第121話 カザン王国の首都? はっ? うちの首都の方がずっと大きいでござるが?
ボルギノールからの追手を、返り討ちにしたキモヲタ一行。
追手から奪った……正当な取引で得た十頭もの馬を引き連れて、王都に到着しました。
「いやぁ、それにしてもカレー十袋と馬十頭の取引を成立させるなんて、もしかして我輩の商人スキルってレベルMAXだったりするのでござろうか。デュフコポー」
「脅してたよね?」
自慢気に笑うキモヲタに、すばやツッコミを入れるキーラ。そんな二人の様子を見たエルミアナが苦笑いを浮かべました。
「確かに脅迫にも見えなくはありませんでしたが、命の代償と考えれば彼らにとっては良い買い物だったのではないでしょうか」
キモヲタは追手たちに対して、もし次に目に入ることがあれば、永遠にお尻の痒みに苦しむことになると脅していました。その恐怖とお尻の痒みに、震えながら地面にお尻を擦り付けている追手たちに、キモヲタはカレーと馬の交換を提案したのでした。
「キモヲタ様、カザン王国の首都が見えてきましたよ」
馬上のユリアスがキモヲタたちを振り返って叫びました。キモヲタは乗りなれない馬に必死でしがみつきながら、ユリアスのいる丘の頂上へ進みました。
キモヲタの横をすり抜けるように、同じく馬上のキーラが駆けていきました。エレナの御する馬車の後ろでは、同じく馬上のエルミアナが6頭の馬を羊飼いのように誘導しながら、ゆっくりと進んでいます。
その6頭の馬にも追い抜かれて、さらにしばらくした後、キモヲタはようやくユリアスの隣に馬を並べることができました。
高台から眺めるカザン王国の首都アズマークは、白い石で組まれた街並みがどこまでも広がる雄大な都でした。
その本来の姿は、まさに異世界の聖都とでもいった輝きを放つ光景になるだろうということは、キモヲタにも想像がつきました。
ただし、戦争による被害はこの高台の上からでも、はっきりと見て取ることができました。未だ崩れたままの建物や、焼け跡が随所にみられ、同時に、建設中の建物も多く見られます。戦争の爪痕と復興の息吹が混在する光景でした。
東西が交流する要所でもあった首都は、異なる文化が融合した独特の建築様式が目を引きます。そうした建物にも所々に焼け焦げた廃墟が残り、これまでの苦難が刻まれていました。
「これぞ、まさに異世界! これほど雄大な首都をもつカザン王国とは、大国なのでありましょうな!」
興奮するキモヲタを見て、ユリアスは微笑みながら言いました。
「キモヲタ様が楽しそうでなによりです」
「へっ? そ、それはどうもでござる?」
そんな二人のやりとりを聞いていたエレナが、からかうようにキモヲタに言いました。
「アハハ、ユリアスは、キモヲタが田舎者だってことを柔らかく言ってるのよ。これくらいの都を見て驚いているようじゃ、アシハブアの王都ハラルバルトをなんて見たら腰抜かすわよ」
「そ、そうなのでござるか!?」
「い、いえっ! 決してそのようなことは! た、ただエレナ殿のおっしゃる通り、ハラルバルトはここの数倍は大きな都市であることは間違いありません」
ユリアスの言葉に驚いたのは、キーラでした。
「ええぇえっ! 本当なの! ユリアスは行ったことあるの!? 聞いたキモヲタ!? ここよりもっと大きい都なんてボク想像もできないよ!」
興奮しつつキモヲタの服を引っ張るキーラと、なんだか上から目線のエレナに対して、キモヲタは前世で自分が暮らしていた地方都市の凄さを思い切り語りたい衝動をなんとか堪えるのでした。
(ぐぬぬ。前世の話をしたところで、それを見せることが叶わぬ以上、我輩の妄想と切り捨てられてしまうに決まっているでござる。ぐぬぬ)
そんな心の葛藤と格闘しているうちに、キモヲタ一行は無事に首都アズマーク入りを果たしました。
首都の南門をくぐったすぐにある南区中央広場では、魔法と科学を融合した新たな建造物が威容を誇り、その周囲で露店が賑わいを見せていました。
その東側には巨大な魔法院がそびえ立ち、西側には戦争記念碑が立てられ、その周りには花を手向ける人々の姿が見られました。
宿をとった後、ユリアスは報告と今後の活動の手続きのためにアシハブア王国大使館へ、エレナとエルミアナは馬の売却に向いました。
残されたキモヲタとキーラは、とくにすることもないので、一緒に街を散策することにしました。
街路には、人間だけでなく様々な種族が行き交い、活気に満ちた雰囲気が漂っています。しかし、その表情には戦後の疲れと希望が入り混じり、復興への道のりがまだ遠いことを感じることもありました。
迷子にならないように、キモヲタとキーラはなるべく大通りをまっすぐに進むことにしました。
通りには数多くの店が軒を連ね、崩れた建物の前にも多くの出店が並んでいました。
「せっかく追手の皆様から奪った……ぴんくのふにふに(中古)と交換した金貨もあることですし、買い食いでもするでござるか。キーラたんも何か欲しいものがあれば、言ってくだされ」
「キモヲタ、本当!! じゃあね! じゃあね! ボクが欲しいのはね! えーっと、えーっと……」
それから約4時間、キーラは尻尾をブンブンと振り回しながらキモヲタを引っ張って、大通りにあるすべての店を巡るのでした。
その日のうちに2キロの減量に成功してしまったキモヲタなのでした。
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