違っていないと思う。


僕は浅い階層ばかり潜っているから、魔獣の討伐数はそれなりに多いけど、貢献度は少ないのでFランクのままなんだよね。



浅い階層の魔獣の魔石って小さいし、ドロップ品もゴブリンの腰布や、コボルトのバンダナ等だから、換金しても、それほどの儲けにもならないし……



「二人で頑張って、早くEランクに昇格しましょう。私とノアさんなら、きっとできますよ」



リズは前を向きながら、うんうんと大きく頷いている。


そのポジティブな自信はどこから湧いてくるんだろうか。



アバドンの神殿に到着すると、柱に設置された魔導モニターに冒険者達が集まっていた。


何を見ているのか気になり、魔導モニターを覗き込むと、そこには男女混合の五人組のパーティが映りだされていた。



「あれって、『レッドキャップ』クランの幹部、ジーク・ベルトラムさんのパーティですよね。いつかジークさんのように深層に潜って、私も活躍したいです」


「うん……そうだね……」



魔導モニターに映っているジークムント・ベルトラムは、Sランク冒険者で、アバドンの到達記録保持者でもある。


『レッドキャップ』クランの長をしていて、多くの冒険者から慕われている大人気の冒険者だ。



ちなみにアバドンの最高到達階層は、六十二階層。


六十三階層より深い階層は、誰も踏破したのことのない未踏破階層だ。



アバドンの深層へ向かう時、上級冒険者でも苦戦する魔獣達が次々と出没する。


それを少数のパーティで討伐するのは困難なので、多くの冒険者達のパーティは互いに協力するしかない。


そこで深層に潜る冒険者達が集まって結成されたのがクランというわけだ。



テンプレスの街には深層に向かうクランが幾つも存在している。



まあ、まだ三層にしか辿り着けていない僕や、ダンジョン初心者のリズには関係ないことなんだけどね。


いつかはジーク・ベルトラムのように活躍したいというリズの気持ちは理解できる。



男の僕から見てもカッコイイし、やっぱり憧れちゃうよね。



見入っているリズの肩をちょんちょんを指で合図し、僕達はゲートへと向かった。


ゲートから転送されて一階層におり立った僕は、リズに声をかける。



「そういえば、リズの魔法や得意な攻撃って聞いてなかったんだけど、ちょっと教えてくれないかな?」


「私の得意魔法は火炎魔法と雷撃魔法です。あと、水魔法が少し使えます。それ以外の魔法は、ほとんど使ったことがありません」



この世界の全ての人々の体には魔力があり、空気中には魔素が含まれている。


魔法士は自身の体の中にある魔力を操作して、魔法を起こすってわけだ。


上級の冒険者になると、体内の魔力だけでなく、空気中の魔素も利用して大規模魔法を使うこともできるって噂で聞いたことがある。



しかし、何の訓練も受けていない一般庶民は、体の中の魔力を操作することができず、魔法を扱うことはできない。


冒険者で魔法士になっている者達は、魔法学校などで訓練を受けた者か、ベテランの魔法士の弟子になって、魔法の訓練を受けた者が多い。



魔法学校に入学できるのは、貴族や大金持ちの子息だけなので、リズは誰かの弟子になって教えてもらったのだろうか?



扱える魔法は人それぞれの素養によって決まる。


多くの人は使える魔法に偏りがあり、一つの系統しか使えない魔法士も多い。


三つも違う系統を使いこなせるリズは、魔法士として優秀といえる。



ちなみに僕は、両親の親友から魔法の基礎訓練を受けたけど、ちょっとした初級魔法しか使えないんんだよね。


まあ、魔獣と相対すると一瞬で『狂戦士』のスキルが発動するから、魔法を使う暇なんてないんだけど。



「ということは、昨日のように僕が前衛で、リズが後衛ということでいいかな?」


「はい。ノアさんが『狂戦士』のスキルを使いこなせるように、後ろでいっぱい応援します」



リズは長い杖を振って、ニコリと微笑む。



昨日のアバドンの三階層から一階層に戻る時、何度か魔獣と交戦となり、例によって『狂戦士』が発動して魔獣を倒したわけだけど、その後に何度かリズを襲いかかってしまった。


その時、リズの「意識をシッカリ持ってください」という声が聞こえ、強引に意識を取り戻すことができたんだ。


そのことをリズに話したら「今度から『狂戦士』になっている時、私が声をかけます。私の声を頼りに、意識を保ってください」と言われてしまった。



たしかに『狂戦士』になっている時、誰かを守らなくちゃ、誰かを助けなくちゃって思って戦ったことはなかった。


もしかするとリズを守ろうとすることで、『狂戦士』になったとしても意識を保てるかもしれない。


そこまで考えて、僕はリズを見て大きくうなずく。



「よろしくお願いします」


「喜んで。頑張りましょう」



リズは嬉しそうに満面の笑みでほころんだ。

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