第4話
だがナジルにはまだこちらに言いたいことがあるようだ。
俺に対し、この件で頭を下げ言うことを聞くということが、
なぜか彼には非常に我慢ならないことだったようなのだ。
「先輩、あんた今の件で、俺に言うこと聞かせたぞヤリイとか思ってるんだろうけど、
一つあんたに言っておくわ。
俺はそのへんの連中と違って選ばれた人間なんだ。
あんたにはわかんないんだろうが…
まあ、あんたにわかるように、その証拠を、特別に見せてやる!」
ナジルはそう言い放つと、ポケットをゴソゴソやりはじめた。
なんだろうな。ポケットに入る程度の証拠なんかな…
ナジルが手の平を上にしてなにか差し出したので見たら、
小さな金属の四角い板に、文字や模様が刻まれているものだった。
「読めるか?」
いや、読めるどうこうの問題じゃあない。ナジルが差し出しているのは、子供用菓子のおまけについてくる玩具だった。
なんだ?コレクターか?レアものでも見つけて自慢したいとか?
「目をかっぽじってよく見ろ!これは俺の家の近くに隠されていたのを発見したんだ、この俺が、この手で!
これは、『伝説の勇者の印』そう書かれているプレートなんだ。
プレートの裏には、これを見出した者は勇者となる運命である、とそう刻まれているんだあ!
わかるか?この意味が。
そう、この俺は、勇者となる運命なんだ!」
…これ、数年前、俺がここで勤めはじめる前の食玩だな。
確か、当時、勇者がこの世にあらわれた、そういう噂が流れた。
勇者はいつの間にか魔王を倒し、人知れず世の中を救った。噂の内容はそう続く。
そして便乗した勇者関連のグッズものは、結構流行っていた。この食玩はその時のものだ。
当時、別に魔王なんかいなかったし、魔物なんかも、この界隈には出なかった。
だが噂は噂を呼び、なぜか勇者とやらが大人気となったのだ。
なんというか、人々が娯楽に飢えていたのかもしれない。
少し離れた町の冒険者ギルドに、やたらに強い新人があらわれた話が膨らんだのだ、と言ってる連中がいるが、おそらく本当のところは、そのあたりが正解なんだろう。
ナジルだってその当時は、勇者の話は聞いたりしたんだろうが、
この食玩は、きっと見たことなかったんだろうなあ。
ナジル、子供がポイしちゃってたのをそのまま拾ったんだろう。
でも普通、これが玩具なのは、どう見てもわかるはずだよな?
俺をからかっているんだよな?ナジル、そうだよな?
これ、笑いを取るつもりなんだよな?
だがそのナジルを見ると、なんとも言えない得意そうな幸せそうな表情を浮かべているのだ。
「今のうちに俺に取り入っといた方がいいと思いますよ、レイオ先輩!」
…嘘だろ?まさか、本気だと…言うのか…
そこまで常識や判断力が無い人間が存在するとでもいうのか?この世の中に…
混乱しながらも、俺は、ついつい聞いてしまった。
「勇者目指すなら、なんでここに来てるんだ?
その場合、行く先は商業ギルドじゃなくて、冒険者ギルドなんじゃないのか?」
ナジルは怒鳴った。
「俺が間違って商業ギルドに来たとでも言いたいのかあ!
勇者みたいになりたいなら、冒険者ギルド!
そんなことは当然知っとるわ!
冒険者ギルド行って、このプレート見せて説明したら、馬鹿にされて追い出されたんだ!
俺は勇者なんだが冒険者ギルドには縁が無いらしいんだ!
もう変なこと聞くな!」
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