第8話 告白
ハマった。完全にハマった。潮朝陽に。推すしかない。
「お疲れさま、もう里奈を下していいよ。」
着替えた朝陽が現れた。もう客席には誰も残っていなかった。ステージでは撤収作業が行われていた。
「朝陽、お前、かっ……」
それ以上、言えなかった。カッコ良かったよ、と自然に言おうとしたのに。朝陽は抱っこバンドのバックルを外し、横の椅子に里奈を寝せ、おむつを取り替えた。そして何やら飲ませている。赤ちゃん用のコップで。
「お前、よく育て方を知ってるよな。どうやって知ったんだ?」
「母ちゃんに教えてもらったんだよ。姉ちゃんの葬儀の時に鳥取に行ったからさ、その時。」
片づけを済ませると、朝陽は自分で里奈を入れた抱っこバンドを装着した。
2人で、もとい3人で外に出て、しばらく目黒川沿いを歩いた。天気が良く、気持ちが良い。
「お葬式は鳥取でやったのか。」
「そう。ご遺体を霊柩車で運んでもらったの。知ってる?霊柩車って高速道路も走るんだよ。」
朝陽に言われて、そういえば高速道路で霊柩車を見かけた事があるのを思い出した。
「姉ちゃんさ、妊娠した事を家族に言わなかったんだ。生まれてから報告してきて、そりゃあびっくりしたよ。」
朝陽の姉は、何故妊娠した事を言わなかったのだろうか。結婚できない相手との子供だから、か。どんな相手だろうか。やっぱり……不倫だったのだろうか。
「これからさ、休日にダンスの本番とか、練習がある時には俺が里奈の面倒を見るよ。ベビーシッターは勿体ないだろ?」
そう切り出すと、朝陽はポカンとした表情で見つめてきた。
「え、なんで?」
「だって……その、気に入ったというか……好きになっちゃったというか……ハマったというか……」
言葉を濁していると、
「ちょっと、里奈はダメだよ。里奈の事は…」
「おいおい、何を言ってるんだ。いくら女の子に興味があるとしても、赤ん坊にそういう感情は起こさないだろう?」
「じゃあ、なんで?」
「里奈じゃなくて……だから、朝陽に。」
「ん?」
「だからぁ、朝陽のダンスにハマったから!俺は、朝陽の事が……好きになったから。」
これ以上言わせるな。朝陽は立ち止まった。合わせて立ち止まる。
「あーう。」
里奈が一言、大きく声を上げた。思わず噴き出した。拍子抜けする。今、真剣に愛の告白をしているのに。朝陽もクスクスと笑った。
「俺、面倒くさいでしょ?」
笑いながら、上目遣いで言う朝陽。
「いや、そんなことはない。俺がお前の面倒も、里奈の面倒も見る。絶対に幸せにするから。」
「え、プロポーズなの?」
「そう、おおかた、そう。」
だが、朝陽は本気にせず、相変わらずクスクスと笑っていた。
「とりあえず、今夜もいい事しようか。今日のお礼も兼ねて。」
朝陽が軽い口調で言った。
「そんな、お礼とかじゃなくて。」
言いかけたが、やっぱりとりあえず「いい事」はいただいておこうと思い、口をつぐんだ。
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