星の如く照らし続けて
千桐加蓮
序章
第1話 新作映画の題材
初夏、俺は石とレンガで造られた外観が素敵だと地元で言われているカフェにいる。
このカフェは、最近できたデパートの一角を使ったカフェで、外観はもちろん、ノスタルジックなムードな内装を生かし、アンティークな家具が置かれている。内装も含めて評判た。
今日は三十度を超える気温だ。しかし、ドイツでは、日本の賃貸住宅やカフェのように冷房が基本設備ではない。
そのため、扇風機をつけても、シャワーを浴びても我慢できないほどの暑さの時は、部屋から逃げるようにショッピングモールやデパートに足を運ぶ人をいる。俺もその一人た。
店内では、お洒落なカップルだけではなく、大学生のような若い女性がせっせとノートに何かを書き込んでいたり、ご年配の男性が老眼鏡をかけて難しそうな分厚い本を読んでいる。
皆、それぞれまったりとした好きな時間をカフェで過ごしているなと思いながら、テラス席の方を見た。
天気が良いので、テラス席に座ってひなたぼっこをしている方もいるなと思いつつ、アンティークな椅子に深く座り直した。
俺は今、三十半ば。結婚はしないのかと仕事仲間たちに言われることも少なからずあるが、日本の文献の翻訳をしたり、他国の曲や本や取材のインタビューをドイツ語で伝える翻訳家でも通訳の仕事もしている。四十歳に近づくにつれて、恋愛よりも仕事に専念したいと思うようになってきた。
しかし、今日はどの仕事にも当てはまらない。空いたかった人に会えるという喜びから、まるで少年の時に戻ったような気分になっている。
会いたい人というのは、日本という東洋の国の映画監督だ。
俺へ話を伺いにドイツまで来てくれるという話を聞き、嬉しい反面少し緊張もしている。
約束の時間よりも三十分も早く着いてしまったからか、監督は中々姿を現さない。
数十分。大人しく待っていると、監督は姿を見せた。俺は立ち上がり挨拶をする。
「あの、どうも」
ぺこりと会釈をすると、監督も同じように会釈をする。
「こんにちは、スバルくん。取材に応じてくれてありがとう」
今年で四十七になる男の
そして、手には小さな箱を持っていた。それは、たぼこが入っているものだということはすぐにわかるくらいの物である。この人も父親と同じで吸うのかと思うと、吉池監督がたばこを口にした時によく合うだろうと想像した。
そして俺と監督は向かい合って座る。
「早速だが、ダイレクトメールを送った通り、君の祖先の方を主人公にした、新作実写映画を作りたい」
日本人は、曲や物語などを創作するのが好きな人が多いだろう、と勝手に思い込んでいる。戦争前から、自分たちのことを物語にして書き綴っている話を祖母から聞いたことが何度もある。そんな彼らが作った作品はとても面白いものが多かったし、俺もよく読んでいた。
しかし、彼らの作品はどれも悲しいものや救いのない話ばかりで俺は読んでいて、俺自身は心苦しかった。『人間失格』を読んだ時はなんて救いのない物語なんだと絶望感に浸ったし、『河童』を書いた芥川龍之介は、『河童』を発表した年に服毒自殺をしているという話も知っている。
「でも、そういう話は悲しくないですか?」
監督は微笑んで話し始める。
「僕の映画は、そういう者の話を取り上げているが、今回はどうしても僕が作りたいんだよ。僕は、約束したんだよ」
なんの約束か柔らかい口調で聞く
「星のものにね」
彼は答えた。俺は意味を理解できず、首をかしげた。
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