3-4 好きな子の好きなひとが気になるので、本人に訊いてみた
あの最低最悪な態度を謝るために、
(あんな酷いことをしたのに、嬉しかったって····嘘だろ? 怯えていたんじゃなくて、ただびっくりしただけって、どういうこと?)
お茶会でのあの反応は、つまり····そういうこと、なのか?
いや、なんでそうなる?
あんなこと言われて、あんな乱暴にされて、どうしてこうなった?
動揺する俺にさらに畳み掛けるように、
「この際だから、言わせてもらいますけど。私····いえ、俺は、男です。花嫁探しの儀式であなたを殺すために送り込まれた、暗殺者なんです」
いや、知ってるけど。
知ってるけど、言っちゃ駄目なやつ!
ヒロイン退場って、まさかここ⁉
まだイベントは終わってなかった⁉
俺は焦る。めちゃくちゃ焦る。全然シナリオ通りじゃない。そもそもメインイベントのあのお茶会から今の流れも、まったく違うのだ。
お茶会の後に
「理解してもらえないと思いますが、ここはあるひとが作ったゲームのセカイで、俺は元々普通の高校生で、事故でたぶん死んじゃって、神サマの手違いでこのモブ暗殺者に転生しちゃったんです。ホントはあなたを殺そうとして逆に殺されちゃう、捨てキャラなんです。だから、あなたは俺なんかに謝る必要もなければ、恩義を感じる必要もないんです!」
は?
(それって、つまり····目の前にいる
『心外ですね。ボクは嘘なんてついてませんよ。ふたり以外は認識できないと言っただけです。それにおかしくないですか? 本来、このセカイのルール上、自身が転生者と明かしたり、キャラクターらしくない台詞や行動はペナルティとなり、最悪一発退場もあり得ます。なのに、このヒロイン。消える様子もなければ、強制排除の兆候もありません』
ナビの説明で、とりあえずは
「······じゃあ、好きなひとって、誰?」
好きなひとがいる、と。忘れられないひとがいる、と。もう逢えないってことは、現実セカイで
その相手は、誰?
『うわぁ····典型的なヤンデレ気質。ヒロインもドン引きしてますよ?』
ナビの声を無視し、俺は右横にいた
(····でもさっき、嬉しかったって言ってた。それは、
じゃあ俺の、今までずっと秘めてた想いは?
『
ぐるぐると自問自答を繰り返していたせいで、乱暴に押し倒したままの
今更、思い出す。
『こういう時は、まずは着ているものを緩めるといいですよ? 合わさっている衣の襟の部分とか帯とか。締め付けられていると、上手く息ができないですから』
「わ、わかった····っ」
俺はナビに言われるまま、
ついでに包帯の巻かれた右肩を露わにして、傷の状態を確認する。血は滲んでいなかったが、もしかしたら俺のせいで悪化させてしまったかも····。
当たり前だ。まだあれから数日しか経っておらず、一瞬で治るような回復薬があるわけでもない。それなのに。わかっていたくせに。俺が何度も掴んだり乱暴に扱ったせいだ。
「ごめん····ごめん、
抱き上げ、ぎゅっと自分の方へ隙間なく寄せる。
その温度は、確かに。
「でも、もうひとりにしない。絶対に守るから。誰にもお前を奪わせない」
俺は勢いよく部屋を飛び出し、
「ちょっ····びっくりしたぁ。って····
キラさんはぐったりとしている
いや、誤解だって! キラさんが想像しているようなことは、断じてしていない! 無理矢理押し倒したけども!
「ち、違う違う! これは苦しそうだったら緩めただけで! 乱れているのは、そういう行為をしたとかじゃないからっ」
「苦しそうだったから、緩めた····? 乱れ····そういう行為って?」
いや、だからそうじゃなくて!
「
「熱? ハクちゃん、ハクちゃん、聞こえる?」
俺の胸に凭れたままの
「とりあえず寝台に。たぶん大丈夫だと思いますが、
「わかった。必要なものがあったら近くにいる者にすぐに言ってくれ」
俺は心配で居ても立ってもいられなかったが、部屋を後にし、近くに控えていた従者に内医院の侍医を呼ぶように手配する。侍医は皇族を診る特別な医官だが、皇子である
やれることはやって再び部屋に戻ると、周囲の慌ただしい雰囲気を感じ取ってやって来たのだろう、
「
「····私の部屋でいいか?」
はい、と
これはもはや、ゲームというよりひとつのセカイ。そこには意思があり、現実セカイの人間と同じように温度さえある。
「あなたの護衛として、ではなく、長い付き合いの友として忠告します」
部屋に入るなり、拱手礼をしたまま
「ハク殿を大切に想っているのは、よくわかります。わかりますが、私にはその気持ちとは反対に、あなたの中にあるよくない願望が、彼女を傷付けている気がしてなりません。もう少し自分の気持ちを抑えた方が良いと思います」
「それは····自分でもよくわかっている」
昔から、自分のものを取られるのが怖くて、好きなものに対しての執着が強くて、周囲から引かれることもあった。
それからはそういうものをなるべく作らないようにして、距離を置いて、見ないふりをした。
大切にしたいのに、傷付けたいとも思う。
夢中になればなるほど、自分を抑制できない時がある。
「でも、もう、大丈夫だ。約束する。絶対にハクを傷付けない」
俺の揺るがない想いを感じ取ってくれたのだろう。
絶対に幸せにしてみせる。これから先のイベントもぜんぶクリアして、最後に告白する。あの時、言えなかった言葉。色々と遠回りをしたけど、この壮大な告白大作戦を終わらせる。
そのために、俺は。
すべての恋愛イベントを発生させ、最高のエンディングを迎えてみせる!
『もちろん、ハッピーエンドを目指してもらうのが、本来の目的ですからね。せいぜい頑張ってください、
言って、ナビはどこか嬉しそうに茶々を入れるのだった。
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