page.13 『私だって興味はある』

演劇部の如月先輩に呼ばれた。

それに関してはなんの驚きもなかった。

大体の予想は着く。


ただ、私だけが呼ばれたとも考えずらかった。

だってあの舞台のことで用があるのであれば私だけ呼ばれるのは不自然と思うのが当然だと思ったからだ。


おそらく彼も呼ばれている。


――案の定、彼――白雲くんも先輩からの呼び出しで演劇部の部室前にいた。


ドアの取手に手を伸ばしかけてはバツの悪そうな顔をして入ろうか躊躇っているかのように見えた。


実際そうだったんだけど……


「何をしているの?」


「あ、神咲さん……」


なぜ少し驚いたのか。

私に声をかけられたことがそんなに驚きなのか。


「神咲さんも先輩に呼ばれたの?」


「ええ。あなたと同じ理由よ」


彼の反応を見る限り彼も私と同じ理由を持って先輩に呼ばれたのだろう。

というかそれ以外に理由はないか。


「ドアの前で長話かい? 何とも陽気な後輩がいたものだね」


「「誰のせいだと?」」


良かった。

白雲くんも同じ感想を抱いてくれてて。

私だけが生意気な後輩にならずに済んだ。


というかこの先輩妙に距離感が近いから私としてもやりずらさはある。


どうやら篠崎さんはこの先輩から気に入られているみたいだけれど、私はどうも相性が合わないらしい。


🧊🧊


話の内容はあの演劇のお礼も兼ねて、遊園地への招待チケットをプレゼントしてくれた。


日本でもかなり有名な遊園地で、予約チケットは簡単に手に入る代物ではないというのを白雲くんが言っていた。


先輩がどうやってこのチケットを手に入れたのかは分からないけど、せっかく貰ったものには無下にできない――けど、白雲くんは私となんて行きたくないわよね……氷姫って呼ばれてる私と行っても嬉しくないよね……


だから私は白雲くんの幼なじみである篠崎さんと行ってくればいいと言って渡した。


正直遊園地に興味がないといえば嘘になる。


ジェットコースター?

ってやつにも乗ってみたいし、友達がいたらお化け屋敷にも入ってみたい。


少しは周りの人がやっている遊びをしてみたいと思ったことは何度もある。


でも、私は自分に期待していない。


私は氷零の女王。


笑わない。クール。鋭い目。

氷姫って呼ばれるのにも慣れてしまった。


私は氷姫――そんな私と遊園地なんて楽しくな――


『俺は別に神咲さんとでもいいよ?』


え、え? な、なんで?


おかしい……おかしいよ白雲くん……っ!


だって、だって私氷姫なのに――


『あ、いや! 変な意味とかじゃなくて! その、神咲さんチケットもらった時に少しだけかもしれないけど、興味ありそうな表情をしてたから……』


あ……見られてたんだ……あの時、チケットを受け取った時、私は不覚にもまたとない絶好のチャンスだと思ってしまった。


それを見透かされた……白雲くんに――私をちゃんとみてくれる人に――


「あ、あははっ」


思わず笑うしか無かった。

だってそうでしょう?


私は自分が氷姫であると思っていたのに、この人は私を対等なクラスメイトとして接してくれる。


私は氷姫――みんなに笑顔で応えられない。

私は氷姫――男が嫌い。邪な目で私を見てくる。

私は氷姫――私でもいいと言ってくれた男子の誘いを一度は断った最低な人。


でも、私はこの人と仲良くなれて良かったと思った。


だって、この人はこれまで会ってきた男の子と違う雰囲気がある。

心地いい……


だけど、今の私にはこれくらいしか言えない――


――バカ


としか言えない。だって私は氷姫なんだから。本当は嫌だけど、白雲くんの前では氷姫でも良いと思えてしまうほどに楽だから。


きっと彼は私を全方向から、ありとあらゆる角度から見てくれる。


だから氷姫でもいいんだ。


独り占めデート、か……本当なら異性と出かけるのは嫌なはずなのに、不思議と彼なら出かけるのには抵抗がない。


昔、私と遊んでくれた同い年の男の子と同じ感じがする。


無鉄砲だった私と遊んでくれた男の子にね――


🧊🧊


「かけるくんって遊園地行ったことある?」


「んーないかな。僕人が多いところ苦手なんだ」


「そうなんだ……じゃあさ! いつか大人でも高校生? になった時に一緒に行こうよ!」


「うん。そうだね」


「それで、お化け屋敷に一緒に入って、私が怖がってる時にかけるくんが手を握って安心させてくれるの!」


「それ今言っちゃったら意味無くない?」


「いいの! どんな時にでもかけるくんがいてくれればいいの!」


「分かったよ。みーちゃんは俺が守るから」


「うん!」


かけるくんとの約束を今も私は覚えている。


―――――――――――――――――――――

【あとがき】

ども、深夜テンション組所属の八雲玲夜です。

というわけで深夜テンションで書き上げる小説第12話が完成です。

少し神咲さんの過去に触れてますが、物語的にはなんの支障もないのでご安心を!


神咲さんは未だに氷が溶ける感じがないです。自分としても引き伸ばす気でいるのでとりあえず皆さんは翔を応援しておいて下さい。


甘々になるのはもう少し先かな、多分ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る