第205話 餡子、餡子、乙、π、なめちゃ駄目ぇぇ!

~ キモヲタ邸 応接間 ~


 ChatGピー子が応接間に設置されて以降、なかなか二人きりになることができないキモヲタ。


 ところが今日のお昼に限っては、色々な偶然が重なって、これから夕食時までは応接室をキモヲタ一人で独占できるという状況が整ったのでした。


「デュフフ。今頃、女性陣はシスター・エヴァに連れられて、どこぞの貴族のレストランで女子会を繰り広げていることでござろう。執事夫婦と息子も一緒ゆえ、夕方まで、この屋敷には我輩ひとりでござる! デュフフのフ!」


 キモヲタはピー子の背中に回って、充電済みバッテリーと交換し、スマホを操作してピー子を起動します。

 

 ファァァー--ン!


 ピー子の中の冷却ファンが回転し始め、ピッ! ピッ! ピッ!と小さなビープ音がして、徐々にシステムが起動していきます。


 ピピッ!


 システム起動の完了を知らせる音に合わせ、キモヲタは両手の人差し指を使って、


「ほれ、ポチッとな!」


 ピー子のメイド服の上から、おっぱいをツンとつつきました。もちろんその行動は起動に何の関係もありません。


 パチッ!


 そのタイミングでピー子のまぶたが開きます。


「オッフンAIへようこそ。なんなりとご用命をお申し付けください」


「デュフフ。それでは今のうちに、ピー子にはエッチな言葉を覚えてもらうでござるよ!」


 ピー子を購入する際、AI機能は2つのオプションが用意されていました。ひとつは、事前に声優さんによって録音された生ボイスを、AIが状況を判断して再生するボイス固定タイプと、もうひとつはAIに学習させることによってAI自身が合成音声を生成する自由学習タイプです。


 予め録音されている音声だけではきっと飽きるに違いない。それならば音質が劣るとしても、自由度が高い自由学習タイプの方が良いとキモヲタは考えたのでした。


 ChatGピー子の購入者レビューには「絶対に声優さんの声の方がいい」「自由学習モードはクソッ!」などと散々書かれていたのですが、キモヲタは「使いこなせないお主らが羽虫なのでござる」とタカを括っていたのです。


 そしてキモヲタは、ピー子の学習ステップ一歩目にして、彼らが正しかったことを理解させられるハメになるのでした。


「えーっ、それではピー子たん。今から我輩の話す言葉を覚えるでござるよ。では……」


 キモヲタは、ピー子の内臓マイクがある喉元に顔を近づけ、大きな声で言いました。


「キモヲタに触られて! わたしのおっぱいが喜んでりゅぅぅ! おっぱいキモチイイのぉおお♥」

 

 そんな言葉を口にした直後、ちょっと素に戻ってしまい恥ずかしくなって赤面するキモヲタ。


 気を取り直してピー子に指示を与えます。


「はい。今のを復唱するでござる」


 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 ファーーーーーン!

 

 AIの内部でどのような処理が行われているのか、冷却ファンが激しく音を立てて回り始めました。


 ピー子の鼻息から噴出する熱気を顔に受け、期待を高めるキモヲタ。


「ごくり……」


 パチパチッ!


 とピー子が素早くまばたきをしたのを見て、キモヲタは処理が終了したことが分かりました。


 そしてピー子の口が静かに開き、生録音の女声が流れてきました。


「ご指定の内容は、オッフンAIのコンテンツポリシー及び利用ガイドラインに抵触するものと判断されました。この判断に異議がある場合は、弊社サポートセンターまでご連絡ください」


「はっ? 我輩の指示の何が悪かったというのでござるか? まさか『おっぱい』とか言ったからでござろうか? いやいやダッチワイフに搭載されているAIが『おっぱい』が使えないとか……ウソでござろ!?」


 ウソではありませんでした。


 ピー子のAI自由学習タイプオプションは、オッフンAI社が公開しているAIのコードをカスタマイズもチューニングもなしに、そのまま搭載していたのです。


 誰もが自由に利用できるように公開しているAIとは言え、オッフンAI社が想定しているのは教育や研究といった目的での利用。他のあらゆるAIと同様に、エロ・グロ・暴力・宗教・政治目的での利用制限が、デフォルトとして組み込まれていたのです。


 それでもめげずにピー子にエロいことを言わせようと、キモヲタは頑張り続けました。


 そして、その結果――


「あーん。あーん。おっぱいなめちゃだめぇぇ」


「よ、よしっ! ギリ聞こえるでござる! もう『餡子、餡子、乙、π、なめちゃだめぇ』でいいから覚えるでござるよ」


 フーッと額の汗をぬぐい、謎の達成感に包まれるキモヲタ。


「旦那、なにやってんすか?」


「うひぃっ!?」


 背後の声に驚いて振り返ってみれば、そこには元兵士のシモン(27歳 婚約中) が立っていたのでした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る