ここって本当に異世界なんですよね?
@harukaranatu
第1話
よく見かける風景。
ビルは立ち並び、大人たちがズラズラとコンクリートの上を歩いている。
信号もあるし車も走っている。
そう。日本ではよく見かけた風景だ。
しかしよく見るとおかしな点がいくつかある。
例えば目の前のスーツ姿でハイヒールのカツカツという音を立てながら足早に歩く女性は耳が明らかに長い
例えばスマホのようなものを耳に当て話しながらペコペコと頭を下げる眼鏡をかけた中年のおじさんの腰には杖が携えてある
まるで日本と間違い探しをしている気分になる
日本のようで日本でない。そんな世界が俺の前で広がっていた。
俺はとりあえず頭の中を纏めるためについさっきまでの出来事を思い出すことにした。
ーーーーーー
頭がクラクラする。
曖昧な意識の中自分の体が倒れていることに気づきゆっくりと体を持ち上げる
俺の中の最後の記憶としては自転車を漕いでいたら死角から猛スピードで車が突っ込んできて衝突。
不幸中の幸いか意識が飛んだので体を痛めることは無かった。
痛覚が働く前に意識が飛ぶほどの勢いで車にぶつかったのだ。まぁおそらく死んだのだろう。
自分の死を思ったよりもあっさり受け止められたのも今いる場所のおかげかもしれない
真っ白な空間に椅子がふたつ。
かなり前方、そして同じくらいの距離の後方にシンプルな扉がそれぞれひとつずつ。
部屋全体にはモヤがありもしかしたら思っているよりもこの空間は広いのかもしれない
死後の世界と言われればしっくりくる幻想的な空間だった。
すると、前方の扉が突然開かれた
「おや、目が覚められましたか。」
扉を開けた主は絶世の美女。綺麗な金髪のロングヘアーを赤い髪留めが留めている。
純白な服…まるで神様が纏っているような羽衣を着ており、露出はしていないのに胸の膨らみ的にそれなりの大きさの胸の持ち主だとすぐわかる。
透き通るような青い瞳で俺の事を見て少しだけ微笑み、ゆっくりと椅子に近づきそのまま座った。
「貴方様のようにすぐ目が覚める方はなかなか居ませんでしたから少し驚いちゃいました」
「は…はぁ…」
あまりにも美少女なもので若干気圧されるもちゃんと聞くことがあるだろと自分の中でツッコミを入れる
座るように促されたので座り聞きたいことの要点を脳内でまとめ始める
「えっと…まず、俺って死んだんですかね」
「はい。残念ながら…。不運な事故でした」
「やっぱり…」
それに関してはそこまでショックを受けていない。
先程も言った通り何となくここが死後の世界だろうなとは思っていた、そして目の前のこの美女だ
いい意味でこの世のものでは無いと察せる
「ちなみにここってどこなんでしょう…?」
「ここはいわば生と死の境目と思ってもらって大丈夫です。貴方様の生前の行いを見て新しい命として転生するか、死後の世界に送り出すか。それを決めます」
「そういうのって地獄で閻魔大王とかがやってるのかと思ったんですが想像と全然違うんですね」
「閻魔は何もしませんよ、だからこうやって私たちに仕事が回ってきて……あ、すいません…」
閻魔が実際にいるというのも驚いたが何もしないとはどういう意味だろうか
「あ、申し遅れました。今回貴方様、大葉優斗様の担当となりました。エノ・ロジアーと申します。
せっかくですが貴方様の生前の記録を拝見させてもらいますね」
エノはどこからかルーズリーフぐらいの大きさの紙を取り出し真剣な表情で見始めた
おそらくあれが俺の生前の記録なのだろう
「ふむふむ、23歳で特に悪事など手を染めた経歴もなし。ちゃんと道を外れずに生きてらっしゃったのですね、大変素晴らしいです」
そりゃそうだろう。うちは母親が厳しかったためそういった教育は小さい頃から受けているからな
…というかそうか…今まで気にしていなかったが母さんや父さんにもう会えないということか…
妹と弟も会えないし友達とも会えない
職場仲間はそこまで仲がいいわけじゃないが…一応数年は共に仕事をした仲だし多少は寂しくなる
そんなことを考えていたのが顔に出てしまったのかふとエノを見るととても悲しい顔をしていた
人の不幸を自分の事のように思える人なんだろう
「死とは置いていかれた方々の寂しさや悲しみに目を向けられがちですが亡くなられた本人ももちろん寂しいですし悲しいに決まっています…」
「そう…ですね…。でもまぁ…仕方ないですよ」
少し溢れてきた涙を拭きエノと向き合う
「それで、俺は結局どうなるですか?」
エノは俺の顔を眺めて俺が無理をしていないのを判断すると指を三本立てた
「現在貴方様には3つの選択肢がございます
1つは生前の記憶などを全て消して新しい生命としてまた人生を再スタートすること。私の特権で多少は融通が聞くようにはできます。例えば生活に不自由がない家庭に生まれたい。や、両親ともに子供思いの愛溢れる家庭に生まれたい。などです。」
なるほどな。そりゃもちろん生活に不自由なく暮らせる家庭に生まれたいに決まっている。
両親を悪くいう訳じゃないが俺の家はそこまで稼ぎが多くなかったため俺は行きたかった大学を断念して就職を選んだ。
もしお金に余裕のある家に生まれたのなら俺は大学に行けたのではなんて考えてしまうこともあった
「そして2つ目、天国に行く。
やり残したことが無い人はこの選択肢を選ぶ人が多いです。
天国での生活に飽きたら1つ目の選択肢である転生もできます」
「天国ってどういうところなんですか?」
「本当に天国のようなところですよ。好きな物を好きなだけ食べたり、好きなだけ体を動かしたり、好きなだけ趣味に没頭したり。もちろん何もしないでただぼーっとして一日を過ごすこともできます」
「なるほど」
欲望のままに生きるってのも悪くないな
しかも飽きたら転生ができるってのもでかい
「そして最後になりますが異世界への転生ですね」
「異世界?」
我ながら食いつくのがかなり早かったと思う
ライトノベルとかアニメとかでよくある転生ものと言うやつだろうか
正直ベタな展開と言えばそうだが自分がその立場になると言うならワクワクが止まらない
「はい。俗に言うパラレルワールドみたいなものです。…あぁ、貴方様の想像通りの異世界ですよ。魔王軍が侵略しておりその地の民は日々苦しんでいます。魔法や剣術が優れている者が上位者になれる、そんな力が全ての世界です。
異世界に転生した方には魔王を倒した時特別になんでも願いがひとつ叶う特典も得られます」
「おお…!!」
「興味がおありですか?…ふふっ少年のように目を輝かせてしまっていますよ」
エノの言葉に我に返り俺は前かがみになってしまった姿勢を戻す
いや、在り来りな展開だからこそ聞いておかなければいけないことがある
「もし異世界転生を選んだ場合はこの後転生の特典とか貰えたりするんですか?」
「えぇもちろん。我々天界の者の力で貴方様にはこちらのパンフレットの中にある特典が与えられます。」
エノから渡されたパンフレットに目を通す
あらゆる魔法を使いこなす大賢者、大賢者よりも使える魔法が減るものの特典の中でも魔力量が最大級の大魔力、剣を握れば自分がイメージした通り動くことが出来る大闘士などなど
なるほど、与えられる特典が不憫で酷い目にあうことも無さそうだ。
一通り見てみたがどれも欠点なしでチート級の特典だろう。
異世界に行ってすぐに死んでしまっては近い期間に2回も死ぬ可能性があってトラウマになるわけだし普通に考えればそうか
ちなみに異世界に行くと言ってないのに特典を見てしまっていいのかと聞いたところ特典の内容で決める方もいますからと言われた
どうやら転生するのは俺よりも前に何人かいたらしい。まぁこの時にはもう既に心の中では異世界に行くことを決心していた訳だが。
まぁやっぱり異世界に行くからには魔法だよな
しかも色んな種類の魔法が使える方がいい
「この大賢者って特典欲しいです」
「はい。かしこまりました」
エノはニコッと笑う
「異世界の言葉はご心配しなくとも日本語となっていますので読み書きについては問題ございません」
エノがパチンと指を鳴らすと床に魔法陣が突如現れ光り始めた。
「では大葉優斗様、貴方様が本当に魔王を滅ぼすことを我々は願っております。どうかご無事でーー」
光が強くなるにつれエノの言葉が小さくなっていく
俺は異世界に行けるという事実に興奮していた
…そう、興奮していたからこそ、欠点なしのチートを持っているはずの転生者が少なくとも数人はいるはずなのに魔王が倒せていないのか、どうして異世界なのに日本語が共通語となっているのか。それを確認することを忘れていたのだ
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