賞味十分の積み重ね
STORY TELLER 月巳(〜202
短編.賞味10分の積み重ね
この時間が一番の幸運で幸福でもう、これ以上望んでも——ねぇ?
手に入らない、ショーウィンドウ越しの服とか眺めるだけみたいに期待する分だけ、ショック受けてしまうから。
そうやって諦め癖がついて随分諦めてきたのにまた、次を心待ちにする自分が嫌になる。
欲しいのに、欲しいと言えないのも。
言わないくせに欲しいのも。
人付き合いというか、打ち解ける努力も保つ努力も先が見えなくて、頑張り疲れて全て捨てたら子供がいないうちにと、離婚することになった。
『どうせなら、今のうちに、ほら妃登美だって若いうちに次の相手探せる方が良いだろう』
そんな、元夫は今会社の同僚である新人の子と付き合うためにと言って離婚届を渡して言って、さっさと出て行った。
浮気をしていたかは確かめていないが手切れ金としてこのマンションはやる、なんて言ったがコレは私がさっさと買ったものであり。
室内の家具も私が一人暮らし時代から持ってきたものがほとんど。
もしかしたら、慰謝料?
と言う話し合いをして関わり続ける事も、またその支払いのお金を払うような金遣いでない事は結婚してすぐ分かっていて。
下手にずるずるお金の無心に現れたりされてもと思い、弁護士の友人に相談や立会いをお願いし、関わらない一筆をもらい別れた。
本当は。
元夫の彼が知る、このマンションを出る方がいいなと思うが、そう簡単に売却やらなんやら出来る、氣はしばらく湧きそうもない。
離婚も、引っ越しみたいに。
予想以上に疲れ果てる作業なんだなぁと思いながらも、毎朝出勤し仕事をし。
とりあえず、ルーチンをこなす。
暇があると考えてしまうから、残業をできるだけ引き受け、仕事以外はわずかにいる友人とたまに食事、もしくは外食と過ごし、疲れさせて寝る、休日は出ない。毎日にご飯作る、そのために買い物行くなんかが億劫で。無いと食べるのを抜くためにある日倒れ貧血になり。仕方なく勧められて、宅配弁当頼む事にしたのがつい数ヶ月前。
幸い元夫とは別会社にいる私にとって。
付き合うべきな彼の会社の人、彼の友人ら彼の実家や親戚付き合いなどしょっちゅううちに来た人の全ての縁が切れ。
残りは古くからの友人と自分の家族そして。
「宅急便でーす」
「はーいちょっとお待ちくださーい」
定期購入品を届けてくれる宅急便ドライバーさん、なのだけど。つい先日、今までの人とは違い戸惑い無言と頷きで荷物を受け取りしてしまい。
また、あの気まずい人だったと分かっていても戸開け直接見ては氣まずさに身体が固まる。
こないだまでは、お元気な笑顔にこやかおじいちゃん、みたいな人だったのに若い男性になると、途端に話して良いかわからない。
職場は女性ばかりで数名いる男性も五十路超えで管理職会うことがない人ばかりの私には、一見すると大学生くらいの子なんて逆に荷物持たせるのに罪悪感さえ湧く。
とは言え。なんとかインターホンで声を掛けてから玄関に行き一呼吸置いてから荷を受けありがとうとなんとか口にする。
はめて外す煩わしさからストッパーかけず身体て閉まる扉を押さえながら荷を運ぶ時扉を押さえながら大丈夫ですかと言うドライバーさん。
二回目のこの人は今回も重いから中まで運びましょうかと言うのだが、それを断り運ぶわたしを見守る様にして、それからサインをと言い、最後ありがとうございましたと帰って行った。
大丈夫ですか?
重いから氣を付けてくださいね?
本当に大丈夫ですか?
何度も客と配達ドライバーさんとして会ってその度、年配の方、ではなく。
青年、松下市さん(変わった苗字で、すぐに覚えてしまった)が、毎回、氣遣いをしてくれるのには恥ずかしくて困るのだが。
氣にしないでと言うもまた次回も言うので、身体がこそばゆいのを出すまいともじもじしたいを噛み殺す、新たなチャレンジになった。宅急便頼まないは出来ないし慣れていくしか無いなあと。
「出るの辛かったりしたら置き配しましょうか?」
たまたま絶不調だった上に友人が送り付けたらしい荷物、それを先ほど送ったと連絡が入り、思わず言ってしまいまして、と言うべきなのか少し悩む。
まさか、玄関先まで且つ荷物は松下市さんの会社の宅急便で来ていて、そして。
「クッソしんどいのにっ」
はっきり毒吐いて言った、あとすぐのチャイム。とりあえず氣遣い視線がいつもよりウォーミーと言うか湿っぽい感じで。
いつもはっきり断りしていた室内への荷物運びましょうかと言う声掛けを流石に大丈夫ですと言えない。
「上り框上、そこでお願いします。」
「わかりました」
サインして、玄関扉に鍵をかけ直ししゃがみ込む。少し、やっぱり怖かった。
だけど震える姿は見せずに済んだ、その筈だ。
次からは言葉にも氣を付けて、そしてやはりキッパリ入って貰うのは断ることを決め。
落ちついた所で荷物を整理して、贈り主にクレームを入れようと決める。
とりあえず、邪魔にならない場所に物を寄せ、布団に入り一眠り。
『えーっ素敵じゃな〜い』
目が覚めて楽になって電話。
耳だけじゃなく頭まで響くので、携帯電話に声デカい、やめてほしいと言い遠ざける。
何やら向こう側には友人とその娘がいて。
なんやら二人キャッキャした声が、
その話詳しく聴かせてと言ったが、そもそもしんどいので。
とりあえず、突然送るなだけ、念押しし、こちらから切る。
ケチじゃない、寝たいですよ。
大体今更家に籠もりがちな私に出会いはないし、紹介も頼んで無いし、はたまたロマンスなんて、始まらない。そうでしょう?
一度。
前の担当者の事を尋ねたら、その人が辞めた事と、何故かその人の方がいいですか?と言われ口を尖らせた姿に。
可愛い、と思いは、した。したが。
先日話さない私にと写真付きメール。
titleはそのまま週刊記事みたいな【今宅急便男子がアツい】と。で写真と、ネット記事のURL。
制服萌えなりと、添えた友人のメールを開けた事を後悔する。中身がない。謝罪もない。
しばらくアドレスブロックしておこう。
うっかり見た記事の冒頭、可愛いから始まる恋、と何やら実ったカップルの馴れ初めを読んでしまい戸惑い、消せば良いメールは消せず、置いた自分にもびっくりし。
曜日を確認して配達日じゃ無い事に安心し、ガッカリもし。
休みだからの二度寝が、出来ないくらい目が冴えて、溜まり過ぎていた洗濯を始める。
まだ本調子じゃ無いのに、寝れないし、洗濯機を回すは良いが洗剤入れ忘れかけるし。
何より。
異性を想うことが、久しぶりで。
たった10分程ですら回数を重ねたら、初めてより、少しずつだけど対男性への震えそうな怖さが薄れてきたようで。
松下市さん、じゃなくても、誰かしら私は次自分が一緒にいたい人が出来て。そしたらそれは良いかもと思いつつ。
次配達が来る曜日は一度と思い髪を整え、仕事用の化粧をし備える。
それは、もちろん何か良い事起きないかなと言う仄かな期待ってわけだけど。
今までで一番冷たくて、そさくさ、慌ただしく去って行った。目も合わないし律儀に荷物運びましょうかと言うもなく、急いでいてでも忙しい時期だからと前遅れた時頭を下げて、序でにいつが忙しいか話していた、その月その時ではなく。
ただ、早く立ち去りたいと言う感じに彼が帰ってからもしばし、呆気に取られていた。
何か、私は松下市さんに不快な事をしたのだろうか。
洗面所の鏡で見た私の顔はもしかしたら少し濃すぎた、かな程度。とは言え濃いのが嫌な人もいる。
まさか、裏目に出るならしなきゃ良かったのかもしれない。おばさんが張り切って目に痛い感じだったかもしれない。いやスウェット部屋着からちゃんとしたブラウスと化粧に別人に見えたとか?
失敗した原因の予想は沢山あるが。
残念ながら、次があるのである。
どうするかが問題、いっそ置き配することにする?
なんとなく。
プリンが食べたくなり久しぶりのスーパーへ、と言うか配達で会う勇氣が出ず逃げた結果買いに来たのだが、夫と別れ話をした季節から幾つも過ぎて季節飾りに時空飛んだ人みたいな氣分。店内もいつの間にかリニューアルし配置換えされていて、探し物がいつもの場所に無い。オロオロする。
切らしていたトイレットペーパーとボックスティッシュを買った帰り道重さに食い込む持ち手を持ち直し。
ふと顔を上げた道の先、見慣れた癖毛に長身を見かけて慌ててルート変更。他人の振りしてなど顔を伺い見る勇氣はない。他人だと思う。だけど、じゃなかったら気まずい。
そっと帰る。
まさかね。
スーパーに慣れ、宅急便利用を減らし、それでもうちには誰かから荷物が届く。
田舎の両親は郵便局しかないからと使わないが、地方に住む制服萌え中と言う友人の利用は松下市さんのいる、某社。
箱で貰ったみかん一個も食べられないからと送ったその連絡は到着後。
チャイムで出て受け取りの時持って出た携帯がピローと鳴り。
気まずい顔を合わせていて困った私はこれ幸いと断り、電話に出るが。
スピーカーモードでも無いが全て丸聞こえで宅急便男子はどうだと言い始め慌てて切る。
「あの、ごめんなさい」
謝ると相手も、何故か謝る。
「こないだはすみませんと言うか、何時も失礼して申し訳ありませんでした。その……彼氏さんか旦那さんか、もしくは誰かあの日おられたんじゃ無いかと思い」
確かに彼氏や夫がいたら、人によっては他の男と関わるなんて断るよなと思いましたと言う。
「いや。その、あの日実はたまたま化粧したくなってと言うか。今は夫と別れたし氣にする異性もいないのよ、だから氣にしすぎ。」
「あ、そう?ですか?本当に」
実はあなたの為でしたと言うのはなあと、そこは濁しつつ勘違いだと伝える。
「そうですか?」
「そうですよー」
じゃあ、また宜しくお願いしますと彼は言い。さて私も腕の中の荷物を運びましょうと言う時に。
再度振り返る松下市さん。
「あの、先日〇〇スーパー居ました?」
「え」
氣付いたら荷物持ちしたいなと思いましたが、あんな綺麗にして会う彼氏さんとか誰か居るよなと思いながら見送ってしまって。
近所なんは、配達してるから知っていたけど前は見かけなかった筈だなと思ってと。
「見かけたら、声掛けてくださいねー?男手が、いる物ってありますし美人の為なら、ね?助け甲斐があるから」
それではと今度こそ帰って行くを確認し。
言われたことを思い返して褒められた事に氣付いたが、はたと我に返る。
寝癖バリバリだわ、褪せ切った柄の掠れたTシャツだわ、他諸々人に見せる格好じゃないのに次は叫びたくなる。
どこをどう見て褒めたんだ?だよなぁ。
と言うか私は女性と言うか人間として身だしなみアウトやんて。ねえ。
いやいやいや、やっぱロマンスは始まらない。いや始めらんない。
ともかく、まずは美容院?
いやうっかり着ないようにお見せできない服は断捨離?
まずは始める準備をします、から。
視界に入れる準備から。
こ、んな気持ちは確かに久しぶりの恋だって認めるしかないがマイナススタート過ぎて。
多分歳の差バツイチ、色々あり過ぎだけど。
無駄かもしれない、いや彼女がいるかもしれなくても。
やっぱロマンス、してみたいかも。
もう一度。
-お仕舞い-
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