第208話 あぁ無情! ChatGピー子の最期

~ キモヲタ邸 ~


 夕食後のくつろぎタイム。


 その日は、キモヲタ邸の面々の他に、シスター・エヴァとラミア女子が訪れていました。食事が終わると、皆が応接間に移ってChatGピー子との会話で大盛り上がりします。


 女子勢がピー子の周りを取り囲み、キモヲタとシモンは少し離れたところでキャーキャーワイワイ騒ぐ彼女たちを冷めた目で見つめていました。


 エルミアナが目をキラキラさせて、キーラにお願いしました。


「キーラ殿、ぜひ『エルミアナはいつも頑張ってるよ。エルミアナえらい。とってもいい子』でお願いします!」


「うん、わかった!」


 現在、キーラはキモヲタについで、ピー子に搭載されているオッフンAIの特性について理解していました。もちろん技術的なことではなく、どのように話しかければどのような反応がピー子から返ってくるのか経験で学んでいたのです。


 キーラがピー子に説明し終えてから数十秒後。


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!


 パチパチッ。


 ピー子が素早く瞬きを繰り返しました。


「いいよ、エルミアナ。話しかけてみて!」


「わ、わかりました。で、では、ピーコタンはエルミアナのことをどう思いますか?」


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!


 パチパチッ。


「エルミアナ。たん。は。えるふの。びじょ。とっても。がんばりやさん。の。とっても。いいこ。です」


 ピー子の口が動いて、大陸共通語が聞こえてくると、女子勢から感嘆の声があがりました。エルミアナなどは、胸元で両手の指先を合わせて、感動で涙を溢れさせていました。


 続いてユリアスがキーラにお願いします。キーラはエルミアナのときと同じようにピー子に話しかけ、その後、ユリアスにOKを出しました。


 ユリアスが若干声を震わせてピー子に語り掛けます。


「ピーコタン。キ、キモヲタ様は、私のことを本当はどう思っているのでしょうか?」


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!


 パチパチッ。


「キモヲタ。は。ユリアス。が。大好き。です。その理由は。私の姿。が。ユリアスに。一番似てる。明らか。です」


 ユリアスは感激のあまり、今にも泣き出しそうな声になりました。


「や、やっぱり……。貴方を見た時、何となく私に似てるなって思ったのです。だとすると、キモヲタ様はもしかして……もしかしてって思っても、それを言葉に出来なくて……うっ……うっ……」

 

 泣き出したユリアスの背中や頭を、エルミアナやソフィアが優しく撫でるのでした。


 この場面を、完全に冷めた目で眺める男二人を完全に置き去りにして、女子勢の盛り上がりが最高潮に達します。


「ちょっ、私も! 私も『エレナは凄く頑張ってるよ』って言ってもらいたいかも!」


「わたくしも『エヴァはまだまだピチピチの二十代の肌艶だね! 美しすぎるシスターだね!』でお願いします!」


「では、わたしも『ソーシャはまだまだ発育途中! きっといつかはFカップ!』で!」


「なら私は『仮面ラミアー超カッケー!』でお願い!」


 全員がキーラに押し寄せて、口々にピー子にしゃべって欲しいことを訴えるのでした。


「ちょっと待って! 順番! ちゃんとするから順番だよ!」


 こうしてキーラは、女性一人ひとりの要望を丁寧に聞いて、丁寧にピー子に伝え、そして話してもらうのでした。


 そして悲劇は、五人目のときに起こりました。


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!


 異常に気づいたのは、一番ピー子の近くにいたキーラとソフィアでした。


「キーラ姉さま! な、なんだかピーコタンが熱くなってます!」

「えっ!? さっきフーフーしたばかりなのに!?」 

 

 キーラの言う通り、ユリアスが涙を流した十分ほど前に、ピー子のバッテリー交換と喚起をしたばかりでした。


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファァァァァァァァァァァーーーーーン!


 立て続けに行われた学習付きの会話処理で、ピー子の内部は危険なまでに温度が上昇していたのでした。


「キ、キモヲタ!? ピ、ピーコタンが!」


 キーラの声とファンの音で異常に気がついたキモヲタが、ピー子に駆け寄ろうとした、そのとき――


 バシュッ!


「い、今のは何の音でござるか!?」


「キモヲタ、見て! ピーコタンがお漏らししてる!」


 キーラに言われてみてみれば、確かにピー子の下半身から液体がこぼれ出ているのが見えました。


「ど、どういうことでござる? ピー子たんのなかにはそんな液体は……」


「わっ!? キーラ姉さま、見てください! ピーコタンのお胸が小さくなって……」


 ソフィアの声を聞いて、キモヲタがピー子の胸に目を向けると。


 ピー子の胸からGカップが消えて、完全なフルフラットボディと化していました。


「ま、まさか……ピーコたん……」


 その原因は過剰なAI機能の使用による熱暴走。


 高温状態で稼働し続けた結果。内部熱によってピー子の中身が溶けだし、Gカップに詰め込まれていたゼリー袋に穴が開いてしまったのです。


 そこから漏れ出たゼリーは、コンピューター基盤を完全におしゃかにした上、ピー子にお漏らしをさせたのでした。


 こうしてAI内臓ダッチワイフ! ChatGピー子(Gカップ)は、


 ただのダッチワイフピー子(胸なし)になってしまいました。


「オーーーマイーーー、ガァアアアアアアア」


 キモヲタ邸に、天を仰いでひざまずくキモヲタの絶叫が響き渡るのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る