0-4 皇帝の溺愛する花嫁が、負け確定イベントを回避した元モブ暗殺者だった件。
皆に祝福され、赤い花嫁衣裳を纏って結婚式を挙げたばかりの
どうやらこの国では、初夜は花嫁の部屋で行われるらしく、花嫁衣裳のまま寝台の上でぴんと背筋を伸ばして、赤い面紗を頭から被ったまま
(····なんだか緊張する。というか、初夜っていってもこれがはじめてじゃないのに、なんでこんなに心臓がばくばくするんだろう?)
花嫁としてはじめて身を捧げるという意味では初夜だが、その前に身も心も
それに気付いた
(本当に私で良かったのかな?
結婚式が始まるまではそんな事ばかり考えていたけど、終わってみれば渦巻いていた不安な気持ちはどこかへ行ってしまった。
(ずっと、一緒にいられたら····それだけで幸せなのに。私を選んでくれたあの御方の気持ちが、すごく嬉しい)
部屋の扉が静かに開く。
赤い衣裳を纏った
「何度見ても君の花嫁姿が綺麗だから、私は見る度に夢の中にいる気分なんだ」
「 綺麗? 確かに綺麗な花嫁衣裳ですけど、夢などではないです。私はちゃんとあなたの目の前にいますよ?」
そういう意味ではないんだけどね、と
「私の花嫁はちょっと抜けているけれど、そこが可愛らしいから困る」
面紗をそっと取って、露わになった
「あの、
「いいよ。私も君に一緒に見てもらいたいものがあったんだ。丁度いいから、ふたりで少し話そうか」
その"お願い"に対して、
「
手の中にあるもの。それは攫われた原因でもあった。それを知らないまま大事に持っていたのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。記憶が少しでも残っていたなら、きっと辛い思い出のひとつになったいただろう。
「それは、青龍の玉佩だね」
「はい。これは、あの頃の私にとって希望でした。失くした記憶の、手がかりのひとつ。もうひとつの模造刀もそうでしたが、これは特別だったんです」
青龍の玉佩は、
「やっと、持ち主に返すことができます」
あの日から何年もかかってしまったけど。
「それは、君が持っていて?」
「····だめです。これをあなたに直接返すことで、私の過去にもようやく区切りがつくんです。だから、受け取ってください」
代わりに腰にぶら下げていた玉佩を手に取り
「君から返してもらったものがあるから、これは君の傍においてあげて欲しい」
なんとなく、
「形は少し違うけど、私がずっと身に付けていたものだから。過去の私ではなくて、今の私が君の傍にいるってことを、忘れないで欲しい」
手渡された玉佩を胸の辺りで抱きしめるようにして、
「
「うん。実はね、本棚を整理していたら身に覚えのない書物が出てきたものだから、君にも確認してもらいたくて」
「
「やっぱり君も見たことがない書物のようだね。題名も表紙に書いていないから、ますます怪しく思えてきたよ」
ふたり、その青い表紙の薄い本に視線を落とす。
「呪物、とかそういう類の気配はしませんが、なんだか
「一応、確認してみますか? 私なら、これくらいの邪気なら平気ですし」
白き龍の民は神仙の血が流れる特別な一族。身体能力もそうだが、回復力もかなり早い。強い邪気であったとしても、その内力で簡単に抑えられるだろう。
「では、捲りますよ····」
青い表紙を開き、一枚目。
「これは、私たち? です、よね?」
「そのようだな····誰がこのような見事な絵巻を作ってくれたのだろう?」
その美しい絵の下の方に書いてある文字。これはこの本の題名だろうか?
『皇帝心愛的新郎曾經是刺客』
そのまま読むと、『皇帝の最愛の花婿はかつて暗殺者だった』だけど。
「えっと····つまり、この薄い本には私たちのことが書いてある? ということでしょうか? この本の
「花婿? 花嫁の間違いでは?」
くすくすと
自分たちのようにどちらも男性の場合は、結局どちらなのだろう? と、
気を取り直して、ゆっくりと二枚目三枚目と紙を捲っていく。そこには
が、どんどん話の雰囲気が良からぬ方に流れている気がした
「せ、
「そう? 私は続きがすごく気になるけど」
「初夜の参考になりそうだし、いつもと違うやり方で君を気持ちよくさせてあげられたら、私も満足なのだが」
「
「本当に、私の花嫁は可愛らしい」
「誤魔化してもだめです!」
おそらく、いや、間違いなく、
「
それは、嫉妬だろうか?
「まさか。ここにいる君だけが私をこんなにも夢中にさせてくれるんだから、」
いたずらっぽく言って、
――――数年後。
皇后が前代未聞の男性と知ってもなお、国民はふたりを祝福した。青龍の国はその後も争いが起こることもなく、末永く繁栄したのであった――――。
『
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