3-7 贈り物
王都の
治安も悪いというわけではないし、民たちも不満がないわけではない。それは当然のことなので改善の余地はあるだろう。
「ハクちゃん、みてみて? これ、ハクちゃんにとっても似合いそう!」
様々な店が並ぶ
「いや、だから俺は男なんですってば····
「ハクちゃん、わかってない! 可愛いに男の子も女の子もないわ!」
わかる。
すごくよくわかる。
俺はうんうんと頷き、キラさんの言葉を噛み締める。本人は不服のようだが、むぅと膨れている顔ですら可愛い
本来の隠しルートの性格は実は本人とは違うし、暗殺者としての能力はかなりチートだったりする。
「
「ちょっ····
くるりと振り向いて、キラさんがにっこりと見上げてきた。
「かまわないよ。それはそれで買うとして、ハク自身もなにかひとつ選んで?」
「
「俺は別に····
珍しく
なので、ハクのことは
これは隠しルートの本編でもこのタイミングで明かされるので改変にはなっていない。なので、この秘密はここにいる四人だけが知ることだった。
「
「
さっき笑みを浮かべていたのは、彼が昔を懐かしんでいたのかもしれない。ちなみに、本来はこのシーンで彼が微笑むことはないはずなのだが。
「心配は無用。
「····か、
被っている白い衣越しに
(いや、なんで
我ながら心が狭すぎる····けど、こればかりは譲れないぞ!
「ハク、好きな色は? 髪飾りが嫌なら、この髪紐はどう?」
俺は並んでいるものの中から、あるものを指差して訊ねる。薄桃色の可愛らしい髪紐。しかし、
「それは、いらないです。間に合ってます」
「ああ····そうか、」
ねえ、なんで⁉ 俺にだけ時々ものすごく塩対応なの、マジでなんで⁉
「あ····えっと、前に貰った赤い紐飾りの髪紐。あれが気に入っているので、それは要らないという意味で。あ、じゃあこれ、これにします」
(そっか····あれ、そんなに気に入ってくれてたのか。
俺はその言葉にわかりやすく元気を取り戻し、
ちなみに、俺が選んだあの髪紐を選ぶとまた違った結果になった。あの塩対応はかなりショックだが、おかげで確定したこともある。
あれは
店主に必要な分のお金を渡し、会計を済ませる。その横で不安そうに
このセカイでのお金は、公務という名のミニゲームをして得る報奨金で、ヒロインに貢ぐ以外にあまり使い道もない要素。
本編の進行やイベントがない時に裏でコツコツとやっていたのだが、こういう時にポンとお金が出せるように貯めていたわけで。転生した先でもアルバイトをすることになるとは思わなかった。
このセカイの財布、財嚢袋を袖にしまい、購入したものを受け取る。今日の
「じゃあ、改めて」
「あ····え? なんですか?」
衣に隠れた顔を覗き込むと、
「私の可愛い未来の花嫁に、」
「は····な、よめ?」
細い手首に腕輪を通し、俺は自分が
「じゃあ、今度は君が本当に好きなものを見つけよう。最初に約束したの、憶えてるでしょ?」
「······はい、」
適当に選んだ物じゃなくて、
その気持ちは伝わった、かな?
そのまま手を繋ぎ、歩き出す。少し離れて
「なにがあっても大丈夫だ。君は強い子だから」
「え? どういう意味ですか? わっ⁉」
よしよしと頭を撫で、俺は複雑な気持ちを隠すように目を細めた。
そんな中、恋愛イベントと同時進行で、
それは、
「どうしたんですか? いつも以上に変ですよ?」
ちょっと待って。
俺が口を開こうとしたまさにその時、不自然な足音が四人を囲むように集まってきた。
最悪のタイミングで始まるとか止めろ。お願いだから否定させて!
『さてさてお待ちかね~。隠しイベントのはじまりはじまり~』
ナビが急に話し出す。それを合図に、俺たちは口元を布で隠した怪しすぎる集団に囲まれていた。道を歩いていた者たちがその様子に驚いて遠ざかっていく。黒い衣に身を包んだ、昼間にはかなり目立つ格好の者たち。
「大人しくついて来てもらおう。騒ぎになるのはお互い避けたいはずだ」
その内のひとりが顎で方向を示す。
『暗殺集団、"梟の爪"の下っ端たちですが、ひとりひとりの能力は高く、
煩いな。
民たちが皇子である
賊たちは自分たちが一番目立っているだろうことに気付いているだろうか。
明らかに怪しく、敵と認識されやすい姿で現れる矛盾。わかりやすく敵、という存在はゲームの中では通常運転である。
前にふたり、後ろに三人、横にひとりずつ配置され、俺たちはある場所へと連れて行かれる。そこは
「来たな。やっと戻ったか、名無し」
「····
目の前にいる、本編だけでなく隠しルートにも登場する彼の名は、
暗殺集団"梟の爪"の頭領である。
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